アーロン
エボンの教えの歪み。
究極召喚の真実。
大召喚士ブラスカ様の旅の結末。
旅の中で、本当に色んなことを私たちは知った。
そしてそれらを知った上で、シンと戦う覚悟を改めて固めた。
でもそれはユウナのガードとして旅だった時とは明らかに違う思い。
そんな気持ちを噛みしめるように、私は飛空艇の窓からスピラの景色を眺めていた。
「いつまでそうしている?」
「あ、アーロンさん」
眺めていたら、声を掛けられた。
振り向けばそこにいたのは伝説と謳われる人。
…きっと、本人はその肩書をそんなに良いものとは思っていなさそうだけど。
いやでも、今ならその理由もよくわかる気がするのだ。
「いつまで…ですか?」
「何度かここを通ったが、いつまでもそこでぼんやりとしているのでな。気になった」
「あー…あはは、確かに。時間は結構経ったかも」
結構長い事こうしてるなあ…っていう自覚はあった。
でもなんだろう。振り返ると、思う事は尽きないなあっていうか。
今まで歩いてきたスピラの景色…。
しばらくは見ていられる気がした。
「旅のゴール…見えてきました。旅立った時には想像出来なかったゴールだけど、でも確実にそれが見え始めた。思う事が色々あって、そうするとなんだかずっとこの景色を見てられるんですよね」
「…そうか」
アーロンさんは私の隣に立って、同じように窓から景色を眺めはじめた。
スピラ…。
もうすぐ、永遠のナギ節がきっとやってくる。
あたしはちらっとアーロンさんの横顔を見た。
サングラスの奥は、じっとスピラの大地を見つめている。
きっとこの人にも…色々思う事があるんだろう。
「もうすぐ見納めだな」
「え…?」
その時、フッと小さく笑ってアーロンさんがそう言った。
そしてこちらをチラッと見ると「見すぎだ」と言われた。…そんなに凝視してたかな。
でも…そうだ。
この人にとってはもうすぐ、この景色は見納め…。
「フッ、異界土産に少し焼き付けておくかな」
「はは…成る程」
視線を外に戻したアーロンさんと同じように、私もまた景色を眺めた。
私はひょんなことからこの人の正体に気が付いた。
バレたならとアーロンさんも私の前では色々と話してくれるようになり、まあ…なんだろ、晩酌付きあったりとか…結構仲良しにはなれた気はする。
「…寂しくなりますね」
気が付けばぽつっと、そう呟いていた。
いやでも…それは紛れもなく本心だった。
「俺がいなくなったらか?」
「そうですよ」
「ほう…?」
「そりゃ、寂しいですよ」
この人は死人だ。
本来、この世界に留まるべきではない存在。
だから、全部が終わったら異界に行く。
永遠のさようならだ。
…だから、一緒に歩いてきたこの景色に、色んなことを思う。
でも。
「まあ、頑張りますよ。ナギ節はスピラ中の夢。だから私にとっても夢。そして、あなたの為に」
「……。」
「結構いろいろ話してくれたから、あなたの想いは結構把握してるつもりですよ、私」
「ああ…」
「だからそれを知って、手伝いたいと思った。だから私は最後まで戦います」
ニコッと、笑みを浮かべた。
うん。これも本心。
「…感謝する」
するとアーロンさんはそう言ってくれた。
小さな想いが胸にあるのを感じる。
言っても仕方がないから、口にはしないけれど。
だけど、役に立てる。
そう思うと、こんなに嬉しい事は無いと思った。
END
多分アーロンの話が思いついてやりはじめたシリーズ。
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