「っサンダガ!!」
有言実行だ。
宣言通り、思いっきり出し惜しみなく食らわせたサンダガ。
仮想空間にてデミ・ファルシと戦うあたしたち。
襲い来る両腕を避け、セラとノエルが押さえてくれた隙に撃った今のサンダガはトドメだった。
「よし!ナマエ、ナイス!」
デミ・ファルシは消える。
ノエルがあたしを褒めるように拳を突き上げた。
辺りは暗くなる。
まるで、力の供給がなくなったみたいに。
静寂が流れる中、セラは剣を下ろして呟いた。
「未来のデミ・ファルシが過去に現れるなんて…」
「そうだね。まさかここにきてデミ・ファルシと戦うとは思わなかった」
デミ・ファルシはAF400年のアカデミアにいた。
200年も先の未来にあるものが、こんなところで出てくるなんて。
乱れた髪を耳掛けながら、ふうっと息をつく。
「ここは時の狭間と似てる。過去と未来が繋がってるのかもな」
ノエルがこの場を見渡し、そんなことを言った。
時の狭間…。
この仮想空間は、確かに普通の次元とは色々と違ってるみたい。
それを聞いたセラは、今起きた事柄を確認するように口を開いた。
「未来と繋がってる…。未来のファルシがこの空間を利用して、時を遡り、塔の人工知能に潜りこんだ…。ファルシに乗っ取られた人工知能は、塔から人間を排除して、未来のアカデミアにファルシを造り上げる」
「デミ・ファルシが人工知能に命令したから、人工ファルシを造ったってことか。一体どっちが先なんだか」
「うーん…変なとこでループしてるよね」
「矛盾してるからパラドクスなんだよ。自分が誕生する歴史を守ろうとしたんだ」
セラの言葉に納得した。
そうか。本当…まさにパラドクスだ。
デミ・ファルシは…時の矛盾の塊。
そしてきっと…自分自身で、自分の存在がパラドクスだと気づいていて…。
するとその時、セラがはっとしたように顔を青くして声を上げた。
「っ、待って!デミ・ファルシが過去に干渉出来るなら…!」
直後、パッと辺りに明かりが戻る。
それは不吉の合図だった。
「嘘…!?」
ガンッ、と床を穿つ音がした。
そこにあったのは、さっき倒したはずの…デミファルシの腕。
それは傷一つない、戦う前のもとの姿。
デミ・ファルシが、また再び、この空間に現れた…。
「くっ、時を遡って再生できるってか!」
「はあ!?そんなの反則じゃんか!!」
刀を構え直し、ぐっと顔を歪めたノエルの言葉にあたしは頭を掻きむしる。
そんなの聞いてない!!
再生できるってそんなのあり…!?
そう落胆すると、セラの剣がモーグリの姿にポンと戻った。
モーグリは焦るように今の状況を教えてくれた。
「クポ!この空間がある限り、デミ・ファルシは倒せないクポ!」
「この空間がある限り!?永遠に蘇るって事!?」
「クポォ〜…」
聞けば、モーグリはポンポンをしゅんと下げて項垂れた。
それは何より、そのゾッとする問いかけが事実だと物語ってた。
「おい!ナマエ、セラ!とにかくもう一回倒すぞ!再生するにしても、こいつ放っといたら本当に殺されるぞ!」
「う、うん!ナマエ!とりあえずもう一度!」
「っ、了解!」
もう一度倒したところで、また再生するのは目に見えてる。
だけど、放っておいたらデミ・ファルシの攻撃の雨に晒されることになってしまう。
それに…あきらめるわけにはいかない。
だからあたしたちは、もう一度デミ・ファルシと戦った。
さっきと同じ要領で、とにかく…倒す。
「ノエル!」
「いっけえ!」
「ああ!覚めない夢でも見てなッ!」
あたしとセラでなんとか隙を作って、そこにノエルが本体を貫く。
剣に貫かれたデミ・ファルシは、再びその姿を消した。
そして、また…さっき倒した時のように辺りは暗くなる。
「はあっ…終わった…」
荒くなった息を、大きく吸って吐いた。
…今はまだ何とか体力が残ってるから、こうやって倒すことは出来る。
だけど、こんなの何度も続けていたらそのうち…力が尽きて、どうしようもなくなってしまう。
ノエルやセラだって、肩で呼吸するくらいに疲労は溜まっていた。
なのに…デミ・ファルシは待ってくれない。
辺りに明るさが戻ってくる。
それを感じたあたしたちは、頭が痛くなるのを感じた。
「ううっ…来た…」
「またなの…?」
うんざりする声を出せば、セラも疲れ切ったように言う。
そしてノエルは、ちょっと苛立たしげに大きく息を吐いた。
「ホープの責任だ」
「えっ?」
「へ?」
「デミ・ファルシも人工知能も、あいつらの計画が発端だろ」
「た、確かに…」
ノエルの意見に、思わず納得してしまった。
ああ…ホープ。
君をこんなに恨めしいと思ったのは、もしかしたら初めてかもしれない。
だけど…、あたしたちはふっと笑った。
「なーんて、他人のせいにもしたくなるよな。ここまで追い詰められるとさ」
「ふふっ、ちょっとはね」
「いーや…まあ、いいんじゃない。今回ばっかりは、ちょっとイラッとしちゃうもん」
「お。ナマエ、怒ってる?」
「あはは、珍しいね〜」
だって本当、こんなに人が苦労してるとも知らないで。
でもね…それでも、どうしようもないくらい…会いたくて仕方ない。
「はは…でも、それでもね、どうしても助けたいの!」
どうしても助けたい。
どうしても会いたい。
あたしはその想いに、キッとデミ・ファルシを見上げる。
ノエルやセラは、その気持ちに応えて頷いてくれた。
「了解だ!ていうか、過去の人間に文句言っても仕方ないしな!敵の再生をやめさせないと、持たないぞ!」
「うん!闇雲に戦うだけじゃ駄目だね!なにか方法を考えなきゃ!」
何度倒しても、時を超えて再生するデミ・ファルシ。
どう戦うのがいいか、頭を使って考えなきゃ。
どうすればいい?
どうすれば倒せる?
必死になって頭を回す。
「…敵は過去に干渉してる?だったらこっちも、過去に干渉すればいい?」
そんな時、セラが独り言を言うようにボソボソと何かを呟き始めた。
「…セラ?」
何か思いついたのだろうか。
あたしはセラの顔を見つめる。
すると彼女は宙を見上げた。
そして、何かに祈るように、空へと懇願した。
「お願い、見てたら応えて」
何かに願ったセラ。
直後、彼女はぱっと目の色を強気に変えた。
そして周囲に聞こえるような、いや、聞かせるような声を張り上げた。
「本当、迷惑なものを造ったよね!ホープくんたら、もうっ!いい加減にしてよーっ!!」
「お、おい!」
「セラ!?」
セラはホープへの文句を口に、剣をまっすぐに構えてデミ・ファルシに走り出した。
腕の攻撃も掻い潜り、ひたすらに、まっすぐに。
そのままグッと力を込めて、デミ・ファルシに剣を突き刺そうとする。
だけど、その剣先は宙を仰いだ。
剣は刺さらなかった。
…というか、刺さる直前に目的が消えた。
「あ…っ」
「くっ!」
「セラっ!!」
目標物が消えて勢いあまり、足場か転落しかけるセラ。
彼女を追いかけていたあたしとノエルは咄嗟にセラの腕をつかみ、その転落を防いだ。
その瞬間、辺りは力の供給が消えたように真っ暗になる。
…消えた。
デミ・ファルシが…消えて、無くなった。
あたしはパアッとセラに振り向いた。
「いない!セラ!いなくなったよ!デミ・ファルシ!」
「ああ!やったな!セラ!」
「わ、私何も…そんなはず、ないよね」
セラは自分の行動が上手くいったのか確信が持てず、戸惑ったように辺りを見渡す。
いやいや、でもデミ・ファルシは消えた。
状況から考えて、どう見てもセラの行動が鍵だったはず。
だからあたしはその衝動のまま、セラに飛びついてやろうと思った。
だけど…それは不発に終わる。
直後、突然にセラの瞳に何かがぱっと浮かび上がったから。
その変化に、あたしとノエルはハッとした。
それは、サンレス水郷の時と同じだった。
セラの体は…力が抜けるように崩れ落ちた。
「あっ、セラ…!?」
「セラ!」
ぐらっと揺れたセラの体に、咄嗟にふたりで手を伸ばす。
そして、必死になって呼びかけた。
「セラ!セラってば!」
「セラ!大丈夫か!セラ!」
しばらく呼びかければ、声に反応したのか、ゆっくりと瞼を動かすセラ。
ノエルがそっと抱き起すと、セラは意識を取り戻した。
「私…生きてる…?」
自分の胸に手を当て、そんなことを言うセラ。
そんな彼女に、あたしは顔を覗き込んで怒った。
「ちょっと!?何物騒なこと言ってるの!」
生きてるって…、そんな縁起でもない。
見たところ、もう意識ははっきりしてるみたいだけど。
ノエルは心底ホッとしたように胸をなでおろし、「良かった…」と安堵してその場に座り込んだ。
「心配しすぎだよ」
セラは立ち上がり、そう言ってあたしたちに微笑んだ。
その表情を見て、あたしもノエルもホッとはした。
でも…やっぱり気になる。
セラが倒れたのはこれが初めてじゃない。
この旅を始めてから何度も…こういう異変があった。
そしてその度に、ノエルは凄く…心配する。
いや、あたしだって心配なんだけど…。
ただ…こっちからしてみると、ノエルの方も心配になってくるらいに、っていうか。
でも…もう、ちゃんと…全部元に戻った。
デミ・ファルシだって…やっつけられた。
大丈夫なら、いいけれど。
「未来が、変わってるといいけど」
「間違いないさ」
あたしたちは立ちあがり、未来を確認するためにゲートをくぐる。
あたしは二人の声を聞きながら、祈った。
どうか、どうか…と。
たくさん、たくさん…祈ってた。
To be continued
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