悪い気はしない



(※ティーダとの好感度が高かったらという設定なので、若干ティーダ夢っぽいです。)



「私、シーモア様に会ってきますね」





グアドサラム。
シーモアに結婚を申し込まれたユウナは異界で考え、その返事を決めた。

シーモア邸まで戻ってくると、ユウナはひとり、返事をしに行くとあたしたちの顔を見渡す。





「ユウナ。ジスカルのことはグアドの問題だ。お前が気にすることはない」





屋敷に入ろうとしたユウナの背に、アーロンが声を掛ける。

でもその時、ユウナは振り向かず、黙ったままだった。

中に入り、閉まった扉。
それを見送りながら、ちょっとした胸の引っ掛かり。

ううーん…なんか、大丈夫…かなあ…。

心配と、不安。
そんな感情に揺れながら、あたしたちはユウナが戻るのを待つことになった。





「なあ、ナマエ…」

「うん?」





さて、どこで時間を潰しましょう。
そう考えた時、ティーダに声を掛けられた。





「ちょっと、話さね…?」

「ん、暇だし。別にいーよ」





ティーダとは、わりとよく話す。
気兼ねなく話せる間柄っていうの?

一緒にいて楽だし、話してて楽しい。

多分、異世界から来た共通点みたいなのがあるから、価値観とかも近いんだと思う。

まあでも普通に、人間関係的な相性は悪くない。

そんなこんなで、あたしはティーダと話しながらユウナを待つことにした。





「なーんかモヤモヤするッスよね…」

「…まーねー」

「ていうかさ、何で誰も聞かないんだ?シーモアのこと好きなのかって」

「んなもん、聞かんでもわかるでしょーよ」

「…さいですか」





まあ、もっぱら。
話題と言えば当然、ユウナの結婚の話になる。

シーモアに求婚されて、ユウナはその返事に悩んだ。

自分が結婚して、スピラの人が少しでも明るい気持ちになれたら。
そんな一時の夢でも、役に立てるなら素敵だと。

でもティーダからすれば、それは理解しがたい悩みだった。





「ナマエ、さっき言ってただろ。ユウナが結婚したいなら、反対しないし祝福する。でもそれはユウナが迷わず心から結婚したいって思ってたらだって」

「…うん」

「結婚してスピラの人達が喜ぶのも、ユウナが幸せだって信じてるから。ユウナが気持ちを偽るのなら、それは本当にスピラの為なのか…。それ、正にだよな。正直、よく言ってくれたー!って思ったッス」

「あー…あはは、ちょっと無責任だったかもだけど」

「全然!そんなことないだろ。俺は100%、ナマエに賛成ッスね!」

「…あはは、そっか」





ユウナが悩んでいた時、あたしはつい口を挟んでしまった。

正直言った後、結構後悔してたんだけど…でもアーロンやリュックが平気だって慰めてくれて。
そして今も、ティーダが強く言ってくれた。

それは心強いなあって、素直にホッと出来た。





「つーか、凹むことなんてなくないか?ナマエ、何も間違ったことなんか言ってないだろ」

「んー…まあ、でも人の価値観というか…考え方はこう…ねえ。人それぞれなので…」

「なにゴニョゴニョ言ってんだよ!」

「うう…、でもまあ、うん。100%って、肯定してくれるのは元気出たよ。…ありがと」

「うッス!」





ニカっと、ティーダは笑った。
明るい、まるで太陽のような笑顔。

彼らしいこの笑顔が、あたしは好きだったと思う。





「しっかしさあ、シーモアは何考えてんスかね…急にユウナと結婚ってさ」

「うーん…それも、色んな価値観とか、考え方なんじゃないかなあ…」

「じゃあその考えって?」

「さあ…。あたしにはさっぱり」





ひらひらと手を振ってお手上げポーズ。
そんなんしてたら「適当ッスね」って言われた。

シーモア老師の考えなんかわかるかい。





「まあ…あたしは結婚には夢を見てると言うか…、そもそもまだ自分には早いって感覚もあるし、そういう考え方をする自分に打算的な想像するのは限界ある気がする…」

「あー、まあ結婚なんてまだまだ全然考えないよな」

「あたしや君の価値観ではね。でもスピラではあたしたちくらいの歳でも結婚しちゃう人も多いらしいよ」

「え!そうなのか?」

「リュックが言ってた。シンがいるから、好きな人が出来たらすぐ結婚しちゃうんだって」

「はー…なるほど」

「てことはまあ、シーモア老師もユウナに一目惚れして〜…とかも無きにしもあらず?」

「ええ…マジッスか?そういう感じに持っていく?」

「いや知らないよ…。あくまで可能性ってだけだし。まあユウナ、可愛いしね」

「んー、俺はナマエも可愛いと思うッスよ」

「………はい?」





掛けられた言葉。
一瞬、思考が止まった。

その顔を見れば、じっとこちらを見ている。

そしてその意味を、数秒遅れで理解する。





「な、何言ってんだかー。…まあ、悪い気は、しないけど…」





あれ、あたしも何言ってるんだろう。

なんか、ちょっと動揺してる…?

悪い気はしない。
いや、それはまあ、本心だし…嬉しく、は、あると思うけど…。





「っと、あ、そろそろ良い頃合いかな。あたし、先に屋敷のとこ戻るよ」





なんだか、ティーダの顔が見づらい。
あたしは適当な理由をつけて逃げた。

いや、どんな顔したらいいのかなー…というか。
ちょっと、気恥ずかしくなって。

たったったっ…と、小走りに戻る。

そしたら多分、前ちゃんと見てなかった。





「わぷ…っ」

「!」





ぽすっ…と、何かにぶつかった。

やばっ。
慌てて見れば、映ったのは見慣れた赤。





「…何をしている」

「アーロン!」





振り返って、睨まれた。
どうやらあたしはアーロンの背中に突撃をかましたらしい。





「ご、ごめん…ちょっと考え事してた…」

「……。」

「え、なに…」





軽く、ぶつけた額に触れていたら、何故かじっと見られた。

え、なんだ。
あたしの顔にゴミでもついてんのか?

アーロンはサングラスの奥を、そっとひそめる。





「…顔が赤いな」

「うえ!?」





された指摘。
思わずガバッと頬を押さえる。

するとじわっ…と、手のひらから感じる熱に完全に自覚した。

いやっ、だって!だって!
そんな不意打ちで!いきなり言われたら照れるでしょうよ!!!

ひーっ、早く冷めろー!!
手の甲を押し付けて必死に冷ます。

するとアーロンがまたじっとこちらを見ていることに気が付いた。




「………。」

「アーロン…?」





でも、何も言わない。
何故こっち見てるのにだんまり…?





「…あいつと何か話していたのか」

「へ!?」

「……。」





あ、あいつって、ティーダ?
もしかしてアーロン見えてた…!?

いやでも聞いてきたってことは、内容までは聞こえてない…?

なんだかぐるぐる回る。
でもあたしが何か言う前に、アーロンはふっ…と息をついて何故かそっぽを向いてしまった。


……??????????


なんだその別に興味はないがみたいな反応は。
質問してきたのにそっぽ向くとはどういう了見だこのおっさんめ!





「…ねえ、ユウナ、まだ?」

「…ああ」





アーロンは屋敷の近くにいた。
聞けばユウナはまだ出てきてはいないと。

まあでも、そろそろ戻っては来るだろう。

あたしはアーロンの隣で壁に寄りかかった。





《んー、俺はナマエも可愛いと思うッスよ》





…何故に思い出す。

ふるふると頭を振る。

まあ…でも。
…悪い気は、しない。

それが素直な気持ちだなあって…そう思った。



END


グアドサラムでの好感度イベント。
原作だとルールーかリュックとの会話ですがそれがヒロインだったらどうか…と言う話です。

IFでなくともいいんですが…連載書いてる時はこんな風に話をする想定では書いていないのでIFと言ってきます。
スノーバイクや飛空艇からのダイブは絡ませてるので好感度高い設定では書いてたんですけどね。

でもこのまま進んでも相手は絶対アーロンさん。それは揺るがない。(ゲームだってルールーやリュックとくっつくわけじゃないですしね。)

あと気持ち嫉妬するアーロンさんも書きたかった。

アーロンとしては…。
この時点では当然くっついてませんし、そもそもアーロンは気持ちを言う気ないです。自分は死人、気持ちには蓋、です。
なのでもしヒロインが他の誰かに惹かれても何を言うつもりもないけど…、やっぱり気持ちとしては面白くないなーみたいな感じです。
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