年相応



「んーやっぱ試合の時は色々やるよなあ。客席に向かうときはやっぱ格好つけたいっスよね!」

「へえー?さっすがエースじゃん!」

「あはは、そういうリュックは?アルベド族だけの、みたいなのないのー?」

「ええ?べっつに無いと思うけどなあ…ナマエこそ元の世界とかどうなの?」

「んー…どうだろう。基本的っていうか、そういうのはスピラと変わんないしなー…。あ!スピラはエボンのお祈りが一番ポピュラー?」

「ナマエ、それはちょっと違くないかな…?」

「あれ?」





賑やかな声がする。
それはこの一行の10代が集まって騒いでいる声だ。

ティーダ、ユウナ、リュック…そしてナマエ。

サーチ機能で探知した宝を探しに降りた飛空挺。
宝は何事もなく回収し、もうこの場での目的は済んだ。

だが、天気がいいだの何だとリュックやナマエが息抜きをしたいと騒ぎしばしの間だけこの場に留まることになったのだ。

確かに、天気は良い。
だからと言って暑くはなく程よい緑と風が心地よい。

こうして緩やかな時間を過ごす機会もそう取れるものではないだろう。
俺もあつらえる様にあった岩に腰を下ろしこの休息に身を委ねることにした。

そんな中に響くのが、はしゃぐあいつらの声だ。





「ユウナはさあ、やっぱこう各地でユウナ様ユウナ様〜!言われたりするじゃん?そういう時なんか気にしたりする?」

「ううーん…特別こうとか、そう言う風に気にしたりとかはしないけど…」





その声を聞きながら、ちらりとそちらを見れば目につく笑顔があった。

ニコニコと、楽しそうにしているナマエの顔だ。

もともとよく笑う奴ではある。
だから特に珍しいものと言うわけでは無いが…。

そうだな、年相応…とでも言うのか。
歳の近い者と笑う姿を見ると、そんなことを思う。





「おーじさん!」

「……。」





そうして笑い声を聞いていると、しばらくしてぱたぱたと近づいてくる足音がした。

それは輪の中を抜けこちらにやってきたナマエの足音。
ナマエはひとり、俺の元へと駆けてきた。

ちらりと目を向ければニコリと笑みを返される。
そしてナマエは俺の隣に、俺の座る岩に共に腰を下ろした。

その様に、俺は聞いた。





「なんだ、あいつらとの話は終わったのか」

「んー?ああ、うん。いや皆は話してるけど。別に大した話してたわけじゃないし、いつ抜けても良いようなそんな感じだもん」

「そうか」

「そーだよー」





先程まで盛り上がっていた余韻だろうか。
へらへらと機嫌が良さそうだ。

まあ、なんというか…俺も話をしていている時は年下の扱いはしているだろう。
10年前ならまだともかく、いや10年前もそうした意識はあったはずだ。ならば、今なら尚の事。

10年前の旅で言うなら、ジェクトやブラスカも然り。
勿論、ナマエ自身もそうした立場で話をしていただろう。

だがナマエがそれを嫌がっていたというわけでは無い。
むしろ何かと構われ、可愛がられるその立場を楽しんでいるようにも見えた。

まあ、不満は無かっただろう。

だがやはり、同じ年頃で話す顔はいつも以上にはしゃいでいるように感じる。
楽しいのだろうと、純粋に思う。

…別に、構わんだろう。
ああ、何よりな事だ。

つまらんことを考えているな。
心の中で少し、そんなふうに自嘲した。

するとそんな俺の心など知る由もないナマエは俺にある提案をしてきた。





「ね、アーロン。一緒にスフィア録ろうよ」

「スフィア?」

「うん。さっき皆と話してたの。ポーズの事とかさ。ね、これ貰ったんだ」





そう言ったナマエの手には確かに小さなスフィアが握られていた。

それを見て納得した。
これが話のタネだったわけだな。





「…成る程。断片しか聞こえなかったが合点がいった」

「あ、聞こえてた?話してたら撮りたくなってさ。まあ別にキメッキメのポーズして欲しいとかじゃないから安心してよ」

「頼まれたところでやらん」

「わかってるって。ただ一緒にちょっとだけ撮ろうよってだけ。思い出思い出!」

「10年前散々撮ったがな」

「今の話!…いや、10年前だって撮ってないよ。ふたりでってこと」

「…ふたりでか?」

「うん。だめ?」





首を傾げて尋ねられる。

駄目…だと思ったとしても、その言葉は喉のあたりで消えるだろう。
現に今、一瞬言葉に詰まった。

なんだかんだ、甘いのだろうか。
まあ…こう言われてそう悪い気もせんだろう。

…いや…一体、先ほどの靄はどこへやら、だな。
気が良くなっている己を感じ、なんとも現金で単純なものだなと思う。

それに…思い出を残すと言う意味も、俺はもう10年前に思い知っている気がした。





「…残すのは、悪いものでは無いからな」

「お。やった!」





頷けばナマエはぱっと顔を明るくさせた。
その顔は楽しそうで、嬉しそうだった。





「ひとつくらいふたりで撮れたらいいな〜ってずっと思ってたんだよね」

「呑気なものだな」

「いいじゃんよ!」





ナマエが掌にスフィアを乗せる。
そうして少し身を寄せてきた。

…少し、くすぐったい。





「いっくよ〜…?」





起動させようとスフィアに触れるナマエ。
その際に、俺は一瞬ちらりとその横顔を見た。

楽しそうな、顔。

いくらでも眺めていられそうだと、馬鹿みたいなことを考える。
ああ、でもきっと…それを留めておくのは悪くない。

ふっ…と起動するスフィア。
ふたりで、その青い半球を覗きこんだ。


END
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