掴んだ赤色



飛空艇に搭載されていたサーチ装置でひとつの遺跡を発見した。

シンに挑む前に、手に入れられる力があれば手にしておきたい。
何かお宝でもあれば…なんて気持ちで降り立ったそこは、暗い暗い…物凄く不気味な場所でした。





「なんだよここ?」





辺りを見渡しティーダがそう言った。
誰がどうみても不気味としか言いようがないその雰囲気を見ての言葉だった。





「700年くらい前…エボンの教えにそむいた僧官が処刑されたわ」





その声にルールーが答えた。
どうやらこの場所について検討がついているらしい。

でもそれはルールーだけじゃなくて、ワッカやユウナも同じみたいだった。





「ああ、反逆者オメガだろ?」





ワッカが口にしたひとつの名前。
すると、それを聞いたユウナも頷いた。





「オメガは寺院を恨み、魔物となってスピラを彷徨う…」

「くらーい地面の底が好きだって言い伝えだよな」

「それが…ここ?」





ふたりが話す言い伝えを聞き、どことなく臆するような声で聞き返したティーダ。
するとそんなティーダの声にちょっと意地悪な台詞をアーロンが一つ。





「怖気づいたか」

「んなワケねえだろ!」





ティーダはムキになるようにそう言ってアーロンに言い返した。

いや…でもここは…。

皆のやり取りを見ながら、あたしはそんな風に心で呟く。
目を細めてじっと奥を見つめてみたけど、暗くてよく見えなくて、それがまた余計に不気味だった。




「ナマエ」

「ん?」

「なんだ、どうかしたか」

「え」





とりあえず先に進んでみることになり、奥へと進みだす。
その途中、わりと近くを歩いていたアーロンにそう声を掛けられた。

あたしは歩きながらアーロンを見上げた。





「なにが?別にどうもしてないけど…」

「そうか?強張っているように見えるが」

「え…」





そう言われ、そうかな、なんて言おうとした時、どこからか突然ガタッなんていう物音がした。

此処には魔物もうようよいるし、それは別に何ら不思議な事じゃない。

だけどその瞬間、あたしは思わずビクリと肩を小さく震わせてしまった。
そして目が合う目の前にいるアーロンさん。

…うう、なんだか若干バツが悪い。
あたしは小さくため息をついた。





「いや、さっきアーロンに怖気づいたかって言われてティーダ否定してたけど…やっぱ薄気味悪いところだなあって」

「意外だな。こういった類にそう苦手意識を持っている印象は無かったが?」

「うーん…まあ、そう…かな。自らわざわざ足突っ込んで行こうとは思わないけど、特別苦手ってわけでは無い…とは思う」





おばけとか幽霊とか、そういう話が苦手かどうか。
それを聞かれれば、あたしはきっと普通とか別にと答えるだろう。

例えば、お化け屋敷とか、自分から好き好んで入る事は無いけど連れが入りたいと言うならそれに付きあうくらいはするだろう。

あたしのホラーに対する耐性と言えば、多分そんなもんだ。

アーロンもきっと、そんな印象を持っていたんだろう。

なら、今はどうなのか。





「んー…なんだろう…?何となく…今回はちょっとガチっぽいかな〜…みたいな?心なしか寒気も感じる気がするし…」

「まあ、オメガがいるならあながち気のせいではないかもな」

「うええ…怨念やばい感じ?なんか余計なのも寄ってきてそう…。まあ特別苦手じゃないけど得意ってわけでもないからねえ…人並みに嫌だなぁとは思うよ。でも今は雰囲気に呑まれちゃったのもあるかなぁ…」

「なるほどな」





アーロンは納得したように頷いた。
するとその直後、またもどこからか音がした。

不意打ちは弱い。

お化け屋敷とかでも不意は嫌いだけど、まあ今は特にちょっと敏感になってる…かもね。

思わず「うっ…」となって、そのままついついアーロンの赤い布をひしっと掴んでしまった。

ハッとした時にはもう既に遅し。
はたりと目が合う。

当然、アーロンには笑われた。





「フッ……思いの外、可愛い反応をしているじゃないか」

「う、うるせえやい…!」





くくっと笑われる。
やっぱりバツが悪い感じはある。

でも一度ビビっちゃうと、やっぱちょっと引きずるよなあ…。
その時のモチベーションって結構あるよね…。





「はあ…出来れば早く出たいなあ…」





ぼそりと呟いた。
はっきり言えば、それが本音だもの。

すると、アーロンはまたフッと小さく笑った。





「残念だが、先は長そうだぞ」

「…だよねえ…」

「フッ…」

「…そんなに笑うなし…」





さっきからアーロンは笑いまくってる。
くそう…面白がりやがって!

むすっと睨んでみるけど、大した意味はない。





「見ている分には面白いがな」

「…悪趣味!」





変わらずアーロンは楽しそうだ。

意地の悪い言葉。
捻くれて、からかってくる。

あたしは情けないやらなにやらもう色々凹んできた…。





「……。」

「どうした」

「いや…別に」





ふいに黙ったら、アーロンにそう声を掛けられた。
いや何も言わなかった、というか言えなかったけど…。

だた、気になったのは掴んだままの赤い布だ。
その事実に高鳴りが生じて、じわりと胸に染みた。

ああ…なんか単純じゃない?
でも、気が紛れたと言うか…ちょっと意識がそっちに持って行かれた感がある。

そもそもさっきもさ…可愛いて…。
このおじさん、唐突に何言ってくれてるんだ…。

ちょっと、耳が過敏に拾ってしまった。

いや、からかいの台詞なのはわかってるけども。
でもやっぱり、一度こうなると引きずるのは同じというか…。

思わずきゅっと指に力がこもる。

まったくもって悔しいが、自分はことごとくこの人に弱いなあ…。
なんて、振り払われることのないその腕にそう思った。



To be continued
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