頭がぼーっとした。
頬が熱くて、どことなくふわふわ〜とした感じ。





「まったく、自分の体調管理くらいしっかりやっておけ」

「…返す言葉は…ございませんね…」





いつも竜の仮面を被り、あまり素顔を覗くことの無い彼。
だけど今、その仮面は無い。

しかと映るその視線とお咎め。

私はそれらから逃げるようにもそもそっと布団に包まった。

場所はバロン城のとある一室。
その日、私は体調を崩して自室のベッドで休息を得ていた。





「いやー…風邪ってこんなにクラクラするもんなんだね…。しばらくぶりで、ちょっと頭痛がするな〜くらいにしか最初思って無かったよ」

「…お前、それは馬鹿は風邪を引かないの典型例だ…」

「…ね。あれって気が付かないって意味なんだよね」





またも言い返せない…というか、自分でも認めてしまっている悲しいところ。

今現在、私は風邪をひいていた。

今朝、何気なくいつも通りにカインと軽く話しをしていた。
だけどその時、カインがふと言った。「お前、顔が赤くないか」と。

そんなことを言われても、私は「え?」と返すくらい。
何か違和感を覚えたらしいカインが、私の前髪を掻き分けて額に触れてきて…そして彼はこういった。





《ナマエ…熱があるぞ》





そこで初めて、私も自分が発熱しているという自覚を得た。





「ナマエ、大丈夫かい?」

「お粥、作ってきたわよ〜」

「あ、セシル!ローザ!」





そんなこんなで、ベッドでごろごろしていると。
扉からノックと、ゆっくり開く音がした。

カインと一緒に振り向くと、そこに覗いたのはセシルとローザの顔。

私は軽く上半身を起こし、来てくれたふたりに笑顔を浮かべた。





「気分、どうかしら?」

「んー、まあまあかな。ちょっとぼーっとするくらい」

「食欲はある?まあ、薬を飲まなきゃだから…無くても食べて貰わなきゃ困るんだけどね」

「うん、わりとあるよー。ローザそれ作ってくれたの?おいしそー!ありがとう」

「ふふ、どういたしまして」





傍に来て、お粥を乗せたお盆を渡してくれたローザ。

ほかほかの白い湯気が、おいしそうな香りを乗せてゆらゆらと鼻をくすぐる。
本当においしそうで、私は思わず自然と頬をほころばせた。





「食欲があるなら良かった。ナマエが風邪ひくなんて珍しいよね。僕、ビックリしたよ」

「あー、それねー。今ちょっとカインとも話してたんだけどね」





セシルに言われて、やっぱりかと思った。

事実、私は子供の事から何かと丈夫な子だった。
気温が下がろうが、通り雨に降られようが、いつもケロッとしているような。





「案外、今までもひいていたが…気が付いていなかっただけだったりしてな」

「それだったら本当にお馬鹿さんだよねえ…ちょっと否定できないところが虚しいんだけど」





本当、今日の感じを見ていると…本当にそうだったんじゃないかって思えてきちゃうから微妙な気分だ。

今のカインとのやりとりでセシルとローザも大方の話を掴んだのか、ふたりも小さく苦笑を浮かべていた。

でも、今の部屋の状況を見て、ふと思う。
小さな部屋にわざわざ訪れてくれた、カイン、セシル、ローザの姿。

わざわざ自分のお見舞いに来てくれたというその事実は、純粋に胸がほっと温まる。
私は周りの人に恵まれてるな…って、ちょっと嬉しい気持ちになった。





「さて…じゃあそろそろ僕は失礼するよ。ちょっと城下のほうに用があってね。帰りに喉に良い物でも買ってきてあげるよ」

「ほんと?助かる!ちょっと喉もごろごろするから」

「あ、じゃあ私も行くわ。また後でお盆取りに来るから。ゆっくり休んでね」

「はーい」





それからしばらくして、セシルとローザが席を外すと椅子から腰を上げた。

また後で来てくれるというふたりに手を振り、私はその背中を見送る。
するとドアノブに手を掛けた際、ローザが一度振り返った。





「カイン、貴方は?まだいる?」

「…ああ、そうだな」

「そう。じゃあナマエ、また後でね」

「うん。ばいばーい」





パタン…と静かに扉が閉まる。
その音を聞くと、私はひとり残ったカインに目を向けた。





「カインはいいの?竜騎士団とか」

「ああ。今日は特に何も無い」

「そっか。それならいいけど」

「邪魔か?」

「ううん。そんなことないよ」





ふるふる、と首を横に振る。
邪魔なら邪魔と言いますとも。

そんな風に話しながら、私ははむっとローザお手製のお粥を口に含んだ。

おいしそうな香りをそのままに、それを裏切らない。
あたたかく、優しい味が口の中にふわっと広がった。おいしい。





「幸せそうに食べるな、お前は」

「ふふふ、そう?うん、でもおいしーもん」





へらっと笑いでもしたのかもしれない。

味覚はわりとしっかりしてるかな。
あとでローザに「おいしかったよ〜」とお礼を言おう。

そんな事を考えながら、またぱくっと一口食べる。
食欲も普通だったし、ぺろっと完食してしまうのにそう時間も取らなかった。





「食べ終えたなら横になれ。お前は調子に乗ってそのまま読書でもしかねないからな」

「そんなことないよー。…あれ、残ってくれたのは私を寝かしつけるためですか?」

「フッ…そうだな」

「ええー…」





カインは小さく笑いながら、私を横にし布団を掛けなおしてくれた。

…ううん、なんだか少しくすぐったい感じだ。
別に嫌な気はしないんだけど…。





「熱…上がってはいなさそうだな」

「…うん」





布団に沈んだ私の額に、カインの手が触れる。

…そのぬくもりは、心地良いなと思った。





「早く治せ。お前が寝込んでいると、珍しい分、なにかと調子が狂うからな」

「ふふ…了解です。ばーっちり治す事だけ考えるよ。食べて、寝て…あと、何かあるかな?」

「病人はそれで十分だ」

「んー…あ、誰かに移すと早く治るって言うよね」

「……人の話を聞け」





ペシッと、熱を測った手で軽く叩かれた。
「…いて」なんて言うと、カインは小さく息を吐く。

そして、額からなぞるように手を上にずらし、ふかふかと髪を撫でた。





「だいたい、誰に移す気だ」

「あははは…さあ、誰だろう。カイン、試してみる?」





ふふ、とちょっとふざけて笑ってみる。
すると、私の上に影が差した。





「…カイン?」





耳の傍で、シーツのこすれる音がした。
それは、カインの肘が枕の傍に付いた音。

差した影は、カイン自身。





「フッ…なら、試してみようか」

「え?」

「果たして、迷信かどうか」





影が、色濃くなる。
思わずまぶたを閉じて、その感触に身を澄ます。





「…熱いな」





ゆっくりと、離れた感触。
まぶたを開けば、親指で己の唇をなぞる彼の姿があった。





「…本当に移しちゃったらどうするの?」

「…さてな」

「てきとー…。我らがバロンの竜騎士団隊長様に風邪ひかすとか洒落になんないよー」

「…そうだな。うつされたら困るかもしれんな」





ふわふわ、と…また、髪を撫でられた。
髪を他人に触られるのって、結構気持ちがいいものだ。

私は目を細め、ゆったりを彼を見た。





「…なんか、カインらしくないね」

「俺らしくない?どういう意味だ?」

「んー…なんとなく」





どう、説明したらいいのかよくわからないけど…。

でもこう、カインは結構真面目で、お堅い部分もある…というか、なんと言うか。
本当に移っちゃったら困るし…。こういう事…あんまりするイメージが無かったといえばいいんだろうか。





「フッ…そうだな。確かに…らしくないと言われれば、そうかもしれんな」

「…うん?」

「お前が病気をするなど、あまり記憶に無い事だから…思うより、驚いて…動揺してるのかもな」





カインはそう言いながら、変わらずに私の髪を撫でる。
ああ、なんだか…うとうとしてきたかもしれない。





「だから、早く治せ…ナマエ」





優しい、穏やかな声を聞く。
私はまぶたを閉じたと同時に、口元が少しふっと緩んだのを感じた。





「…うん」





小さく頷く。
そして、私はまどろみの中へ意識を落とした。



END


梨穂様リクエスト。

夢主が風邪を引いてしまい、カインが看病。
出来ればセシルやローザも登場…という内容で頂きました!

え、ええと…こんな感じで大丈夫でしょうか…!
バロンの3人組は私も好きなので、よっしゃあ出すぞー!と意気込んではみたものの…なんか無理矢理感が…!申し訳ないです…!

時期も謎ですねえ…。
ゲーム開始前くらいかな〜と思いながら書いてたのですが、まあ3人がバロン城に揃ってる時期であればいつでもOKです。(笑)

このような形になりましたが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
企画に参加してくださり、ありがとうございました!


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