単純な勘違い 「ナマエ、顔赤くない?」 「…え?」 何気なく話しながら道を歩く。 その途中、ユウナにそう顔を覗き込まれ、額に手を触れられた。 「ほら、熱い!やだっ、凄い熱…!」 「え、気のせいじゃない?」 「気のせいじゃないよ!みんな来て!」 しれっと返すあたしに対し、慌てた様子でユウナは皆に叫ぶ。 すると、皆が振り返ってぞろぞろと集まってきた。 「ナマエ、熱があるみたいなの!」 「本当だわ、顔赤いわね…」 「うわ!ナマエ超熱いよ!?」 「なーに痩せ我慢してんだ!お前は!」 「さっきの町で流行っていると聞いた」 「キマリ、それマジッスか!?」 皆に顔を覗き込まれる。 うあああ…なんか大事になってきた! 慌てて首を振りながら否定する。 「いやいや!本当違うって!まあちょっと頭痛いかなーなんて思うけど、多分寝すぎたせいだと思うし!あたし、最後に風邪ひいたのいつだっけなあってくらい病気しいないし?」 「それは何の根拠にもならん」 「ふおあっ!?」 すると後ろから低い声がして急に襲ってきた浮遊感。 ビックリして声を上げると、ぐるりん、と視界が回った。 気づくと、そこはアーロンの肩の上。 いつかの様な米俵抱き。 「ちょっとアーロン!!?」 「ユウナ、この先に旅行公司があったはすだ。まだ早いが今日はそこで休む。構わんな」 「はい。私もそのつもりです」 「ちょっと!無視!?」 ぎゃーぎゃーと肩の上で叫んでも、気持ち良いくらい無視される。いじめですか!? 「本当に違うよー!!!!」 そう叫んだあたしを見て「元気な病人ッスね…」と呟くティーダの声が聞こえた。 だって病人じゃないもん!!! どんなに否定しても、やっぱり誰も聞いてくれなかった。 「……別に平気なのにー」 旅行公司につくと、真っ直ぐアーロンにベッドに投げられた。 そして「寝ろ」と、脅しに近い目つきで言われたので大人しく布団にもぐった。 冗談言う元気がある時点で大丈夫だと思うんだけどな…。 「ねーえ、本当に平気だよー?」 「ユウナが休むと言ったんだ。召喚士の決めたことに意見するな」 「……アーロンが言わせたようにも見えたけどなあ」 「全員に聞いてもユウナの意思だと言うと思うがな。賭けるか」 「いや、いいです…」 たぶん、負けるし…。 そう心の中で呟きながら、もぞっと布団に潜った。 ユウナなら「私が決めたんだよ!」って確実にアーロンに味方するだろうからな…。 「いいから大人しく寝ていろ。そんな体調では足手まといになるだけだ」 アーロンはそう残し、部屋を出て行こうと扉に手をかけた。 足手まとい…まあ、確かにそうか。 あたしは「はあ…」と小さく息をついた。 するとアーロンはそれに気がついたらしい。 もう一度、振り向いた。 「お前、何か勘違いをしてはいないか?」 「…勘違い?」 首を傾げる。 勘違いって、何を…? 趣旨がよくわからない…。 「そこまで平気だと主張するのは何故だ」 するとアーロンは部屋を出ようとした足を戻し、ベッドの脇に置いてある椅子に腰を下ろしてそう聞いてきた。 だから思ったままに答える。 「何故って…、確かに熱はあるかもだけど、本当にそんな騒ぐ程ものじゃ…」 「お前はユウナを止めたいのだろう。少し間とはいえ旅の中断だ。お前のことだ。風邪に感謝でもしそうなものだが」 「風邪に感謝て…」 やったー!今日は熱で学校休めるわー!うふふふふ! …みたいな話か? まあ、つまらない風邪で学校休めたりすると、ちょっと嬉しかったりするよね…。 ユウナが究極召喚を手にするまでの時間を少しでも先延ばしにすることが出来た…という事実を考えれば、アーロンの言ってる事もあながち否定出来ない…かも。 お前のことだ、って辺りがちっとばかし気になるが…。 「ん、まあ、それはしてますね…」 もぞもぞ、と布団の中で頷いた。 うん、まあ、実はちょっと、脳裏を過ぎるくらいなら思った…けど。 風邪さん、考える時間を与えてくれてドウモアリガトー。 心の中でぼんやりお礼。 すると、アーロンは今度こう言ってきた。 「どうせ、板ばさみにでもなっているのだろう」 「…いたばさみ?」 もっかい首を傾げる。 アーロンって言ってること、たまによくわかんないよな。 ティーダ辺りなら「同感ッス」とか言ってくれそうな気がする。 「考える時間が出来たと喜ぶ反面、旅の中断理由が自分の体調という自己嫌悪」 「…!」 「そのふたつの板ばさみだ」 その言葉に思わずドキリ、というか…ギクリ、というか…。 ともかく心臓がはねた。 どうやら目を見開くくらいの反応を見せてしまったのだろう。 予想通りだとでも言いたげな、そんな顔をされた。 でも…確かに図星というか…。 見事突いてきたな…と言いますか…。 うん…。 あたしは、旅が先延ばしになるのは全然いいんだ。むしろ大歓迎。 でも皆は…ユウナの旅は先を急ぐ、って気持ちもあるだろうし。 それに…。 「よりによってあたしかよ…っていうね」 ふむ、と小さく息を吐く。 戦闘において、あたしは炎に耐性を持つ魔物なんかだと、まず外野決定になる。 それに、魔物がいるのが当たり前の世界で育った皆や、ブリッツの選手で常人よりは運動神経に優れてるティーダ。 そんな皆に比べると、魔物や戦いなんかとは無縁の生活を送ってたあたしは、それなりに劣る。 運動神経も…悪いわけじゃないと思うけど、特別良いって訳でも無いしね。 だからその辺り、結構気にしてたりするわけで。 「それが勘違いだと言ったんだ」 「え?」 すると、深い溜め息をつきながらそう言うアーロン。 …それが、勘違い? 「えと、アーロン、あたしが何考えてるかわかるの?」 「大体想像はつく。お前は単純だ」 「たんじゅん…」 グサッと、何かね、胸に今刺さったよ…。 けど、今つらつら黙々と考えていたことは、口には出してないはずだ。…多分。 「よりによってあたしかよ…」の言葉だけで何考えてるかわかったのならアーロンはエスパーでも持ってるんじゃないかと思う。 …あたしが単純だからとか、そーゆー選択肢は消すわ。 「旅の中断、理由はふたつだな」 「ふたつ…?」 あたしが若干のショックを受けている事など知ってか知らずか、アーロンは構わず話を続けていく。 まあ、その潔さ、別にイイケドネ! 「ひとつは足手まといだ」 「おうおう…はっきり言うな、おっちゃんよ」 「体調不良の者が通常より劣ると言うのは当たり前の事だ」 「…そうですね…」 「旅は進むほど険しくなる。それでは支障があるだろう」 「…だから、わかってるって」 「戦力が欠ければ、その分厳しい戦いを強いられるのだからな」 「……へ?」 戦、力…? アーロンから発せられた言葉に一瞬きょとん。 アーロンはそんなあたしを見て「フッ」と笑うと椅子から立ち上がった。 そして、再び部屋を出て行こうとドアノブに手を掛け、そこで一度止まる。 「もうひとつは…もしお前じゃない誰かが伏せた場合、お前も思うことだ」 「あたしも…思うこと?」 「皆が言った意味としては、こちらの方が大きいのだろうがな」 もし他の誰かが風邪を引いたら…。 まあ、普通に素直に考えれば…心配する、だよね。 うん。…ちゃんとわかってる。 それは、勘違いしてないよ。 ちょっと、改めて嬉しくなって、笑いながらアーロンの背中に問いかけた。 「…ねえ、ふたつめの皆は、アーロンも含まれてる?」 「…さあな」 肯定もしないけど、否定もしない。 …アーロンらしい。 曖昧なのは、良い意味で捉えていい? てゆーか捉えるよ。 あたし、単純らしい…からね。 アーロンはドアノブをひねった。 ……時だった。 ドタドタドタ!ガチャッ!!! 「ナマエー!栄養たっぷりドリンクつくったよー!…ってあれ、おっちゃん?いないと思ったらこんなとこで何やってんの?」 「……。」 「リュ、リュック…」 元気な足音と共に勢い良く開いた部屋のドア。 あまりの勢いの良さにアーロンの肩が一瞬ビクッてなってたよ…。 現れたリュックとドアの前に立っていたアーロンをチラッと見たあと、その脇をすり抜けて、椅子にちょこんと座った。 「はい!これ!」 「はいって…なに」 リュックに渡されたのは明らかに怪しげな色の飲み物。 ちょっと、いや、かなり頬が引きつった。 「だから栄養ドリンクだってー!調合したの」 「調合…?」 「そ!ま、適当に混ぜただけだけど」 「適当!?完全に戦闘中の調合と同じだよね!?」 「平気だってー。食べられるのと飲めるのしか混ぜて無いもん」 「当たり前だ!」 何を言い出す!このアルベド娘め! それ以外が入ってたら問題だ! そう怪訝の色を「むむむむむ」と強くする。 するとアーロンはその様子を見て小さく笑いながら。 「覚えておけ。変なことを考える必要は何処にも無い」 「…!」 それだけ言葉を残し、部屋を出て行った。 変な事を…考える必要は無い…。 それを聞いたら、なんとなく思わず微笑んでしまった。 そんなあたしにリュックは首をひねってる。 「なになに?おっちゃんと何か話してたの?」 「ん?ないしょです」 「ええ!なにそれー!」 教えろー!と迫ってくるリュックにあたしは変わらず笑った。 END 綺麗に纏め様と努力して、結局上手くいかなかった。← ×
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