小さな幸せを数えて


「さ、さむっ…」





震えた声。
いや、声だけじゃなくて、体も小さく震えてる。

己の体を抱きしめ、ナマエさんはその場で縮こまった。





「確かに冷えるな。おいライト」

「ああ、日が落ちないうちにどこか風が凌げる場所を探して休むか」





ファングさんが呼びかければライトさんも頷く。

今日は風が冷たい。日が落ちれば更に寒さは増すだろう。
この寒さだと命に関わる可能性もある。

いつもより少しだけ早め。
今日の探索はこれくらいにして、僕達は近場にあった小さな洞窟に身を寄せることになった。





「よし!OK!ホープ!」

「はい」





集めた薪を並べたナマエさん。
僕がそこにファイアを唱え、洞窟の中にひとつの焚き火を完成させた。





「うー!あったかい!幸せー!」





ゆらめく炎。
焚き火が出来るなり、ナマエさんはすぐさま傍に寄って暖を取り始めた。

まあ寒い寒いってずっと言ってたし。

僕もその向かいに座り、火に手を近づけてて温めた。





「小さな幸せですね」

「うん。こういう小さな幸せ、積み重ねていくの大事よ?」

「はは、確かに」





まだ、ルシになって間もない頃。
ヴァイルピークスで、落ち込む僕にナマエさんは言った。

嫌なことや辛いことばかり考えるから、気が重くなると。

そしてひとつの飴玉をくれて、美味しいというその気持ち、そういう小さなものでいいから幸せを数えることを教えてくれた。

あの時は、絶望が大きすぎてピンとこなかったけど…。
でも最近になって、そういう幸せって確かに大切だなって考えるようになった。





「今日のご飯は何かなー」

「ライトさんとファングさんが狩り当番ですからね。期待出来るんじゃないですか?」

「お肉パーティか!」

「大物だと良いですね」





狩りに出たライトさんとファングさん。
スノウは水を汲みに行っていて、サッズさんとヴァニラさんは明日進む方の確認をしている。
僕とナマエさんは薪を集めての火の番だ。






「大物だったらまた幸せね〜」

「小物だったらどうします?」

「んー、お肉食べられるならそれで幸せ。獲物はいたからふたりなら仕留めて来るでしょ」

「そこは信頼出来ますよね」





皆が戻ってくるまでの、少しの時間。

他愛ない、中身の薄い会話。
でも、ナマエさんとふたりで話す、ゆったりとしたこの今。

それもまた、ひとつ数える小さな幸せだなあと思う。





「ホープ。薪、もう少し足そうか」

「はい」

「…何笑ってるの?」

「え、笑ってます?」

「うん、なんかニヤニヤしてる」

「ニヤニヤ…」





頬に触れる。
言われて確かに緩んでいたと自覚した。

でも、ニヤニヤ…。

そんなに締まりなかったかな。





「まあ、幸せをいくつか数えたからですかね…」

「いくつか?焚き火と、他にも?」

「そうですね、あたたかいなあって言うのと…」

「なに?」

「何だと思います?」

「なんでそこクイズにするの」

「あははっ、さあ、どうしてでしょう」

「だからクイズにすんな!」

「あはははっ!まあ、秘密ってことですよ」

「いや意味わかんないし…」





ナマエさんがむくれて、僕はまた笑う。

本当、中身のない会話。
だって、貴女が目の前にいるから…なんて、面と向かっては言えないし。

でも、きっと昔より…。





「僕、昔より、小さな幸せを探すのが上手くなった気がします」

「え?」





ふっと笑って言えば、ナマエさんはきょとんとする。

まあ…ナマエさんが笑ってればそれで、みたいな単純なところもあるんだけど。

でも、それだけじゃなくて。

ルシになって…今は大変で、辛いことがいっぱいだ。

だけど、だけどね。
昔より、良いことを探す意識をするようになった気がする。

それは…間違いなく、目の前のこの人のお陰だと思う。



END

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