今この時を歩いてる



あたしたちは今、シンとの対決に備えて、準備を整えていた。

武器やアイテム。
役立つもの、使えるものは何でも。

ありとあらゆるものを集めるのに勤しんでいる真っ最中です。





「よ、と」





そして現在地はキノコ岩街道。
ごつごつした岩道をピョン、と跳ねて進む。

以前ここに来た時は、決していい思い出とは言えないミヘン・セッションの時だった。

飛空艇って偉大だよなあ。
ティーダじゃないけど、本当、一気にバビュッとどこでも行けちゃうんだもん。





「んん…?」





残された宝箱は無いかなー、と…?
そんな風にあたりを見渡していたそんな時。

こつん。

足に何かが触れ、足元に目を落とす。
そしてそれを拾い上げた。





「…スフィア…?」





丸い形の青いそれは、スフィアだった。
しかも記録を残しておける、映像スフィア。

…なんの映像だ?

それは、何気ない好奇心。
あたしはそのスフィアを再生してみた。





《世話になったな、キノック》



「あ…っ!」





再生したスフィアから聞こえてきた声。
そして、映し出されたその人物を見て、あたしは思わず声を上げてしまった。

だって、それはよく見知っている人物の10年前の姿。


…昔の、アーロンだ…!


そうしたら、先ほどの何気ない好奇心が、完全なる興味に変わってしまった。
いや、関心持つなって方が無理な話だと思う。

あたしは食い入るように、そのスフィアを覗き込んだ。





《達者でな。ガードとして立派にブラスカさんをお守りしてくれ》

《ああ、そのつもりだ》





アーロンと、もうひとり。
そこに映っていたのは、老師のひとり…だったキノックの姿。

アーロンとキノック。
このふたりは、友人同士だったと話には聞いていた。





《お前も頑張れよ。聞いたぞ、副長に昇進だってな》

《本来なら…副長になるのはお前さんだったんだ。結局、最後までお前さんを越えられなかった》





…映像の中のふたりは良き友、って感じがした。

…本当に仲、良かったんだ…。
なんとなく、そう思ってしまった。

だって、あたしの知ってるキノック老師は…正直なところ、嫌な奴〜ってイメージが強いんだもん。

まあ…彼の亡骸を見たとき、アーロンは仇討ちを口にしていたけど。
だからあたしも、その仇討ち、手伝おうって思えたんだけどね。





《最後なんて言うなよ。俺が死んじまうみたいじゃないか》





死。

アーロンのその言葉には、胸がツキン…と少し痛んだ。

死んじまうみたいじゃないっつーの…。
まったくもー…、なんて。





《また…会えるさ》

《そうだな》

《…さて》

《もう行くのか?…ザナルカンドへ行けよ。そして、聞かせてくれ》

《じゃあな!》





プツン…。
そこでスフィアは終わった。





「ふむ…」





見終わって、ちょっと息を置いた。
そしてしばらく、見終わったスフィアをただ、見つめた。

するとそんな時。





「ナマエ。何をしている」

「…お?」





降ってきた低い声に顔を上げる。

すると遭ったサングラス。





「アーロン」





呟いた名前。
振り向いた先には、アーロンが立っていた。





「なんだそれは。…スフィア?」

「あ…うん」





アーロンはあたしが抱いていたそれを見つけた。

一瞬迷った。
渡すべきか、渡さざるべきか。

でもここで隠しても不自然だしなあ…。
むしろ怪しまれるよなあ…。

そう思って、おとなしく差し出してみた。





「映像スフィアか?」

「そう、っすね」





アーロンは疑問を抱くように、差し出されたスフィアを受け取る。そして、再生をし始めた。

映し出されたその瞬間、サングラスの奥が一瞬だけ見開かれたのが見えた。

…ん、まあ、驚きますよね。うんうん。

あたしは様子を伺うように、スフィアの映像を見つめるアーロンを見ていた。





「……随分懐かしいものを見つけたな」

「ああ、ねえ?」





見終わってからのアーロンの一言目。
あたしはただ、コクンと頷いた。





「ていうか本当に、結構仲良かったんだね」





そして投げかけた言葉。

率直に、このスフィアを見て思ったあたしの一番の感想はそれだったから。





「…まあな」

「ふうむ。それにしても副長に昇進、か。それから10年で老師まで上り詰めたわけか。なかなかやり手だったのねえ、キノックさん」





顎に手を添えて、考える素振り。

変に気を使ってもしょうがないでしょ?
それに、重たい空気は苦手だ。

…あれ、そういえば。
そこでひとつ。あたしは思い出したことがあった。





「ん、ねえ、もしかしてこれって縁談の話関係ある?」

「…その話、覚えていたのか」

「そりゃ覚えてるよ。あんな衝撃事実忘れるわけがない」





お見合いは政略結婚だったはずだ。

そして約束されていた地位が、副長…。
前にブラスカさんに、そんなこと聞いた気がする。





「あ。じゃあ、もしアーロンが縁談受けてたら、アーロンが老師になってたりして」





ふと考える、雑なパラレル予想。

…んー、と。
そうなってたら、アーロンはガードにならないから…。


……死人にも、ならなかった…かな…。


……ハッ!!!
あたしは馬鹿か!馬鹿なのか!?
重たい空気苦手とか自分で言っといて何考えてんだ!

ぶんぶん、と頭を振った。





「…ふう…」





変なこと考えたら、なんか疲れた…。
小さく息をつく。

するとアーロンは何故かあたしに背を向けた。
そしてそのまま、小さく笑って言ってきた。





「フッ……、そうなっていたら、お前のその阿呆面を拝むことも無かったろうな」

「あ、アホ面…っ!?」





言うだけ言い残し、さっさと歩いていてしまうアーロン。

あ、アホ…!
今アホって言ったよ、このオッサン…!

グサリときながらも、当然腹も立つ。





「ふん!そうだね!アーロンに毒突かれることも無かったろーネ!」





ヘッ!と言った感じで言い返す。
しかし、奴はそれすら「フッ」と小馬鹿にして鼻で笑って返してきた。





「くぉらー!待てや、このやろー!!」





まあ、ナマエちゃんてば、なんて口の悪い!
いや、口も悪くなりますわ。

あたしは文句を言いながらその背中を追いかけた。



…まあ、でも…そう、なんだよな。

そんな風になってたら、アーロンとの思い出は、全部無かったことになる。

10年前の旅から。
…今、この時、この瞬間でさえ。


ていうか、誰か…全然知らない人とアーロンが結婚しちゃってるって事でもあるわけだよね…?

う…。それもちょっと…あ、いや、かなり……う、絶対、嫌…かも。


アーロンの性格からして、老師になることも、縁談を受けることもあり得るはずないのはわかっているが、なんか想像したら凹んだ。

結局、あたしはやっぱり馬鹿なのか…。





「待ってってば!」





追いついて、くっ…とアーロンの赤い袖を掴む。

そして、確かめるように握りしめた。





「あー、その…みんなのとこ戻るまで、掴んでていいですか…」

「……好きにしろ」





…じゃあ好きにしますよーだ。
ぎゅっと掴む赤。

全然違う歩幅。
だけどアーロンは、あたしに合わせてゆっくり歩いてくれた。


END


最後はちょっと甘め…ちっく?←

いや、こんな風にする予定じゃ無かったんですが。
ただ、アーロンのスフィアが見たかっただけ。

シンとの決戦前なので、くっついてます。
言うまでもない…か?

まあ、キノックは政略結婚だけじゃなくて、他にも色々やって老師の座についたはず、ですよね。
アカギ隊の事とか見てても何でもやりそう…。
それだけアーロンにコンプレックス持ってたって事なんだろうなー。
まあ相手アーロンだしな!(何)

縁談がアーロンが断ったから自分に来たこと知ってるっぽいし…。

アーロンは知ってたのかなあ。
まあ、気づいてはいそうか。少なくとも渋は。

副長昇進。
なるのはお前だったーとか話してるし。

私的には、アーロンは自分の腕以外での出世は嫌だけど、それはあくまで自分の考えだから、キノックがそれでいいならいいんじゃないか…とか思ってるイメージ…?(なぜ疑問…)
や。まあこの連載においては。

要はアーロンがもし縁談受けてても、老師になってたかはわからないですよね、って。
しかも10年…ていうか30代で。

シーモアみたく老師の息子とかじゃないですしねー。

それ以前にエボンの真実知った時点でならないだろうが。

なんか後書き長くなったー!w
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