(※インダイレクトキス、ホープ視点)
「えへへ、チョコボ可愛いわあ…幸せえ〜」
そう頬を綻ばせるのは、僕の大好きな想い人さん。
小さな黄色いひなチョコボを手のひらに乗せ、すりすりと頬にあたたかな羽根を押し当てている。
「ナマエさん、結構チョコボ好きですよね」
「もっちろんさ!大好きよ〜」
向かいに腰掛ける僕がそう声を掛ければ、彼女は満面の笑みを返してくれた。
自分に向けられたその笑みにきゅんとする。
ああ…可愛いなあ、って。
僕は彼女より年下だ。
貴女も時折、僕を可愛いと言う。
だけど僕だって、思うのだ。
ああ、ナマエさん可愛いな…って。
年下だって何だって、好きな子の笑顔を可愛いと思うのは…当然の感情で。
だから僕は思ってしまう。
ああ、好きだ。大好きだなって。
傍で見られるその笑顔に、確かな幸せを覚えていた。
「ナマエさんの世界にも、チョコボはいるんですか?」
「んーん。いないよ」
「え?でもチョコボのことは説明しなくても知ってましたよね?」
「んー、なんていうか…空想上の生き物的な?実際にはいない」
「チョコボが空想…。へーえ…」
内容が濃いとは言えない会話。
それでも僕にとっては、ナマエさんについて知ってることが増えていく、有意義な会話だ。
好きな人について知ってることが増えていくって、それだけで凄く嬉しいから不思議だよな。
…いや、実際はこうして傍で話していられるだけで、物凄く楽しいと思ってる。
僕がそんなことを考えている一方で、相も変わらず、ひなチョコボを可愛がっているナマエさん。
ひなチョコボもひなチョコボで、可愛がられるのは嬉しいらしく、自分からも擦り寄ってナマエさんに甘えていた。
僕はその光景に、微笑ましさを覚える。
そして同時に、ちょっと羨ましいな…なんて思ったりもしていた。
何がって、ひなチョコボがだ。
ずーっとくっついて、甘えて。
…ああ、ひなチョコボになりたいなあ…なんて口が裂けても誰にも言えないけど。
馬鹿なこと考えてるなって、自分でも思う。
…けど、やっぱりこの人に関するとだと、なんだか色々考えてしまうのは否定できなくて。
「んん〜…ふこふこ〜…。あー、あたしの世界にもいたらいいのになあ、チョコボ」
『ピィー』
もふ、と…ひなチョコボの羽に鼻をうずめるナマエさん。
あ。唇も触れた…。
その行動に、そんな考えが頭を過る。
だからどうしたって話なんだけど…こう、気が付いたときにふと…唇に目がいってるな、って事が多々あって…。
本当…僕、馬鹿だなあ…ってどこかでは思ってるんだけど。
…こう、いろいろ想像してしまう…自分がいる自覚は持っていた。
「ナマエー!」
そんなときだった。
少し離れたところから、ナマエさんを呼ぶライトさんの声が響いてきた。
ナマエさんはその声に振り向き、「はーい」とすぐに返事を返す。
そして立ち上がれば、「お願い」とひなチョコボを僕の手の上に預けた。
「ん、ちょっと行ってくるね」
「あ、はい。いってらっしゃい」
『ピュイー』
手を振って、駆けていく彼女の背中を見送る僕とひなチョコボ。
残された僕は手の中にいるひなチョコボに何気なく目を向ける。
するとチョコボの方も、ナマエさんを見送っていた視線をくるっと僕の方に向けて振り向いてくれた。
「うん?どうしたの?」
じっと、僕を見つめる黒い瞳。
僕は微笑みながら、人差し指でひなチョコボの頭を軽く撫でた。
なぞるように、優しく。
…確かこの辺り、だったよな…。
その指が触れていたのは、先ほど…ナマエさんの唇が触れた辺り。
…唇が、ほんの少し触れただけだ。
たったそれだけのことなのに、なんだか凄く特別なことに感じてしまう。
ぼんやり、そんなことを思う。
するとその直後、突然に事は起こった。
僕の中にいたひなチョコボ。
その存在は何の前触れもなく、本当にいきなり、僕の手を蹴り勢いよく飛び上がった。
行先は、僕の顔面。
ひなチョコボは僕の顔に向かって勢いよく頭突きをしてきた。
「ぶっ…!」
口のあたりに、もふっとした感触。
あまりにいきなりで、なんの反応も出来ずに僕はそれを受け入れるしかなかった。
一瞬何が起きたかわからなくて。
いったい何事だ。
僕、君に何かしちゃった?
「いたた…」
別に、そんなに痛みはなかったけど、そう零してしまったのは条件反射だ。
僕は若干の困惑を覚えながら、僕の目の前で羽ばたくひなチョコボを見つめた。
「突然何どうし……た、の…」
羽根が触れた唇。
僕はそこに指先で触れ、ひなチョコボに尋ねた。
でも、指が唇に触れた瞬間…ハッと、とある事実に気が付いた。
「…え…っ」
さっき、ナマエさんの唇がひなチョコボの頭に触れた。
そして今度は、その部分が僕の唇に触れた。
つまり…。
それって、つまり…!
それに気が付いた途端、僕はかあ…っと顔中に熱が集まるのを感じた。
『ピューイー♪』
目の前に羽ばたくひなチョコボは、機嫌のよさそうな鳴き声を上げた。
まるで、作戦大成功とでも言っているような。
でも、その時の僕の頭は、その鳴き声を右から左へと流してしまっていた。
他の何に考えをやる余裕もなく、ひとつのことだけにすべて容量を使うくらい…いっぱいいっぱいになっていた。
「………。」
また、指先で自分の唇をなぞる。
くち…。
ナマエさんの、口、ついたとこ…。
「…っ!」
ぼふっ!と頭が音を立てた。
まるで、ショートしてしまったみたい。
うへえ…と、僕はゆるゆる膝に顔をうずめるように蹲った。
なんだかなあ…。
これくらいのことで、こんなにいっぱいいっぱいになるの…子供っぽいのだろうか。
でも…間接とはいえ…。
…間接…的、に…。
「………。」
相変わらず、頬が熱い。
ああ…まだ絶対、顔…赤い。
熱がこもったまま…。
それに…なんだか口元が緩んでる。
…どっちも、ナマエさんが戻ってくる前に、なんとかしておかないと。
僕は顔を隠すように、もぞっと顔をうずめ直す。
しばらく、僕はその下で…熱に浮かされながら、隠れて頬を緩ませていた。
END
もっと14歳の男の子っぽくしたかったんですが…無理だ。
男子中学生の頭の中な〜…女子中学生しか経験したことないからなあ。(何)