あまのじゃく



召喚士ブラスカ一行。
旅の途中、一行は宿を取り、小さな休息を得ていた。





「おい、ナマエ…ん?」

「おや、アーロン。どうしたんだい?」






宿に設けられていた小さな書庫。
俺はそんな書庫から一冊の本を取り出し、広間の扉を開いた。

恐らくアイツもそこにいるだろう。
そう思い込んで、扉を開くと同時に名前を呼んだ。

しかし、そこにアイツの姿は無く…代わりに振り返ったのはブラスカ様。





「ナマエに何か用かい?」

「いえ…書庫を覗いていたら魔術書を見つけたので。少しは参考になるんじゃないかと」





手に持っていた一冊の本をブラスカ様に見せる。
すろとブラスカ様はどこか意味ありげに小さく笑った。





「ほう。優しいじゃないか」

「…アイツもガードです。ガードであるからには、もう少し戦力として期待したいと言うだけですよ」





そう言葉を返すと、今度は「ふう…」と溜め息をつかれた。





「相変わらずだね、アーロンは。ナマエは充分ガードとして頼りになっているさ。ファイガ剣も大した物じゃないか。」

「それは…」

「そろそろ天邪鬼もやめにしたらどうだい?」

「……。しかし、ここに居ないとすると…どこへ?」

「…。さあ?僕は見ていないな」





ブラスカ様は首を横に振る。

先程、寝室はノックしたが返事は無かった。
だからこそ広間にいると思ったのだが…。





「まったく。ふらふらと一体どこへ…」

「どこにもいないのかい?」





すると、ブラスカ様は難しい顔をして何か考え始めた。
そんな様子に疑問を覚えた俺は尋ねる。





「ブラスカ様?」

「いや…まさかね」

「どうかなさったのですか?」





ブラスカ様は難しい顔のまま、どこか重たそうに口を開く。





「いや、ナマエは急にこの世界に現れただろう?だから逆も…とね」

「逆…?」

「…。」

「…まさか…!」





ブラスカ様が何を考え、重たそうにしていたのかを察した。


ナマエは急に現れた。つまり、その逆も急に…。

そのブラスカ様の言葉に、酷く嫌な渦に胸が覆われてくる。
そして、背筋にぞくっ…と悪寒が走った。



まさか…元の世界に…?



そう言葉が頭を過ぎった瞬間、妙に焦りが襲ってきた。





「俺…、宿の外も、」

「ただいまかえりましたー!」





宿の外も見てきます。
魔術書を置き、そう口を開きかけたその時だった。

扉の向こうから明るく響いた声。

俺はその声の方へ慌てて目を向け、その姿を確認した。





「…ナマエ…?」






そして、その名を呟いた。

そこには、探していた奴の姿があった。
当の本人は名前を呼ばれたことに「ん?」と首を傾げている。

そんなナマエにブラスカ様は何事も無かった様に声をかけた。





「ああ、ナマエ。おかえり」

「はい!ブラスカさん、頼まれてたの、これでいいですか?」

「ああ。ありがとう。ご苦労様」

「いえいえ!」





…今、俺の目の前では何が起こっている。

買い物の紙袋を手にしているナマエ。
…いや、頼まれていた…だと?

わけがわからなくなる。
ブラスカ様、さっきまでの難しい顔はどこへ…?

すると、そんな俺の様子に気がついたナマエが顔を覗き込んできた。





「おお?どしたの、アーロン」

「お前…どこで何をしていたんだ…」

「え?ブラスカさんに買い物頼まれらからショップ見てきたんだけど…なに?」

「ブラスカ様に、頼まれた…?」





その言葉を聞き、俺はブラスカ様に目を向けた。

するとそこには、どこか楽しそうな笑顔。





「ははっ、ちょっとしたお仕置きさ。いつまで経っても天邪鬼では可哀想だろう?」

「な、ブラスカ様!」

「ははは!驚いたかい?ちょっと過ぎた悪戯だったかな。すまないすまない」

「なになに?何の話ですか?」





悪戯、というワードに反応したのだろう。
目を輝かせながらブラスカ様に食いついてくるナマエ。

ブラスカ様は変わらず楽しそうに笑った。





「アーロンが君を心配していたと言う話さ」

「は?」

「なっ!?」





意味が分らないと首をかしげているナマエと、声を上げた俺の様子を充分に楽しんだとでも言うようにブラスカ様は変わらずニコニコと笑っていた。





「なに疲れた顔してんの?」

「…放っておけ」





笑うブラスカ様を見て不思議そうにしながら、俺にそう聞いてくるナマエ。

俺は何だか疲れきって、力が抜けたように椅子に腰を下ろした。そんな俺を見てナマエは更に首を傾げている。

…いや、そもそも首を傾げたいのはこっちだ。
何故こんなに俺は疲れているんだ…。
 
ブラスカ様もつまらない事を…。

俺がそう思っていると、ナマエも興味が薄れてきたのか今度は俺の持っていた本に興味を示してきた。





「アーロン、なーに?その本」

「…ああ…魔術書だ。書庫で見つけたからお前に渡そうと…、目を通してみたらどうだ」

「へー!読む読む!ありがと!」





魔術書を渡してやるとナマエは笑った。


そんな笑顔を見て、ふと思った。
コイツが消える?今、こうして目の前で笑っているというのに?

しかし、それは確かに…きっと、いつか来るかもしれない未来。


だが…この時はまだ、漠然としか考えていなかったのかもしれない。


本当にそんな日が来ること。

なぜ焦ったのか。その理由を。



END



10年前のお話。時期は…まあファイガ使えるようになった後ならご想像で。←

初番外編。初アーロン目線。
うう…キャラ崩壊が心配すぎる…!

アーロン、ジェクトはともかく、ブラスカは描写が少ないので特にキャラがあやふやです。
一応、策士さん目指して書きましたが…大丈夫か、これ(汗)

あとジェクトは?と言うツッコミは心の中でそっとしてください(おい)
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