魔法剣



「なあなあ、 ナマエ!」





旅の途中、ちょっとした休憩タイム。

そよりと吹いた風が気持ち良くて、くあっ…と、欠伸が出た。そんな時、ティーダがやたらと楽しそうに声をかけてきた。





「んー、なーに?」

「あのさ、 よくナマエがアーロンの刀にファイガを掛けるアレ!あるじゃんか? 」

「魔法剣?」

「あ!そーそ!それッス!魔法剣!」





ティーダはあたしの隣に腰掛けて、頷く。

魔法剣。
それは、あたしがアーロンの太刀に炎を灯し、アーロンがそのまま敵に刀を振り下ろす、合わせ技。

まあ、別にファイガである必要は無いんだけど。
本当はサンダーだって、ブリザドだって構わない。
ただ、どうせ使うなら強い方が良いから唯一使える上級魔法を使っているだけ。

前回の旅でアーロンが提案してくれて、試してみたらかなり良い感じで手応えを感じて。
今回の旅でも活用中。





「で、何?魔法剣がどーかした?」

「いやさ、アレって俺も出来ないのかなあって思ってさ!」

「ティーダでも?」

「お前の剣では意味が無いだろう」





そんな話をしていると、上から別の声が落ちてきた。
顔を見上げると、そこにあったのは赤。





「あ。アーロン」





会話に入ってきた声の正体はアーロンだった。

ティーダもアーロンを見上げる。
そして聞いた。





「何スか?俺の剣がどうかした?」

「…お前の剣は水属性だろう。ファイガでは相殺されて終わりだ」

「あ。言われてみれば」





ティーダがワッカから貰ったと言う剣、フラタニティは確かに水属性の追加効果があったはず。

ファイガとの相性は最悪なのは誰だってわかることだ。
すっかり忘れてたわ。





「んー。でもさ、その辺の雑魚なら初級魔法でもいけるんじゃ無いッスっか?」

「うーん…そんなにやってみたいの?魔法剣」

「やれるんならやってみたいッスよ。正直言うと、初めて見たとき単純にスゲエって思ったし」

「やめておけ」





凄いと思ってくれたのは素直に嬉しい。

でも、アーロンはそんなティーダの言葉をバッサリ。
ティーダは不満そうにアーロンに言い返す。





「なんでッスかー。ははーん。さてはおっさん、いい歳こいてヤキモチでもやいてんのかー?」





ふざけて冗談を言いながらニヤニヤするティーダに、アーロンは息をついた。そりゃもう、呆れたように。





「…お前の為に言っているんだ」

「は?」





アーロンの言葉にきょとんとするティーダ。

一方、あたしは苦笑いを溢した。
なぜって、アーロンの言ってる意味がわかったからだ。

確かに、それはティーダのためかもしれない。





「…昔、ジェクトもナマエに自分とも魔法剣が使えないかと持ちかけた事があった」

「へ?」

「やってみたんだよー、ジェクトさんとも。どうなったと思う?」

「どうって?」





意味が分らない。そんな顔をしているティーダ。

あたしは思わず、その時の事を思い出して笑ってしまった。
いや、あれは悪いことをしたよ、本当に。

でもアーロンも少し口角を上げ笑ってた。
アーロンはそのままティーダに教えた。





「間一髪で避けたが…、ジェクトの髪は焦げたな」

「あ!?」

「なーんか上手くタイミングが合わなくてさー。髪焦がす…ていうか、怪我しちゃうかもって危険性込みで良いなら…試してみる?」





にっこり笑ってそういって見た。

するとティーダはヒクッと顔を引きつらせた。





「う…やっぱ遠慮しとく!」





そして、そのまま逃げていった。

別に逃げること無いでしょーに!





「あはははははっ!!」





でもなんか、おかしくて本格的に笑ってしまった。

不思議だよなあ。
アーロンとは一発で上手くいったのに。
だから多分調子に乗っちゃったのかな。ジェクトさんも出来る思とったんだけど。
全っ然上手くいかないんだもん。

ジェクトさんの息子のティーダは…どうなっちゃうのかなあ。





「まあ、アーロンと結構場数踏んだし、実際問題今なら出来るかもね〜」

「…どうだかな」

「む。なにさ〜。あたしは前よりタイミングのコツとか少しは上達したかな〜って思うけど。あ、本当にヤキモチ???」

「……。」





にしし、と笑いながらさっきとティーダの言葉を借りた。

するとアーロンには顔をしかめられた。
まあそれはほんの悪戯心で言ったまでだ。

だからすぐに冗談だよ、と言おうとした。
でもそれが音になる前に、アーロンが先に言葉を発した。





「…まあ、面白いとは思わんだろうな」

「へっ」





びっくりした。
思わずちょっと声が引っくり返った。

だって聞こえたのは想像もしなかった言葉だ。





「そ…そう…」





なんだか不意を突かれたような…。
言葉が出なくて、あたしはそれだけ言って少し視線を逸らした。

でも、出来るかも…とは思うけど、実際にするかどうかはまた別問題だったりするのだ。





「ま、でもね…」

「なんだ?」





小さく呟けばアーロンに聞き返される。
あたしはニコッと微笑んだ。





「あーんなこと言ったけど、今はアーロン以外とはする気ないなあって」

「……。」





そより、そより。
風が気持ちの良い風が、また吹き抜けた。


END
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