白い羽根を広げて


ウィルダネスで出会った純白のチョコボ、ヴァルハラの天使。
傷を負ったその子の看病をすることになったライトはエサや薬を集めては献身的にチョコボの寄り添った。

はじめはぐったりと失っていたチョコボ。だけど看病の甲斐あって徐々に体力を取り戻していき、そして今遂に自分の力で立ち上がれるほどまでに回復を果たしました。





『無理をするな、大丈夫か?』





突然立ち上がったチョコボに気遣いの声を掛けたライト。
でもその心配も無用とでも言うようにチョコボは2本の足でしっかりと一人で立っている。





『先生、頼む』

『ああ、診てみよう』





ライトは状態を診てほしいとギサール先生に頼んだ。
先生も頷き、すぐに診察を始めてくれる。

結果は上々。
先生はどことなく笑みを零し、ライトにそれを伝えてくれた。





『問題ない。人を乗せて走れるまでに回復しとる』





先生のその言葉通り、チョコボはライトを見つめながら首で背中を示してバサバサと羽根を広げている。
その姿はまるでライトに向かって背中に乗れと言っているかのように見えた。

そんなチョコボの仕草を見たライトも本当に調子が戻ったのだと安堵に少し表情を緩ませていた。





『それにしても…なんとまあ美しいチョコボじゃろうか。このわしの100年はすべてこの瞬間の為にあったんじゃ…ありがとう』





そして、ギサール先生はチョコボとライトを見つめてそう言った。

その体には輝きが集まり、光はライトの中へと消えた。
それはギサール先生の魂は解放された証だった。





「わあ、本当綺麗!ライト!やったね」





そんなやり取りを見てから、あたしはライトにそう声を掛けた。

純白のチョコボ。
出会った時は血が染みつき痛々しい姿をしていたけれど、すっかり回復した今はその白い羽根はキラキラとしているように見えて本当に綺麗だ。





『ああ。素人目だが、私から見ても問題は無さそうだ。元気になったな』

『クエ!クエーッ』

『そうか。良かったな』





ライトの言葉を理解しているかのように羽根を広げて飛び跳ねるチョコボ。
そんな姿がライトも嬉しい様でその口調は穏やかなものだった。





「チョコボが元気になって本当に良かったですね。早速ですけどチョコボに乗って女神の神殿に行ってみますか?」





するとホープがそんな風に提案した。

ヴァルハラの天使は選ばれた主を女神の神殿へと誘う。
ウィルダネスに伝わる伝説。

その伝説が本当かどうかはともかく、この子が足として活躍してくれるのは確実だ。





『そうだな。大いなる混沌とか言う伝説が気に掛かる。あの神殿は調べておきたい』





ライトはその意見に頷いた。
それを確認したホープはパネルを叩いて神殿の付近に関する情報を調べ始めた。
あたしも横からそれを覗き込んでいた。





「神殿のふもとにはポルタという集落があります。住んでいるのは女神エトロの信徒です」

「え!エトロの信徒!?」





神殿のふもとには女神エトロの信徒たちが暮らしている。
それを聞いた思わずあたしはギョッとしてしまった。





『救世院の教えに背く異端派の村か』

「え…なんか、大丈夫なの?ルクセリオの一件のせいで凄く過激なイメージが…」

「ああ、大丈夫だよ。異端は異端だけど、穏やかな人達だそうです」





ホープはあたしに軽く笑いながらライトにもそう説明をした。

まあ、ルクセリオの時の思想は誰がどう考えてもぶっ飛びすぎてるけど。
此処のエトロの信徒たちはそれとはまた別って考えていいって事か。





「救世院の弾圧をさけて街から移住。ひっそり暮らしています」

「んー…まあ確かにウィルダネスの人はわりと温厚なイメージついたけどね」

『訪ねてみるか。よそ者は嫌いかもしれないが』

「避けられたら素直に帰りましょうか。ポルタは奇岩地帯にあります」





とにかく女神の神殿は気になる場所だ。
ライトの中に訪れないと言う選択肢はきっとないだろう。

回復したチョコボに跨り、ライトは風を切る様に走らせる。

まずはその集落へ。
あたしたちは早速、ポルタというその集落を訪れることにした。





『お主、何処から来た?何やら不思議な力を感じる女性じゃの。ここは、女神の御許に最も近き場所。我らは女神エトロに信心を捧げる者よ。いつかこの身が滅び、女神の元に召される日を待ちながら静かに暮らしておる』





チョコボのおかげでそう時間を取る事無く辿りつくことが出来たポルタの集落。
そこは皆同じような服装をした独特な雰囲気のある場所だったけど、同時に穏やかな雰囲気も併せ持った場所でもあった。

辿りついてすぐ、ポルタの長に話を聞くことが出来た。

長は言う。ライトから不思議な力を感じると。
そして集落の空気にあった穏やかな口調で自分たちのことを話してくれた。





『元はルクセリオやユスナーン、そして今は混沌に没した街に住んでおった。だがある時、輝ける神ブーニベルゼの名のもとに救世の教えを説く連中が我らに危害を加え始めたのじゃ。武器を取って戦う者もおったが、わし等は戦いを好まぬ。ゆえにこの地に安息を求めて移り住んだわけよ』





つまりは救世院から危害を加えられたということだろうか。

とりあえず話を聞いてみた分ではこの人たちに害があるようには思えない。
そう。本当に穏やかで、害なんてものは感じられなかった。

だからちょっと、数分前の自分の言動を反省した。





「うーん、ルクセリオの信者と一緒にして悪いことしたな」

「だから言ったじゃないか。穏やかな人達だって」

「うん。失礼いたしました」





ホープにぺこりと頭を下げてみる。
するとホープは軽く笑っていた。

まあとにかく、よそ者だからと言って追い出されるようなことも無かったし、その点については良かった。

そして流石は御許と言うだけあってこの場所からは女神の神殿をよりよく見上げることが出来た。
ただ、やっぱりそれでも距離があって人の足では到底辿りつけるようなものでは無さそうだったけど。

そこで出番なのがこのヴァルハラの天使だ。

チョコボには人間には無いその脚力と羽根を広げることで風に乗って驚くべき飛距離を期待することが出来る。





「向かいましょう。大いなる混沌が待つ女神の神殿へ」

「ライト、準備はいい?」

《ああ、構わない》





こうして、ライトはチョコボの背に跨り村の高台からその純白の羽根で風を伝い女神の神殿の入口へと羽ばたいて行った。

その姿をモニター越しに見て、あたしは感心していた。
ふわりふわりと、あまりに器用に飛んでいくものだから。





「はー…気持ちよさそう。いいなあ、あたしも乗ってみたい」

「多分、ライトさん以外は速攻で振り下ろされるだろうけどね」

「…ていうか乗ろうとした時点でめっちゃくちゃ威嚇されそうだよね」

「ははっ、そうだね。絶対乗る事なんて許してくれなさそうだ」





風を着る姿が羨ましい。
ぼんやりと何気なく呟いた事だけど、その夢はあっけなく崩れ去りましたとさ…。

正直な話、チョコボから振り下ろされるのって結構怖いんだよね。

ルシだった時、グラン=パルスで何度も危ない目に遭ったし。
あの時乗せてくれたチョコボたちはいい子が多かったけど魔物なんかに怯えちゃうとどうしても振り下ろされちゃうことはあったから。





「グラン=パルスでホープも何度か落っことされてたよね。ドサッて尻餅ついちゃったりして」

「ナマエはそれ見てけらけら笑ってたよね」

「そーゆーことは覚えてんのね」

「当然。でもそうやって笑いながら自分も降りてきて大丈夫?って手を差し伸べてくれた。それは、結構嬉しかったんだと思う。よく、覚えてるから」

「…そっか」





呼び起こされる、過去の情景。
こうやって話していると、やっぱり懐かしいという感情は疼くものだ。

まあ、何はともあれ主と認められているライトを振り下ろすなんて事は無い。

ヴァルハラの天使は見事に女神の神殿が人の足でも届く場所までライトを運んできてくれた。





『私をここへ誘う事がお前の使命だったな。よくやってくれた』

『クエーッ』

『ここから先は私の、解放者の仕事だ』

『クエーッ!』





本当に、ライトの言葉を理解して返事をしてくれるチョコボ。
ライトはその姿にお礼と笑みを零すと、目前にある女神の神殿を見上げた。





「ここが女神の神殿…混沌の領域。ヴァルハラから現れた異界の祭殿です。伝説ではこの神殿には大いなる混沌が眠っているそうです。それは、この世界を崩壊させた存在のことかもしれません」

『世界を引き裂いた不可視の混沌。解き放ったのは世界の終わりを望んだ男…カイアス・
バラッド。かつて私を倒した男だ』





今、ここでライトの口からカイアスの名を聞いた。
その瞬間、あたしは胸がどくんと大きく一度波打ったのを感じた。





「そして、あたしとノエル、セラが戦った相手でもある…」





ライトに続けるように、言葉にする。

2回目の旅…。
あたしたちが戦った、最後の宿敵。

彼はユールと言う少女の為に、世界を壊そうとした。

最後は…ノエルが構えた剣を使い、自害するような形で消えていった。

誰かを思う、その心を否定するつもりはないけど。
でも、やっぱりその名前を聞くと…色々と、言葉では言い表せない感情で一杯になるのは確かだった。



To be continued

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