強い人 ナギ平原。 そこは究極召喚を手に入れた召喚士がシンとの決戦の場として選ぶことからその名がついた広大な土地だ。 そんなナギ平原の中でもチョコボでしか行くことの出来ない奥深く…そんな場所に、長らく放置されているひとつの寺院があった。 「よく来たな、ユウナ」 シンとの決戦に備え、装備やアイテムの調達をするため、飛空艇でスピラ中を巡っていた時のこと。 寺院の中に入ると、そこにはひとりの女性の姿があった。 彼女は召喚士ユウナとそのガードの一行に笑みを向けて歓迎してくれる。 女性の名前はベルゲミーネ。 ザナルカンドを目指す旅すがら、よくユウナの召喚の修行の相手をしてくれたやり手の召喚士だった。 「ここは、いったい…」 「レミアム寺院。かつてナギ平原の中心地だったが、シンに襲われ見捨てられたのだ」 辺りを見渡したユウナにベルゲミーネさんはそう教えてくれた。 「そんなとこにひとりで住んでんのかよ。あんた…何者なんだ?」 ティーダが首を傾げて尋ねる。 いや、ティーダというよりそれは全員の疑問だった。 見捨てられた寺院に女性召喚士がたったひとりで住んでいる…。 その状況は誰が聞いても不自然に感じるだろう。 「話せば長くなるな…。これでわかるはずだ」 そんなあたしたちにベルゲミーネさんは自分の正体を明かしてくれた。 これでわかるはず、そう言った瞬間、彼女の体からはふわりと幻光虫が飛んだのだ。 あ…、と。 思わず、ちょっと声が出た。 確かにそれで理解した。 その時あたしはちらりと隣に立っているアーロンに目を向けた。 理由は色々、かな。 アーロンの目にはどう映ったのかな…とか、そんな感じ。 だって、つまり、同じだったから。 「あんたも死者か…」 「異界送りはやめてくれよ。こんな体になっても私にはまだやれることがある。若く未熟な召喚士に手を貸す…それが私の役目だ」 ティーダの言葉がすべてだった。 そう、ベルゲミーネさんは死人だった。 だけど、自分にはまだ出来ることがあると言う。 そう言いながら彼女は笑顔を見せる。 その笑顔を、あたしは不思議と眩しく感じた気がした。 「父親を超える実力をつけたか、私を相手に証明して見ろ」 「頑張ります」 こうしてユウナはまたベルゲミーネさんに召喚バトルの相手をしてもらうことになった。 この瞬間に関してはガードは手出し無用。 だからあたしたちは少し離れたことろで召喚獣のぶつかり合いを見学していた。 「おい…ナマエ」 「あら、アーロンではごっざいませんかー。なに?」 「…いや、間抜け面で見ていると思ってな」 「なんでいちいちいちいちそーゆーこと言うかね!?」 召喚獣の技は迫力があるから見ていて純粋に楽しい。 おお〜と感心していたら、近づいてきたアーロンがいつもの嫌味を飛ばしてきた。 まったくこのおっさんめ!いっつもいっつもいっつも!! …まあ、思いっきり感心して見てたから締まってる顔はしてなかったかもだけど。 うう…なんか否定しきれないところがツライ…。 そういえば、はじめてブラスカさんに召喚を見せて貰った時も「うわあうわあ」言ったっけ。 そんなことを思い出しながら、また目の前にある召喚獣に目を向けた。 ベルゲミーネさんはかなりやり手だしユウナももう引けを取らない程の召喚士になっている。 そのふたりのバトルとなれば迫力は満点で、結構見応えはあると思うんだよね。 そこからはアーロンと並んで召喚獣のぶつかり合いを眺めていた。 「ふーむ、でもさ、死人さんだったのかー。びっくりだ」 「吃驚と言いつつなんだその淡々とした物言いは」 「んー?いや驚いたけど、でもなんか腑に落ちた部分も多いっていうか、なるほどなーとも思ったってだけ」 しゃがんでバトルを見ながら話す。 ベルゲミーネさんは過去にユウナにこう言っていたことがある。 自分がシンを倒す前に貴女が倒してしまいそうだと言ったユウナに《私には無理だ。いや…無理だった、と言うべきかな》と。 あの言葉も今知った真実に繋がる言葉だったんだろうなって。 そして、だからこそきっと抱えているものもある。 「…死人か。未熟な召喚士に手を貸す…。あの人も、スピラの未来をすごく願ってるってことだよね。もしかしたら、そこには後悔とか未練もあるのかもしれない」 「…ああ」 「でも、なんだろう。ね、アーロン。あたしさっきね、なんとなくベルゲミーネさんのこと眩しく思ったんだ」 「何?」 さっき感じた事をくちにすれば、アーロンは不思議そうな顔をした。 あたしはアーロンを見上げる。 アーロンもこちらを見ていて、そのまま話を続けた。 「うーん。なんて言えばいいのかな。多分ね、後悔とかはあると思うの。召喚士である以上、自分がシンを倒そうって旅してたんだろうし。失敗…というか、きっとそういう思いをした。だけど、それでも前を向いてる。それって凄いことだよなって思ったの」 ああ、そう。 きっとユウナに接するベルゲミーネさんの笑顔に、そんな気持ちを感じた気がした。 強い人。 そんな印象は、道中で会っていた時も感じてはいた。 だけど今、さっきそれを改めて強く思ったのだ。 そしてそれをアーロンに話している理由。 「過去に痛みを背負っても、未来を変えようって戦えるっていうのは…凄いなあって思うよ」 サングラスの奥を見つめて、視線が合っているのを感じながら。 するとアーロンはフッと小さく笑った。 「もがいているだけ…とも言うかもしれんが」 「うん。それが凄いって言ってるの」 「……。」 真っ直ぐ言えば、アーロンは黙った。 言い切ってしまったから、返す言葉に少し悩んでるのかも。 なんだかちょっと珍しいね。 ふふん。してやったり?なんてね。 あたしは丸めていた膝を伸ばし、スッとアーロンの隣に立ちあがった。 「格好いいよ、とってもね」 よく冗談交じりに言う台詞。 だけどちょっと真面目に言ってみた。 ザナルカンドの遺跡でも言ったけれど、あの時もちょっと照れくさかった。 今も少し、照れくさい。けど、本心だ。 だって、いつもそう。 過去の失敗者たる自分なんて、そんな風に嘲笑う。 確かにそうなのかもしれない。 でも、そんな姿は眩しく映る。 諦めない。強い人。 その姿を素敵だと、あたしは素直に思うのだ。 END ×
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