誰よりも幸せに 「んーっ!風が気持ちいー!」 「調子にのって落ちるなよ。助けんぞ」 「落ちません!」 飛空艇の甲板の上。 時刻は夕暮れ。オレンジ色の光がスピラを照らす。 ゆるやかな風に髪を流し、ゆったりとした時間を過ごす。 究極召喚無しでシンを倒そう!って意気込んでる状況的には和んでる場合じゃないけれど、美しい景色と優しい風は、なんだか少し贅沢に思えた。 「ね、アーロン!綺麗だね!」 「ああ…」 甲板の先から振り向き、中央あたりにいるアーロンに笑う。 アーロンもまた、オレンジ色の綺麗な光を見つめていた。 「えへへ!可愛いナマエちゃんと見られてとっても贅沢でしょう!」 「自分で言って違和感は無いのか」 「なんだとこのやろう!」 心ない返しにキッと睨みを利かせてみる。 違和感て何だ!すっげえ失礼な! もっとも、こっちだってふざけて言ってるけどね! アーロンなら皮肉で返してくるとわかって言ったけどね! だけどやっぱりムカつくものだ。 理不尽だって?ええ、勿論わかってますとも! 「まあ、可愛いかどうかは置いておくとして」 「置いとくな!」 「お前と見られることは…確かに贅沢、かもしれんな」 「へ…、」 だけど、突然。 本当に突然、そんなことを言ってきた。 聞き間違いかと思って、一瞬言葉に詰まる。 少し目を丸くしてアーロンを見つめた。 するとアーロンは、フッと軽く笑みを零した。 「言っただろう。俺は、お前に会いたいと願った。もう一度、こうして共に夕陽を眺められると言うのは…恐らく、最高に贅沢な時間だろう」 「い、いきなり何を言い出してるんですか…」 さらっとそんなことを言いだされたら、流石に困惑してしまう。 顔が熱くなって、鼓動の音が鮮明になる。 そんな様子は、アーロンの意地の悪さを煽るのだろう。 目の前のおじさんは、くつくつと笑った。 「まったく、面白い反応を見せてくれる」 「う、うるさいな!いきなり変なこと言われて、ビックリしない方がどうかしてるよ!」 「フッ…そうか」 「……本当、急にどうしたの?」 小さく息を吐いて、少し落ち着いてから尋ねてみる。 言っちゃ悪いが、奴は意地が悪いのだ。 事、あたしに対しては特に酷いと常日頃から感じてる。 …だけど、今の台詞を冗談で吐かない事も…今のあたしは知っている。 するとアーロンはポスン…とあたしの頭に手を置いた。 「いや…残された時間をどう過ごすか、俺も俺なりに考えてみてな」 「…それで?」 「その中で、お前に何の事を伝えられるのか…、そんな事を思った」 頭に触れる手から、優しさが伝わってくるような…そんな気がする。 居心地がいいと言うか、そんな感じだ。 見上げてみると、サングラスの隙間から見える瞳は、それが間違いじゃないと言っているみたいだった。 「ナマエ、誰よりも幸せになれ」 落ちてきた言葉。 その瞬間、わしゃっと髪を撫でられる。 あたしは聞き返した。 「幸せに?」 「ああ…。俺はそれを願っている。俺自身が、心から」 あたしの幸せを願っている。 目の前にいるこの人は、それを願っていると言う。 いつか、幸せにしてやれないと言われた事がある。 その言葉だって本当は…幸せになって欲しいの裏返しだった。 改めて言われて、少し寂しくもあったけど…でも、嬉しいという気持ちも湧いてくる。 だけど、それでも小さな悪戯の返しを思いついてしまうのは…あたしらしい、のかもしれない。 「誰よりも幸せに、か。ふーむ、それだとティーダやユウナより幸せになってしまいますが、そこんとこよろしいですか?」 ティーダとユウナ。 大切な人の、大切な子供。 そんな事を聞くのも、ふたりの幸せを願っているからで。 その問いに、アーロンは笑った。 「フッ…、あいつらの誰よりの幸せは、ジェクトとブラスカが一番に願うだろう。ならば、俺が願うのは…お前の幸せ、そう言う事だ」 「…アーロン」 ぽすっと…アーロンの胸に、頭を寄せる。 アーロンもまた、それを許すかのようにあたしの後ろ頭に手をずらした。 あたしは頬を緩ませ、そっと呟いた。 「ふふふ。あたしが誰より幸せを感じてる時は、ティーダもユウナも幸せになってる時だと思うよ」 「…欲張るな、お前は」 「欲張って何が悪い、全部叶えば最高、だからね」 うん、そうだ。 誰よりも幸せに、なってみせようじゃないか。 「任せとけ」 END ×
|