炎を纏った太刀



「でかいな…やっぱ」





立て掛けてある大きな刀。
それを見つけたあたしは、その前にしゃがみ、それをじっと眺めてた。

太刀…。
きっと重くて、あたしじゃ持ち上げる事すら叶わないんだろうな。

だからそっと、触れるだけ…。
指先に、ひた…と冷たさが伝わった。





「何をしている」

「あ。おじさん」





がつん!!

持ち主の声が聞こえた。
振り向き様に拳骨を喰らう。

いったい!本当!
ちっとは手加減しろー!!

って言う目で見あげてやったら「何だその目は」と睨まれた。

やばい。これは勝てそうにない。
そう悟ったあたしは早々に負け認めておくことにした。





「…怖いです。すいません。グラサンで威力倍増です」

「…それで謝ってるつもりなのかお前は」





今度はなんとも言えない目で見られた。
プラスため息までつかれた。

…まあ、別にいいけれど。

するとアーロンはちらっとあたしが触れた己の武器に目を向けた。





「太刀がどうかしたか」

「え。あー…んー、いっつもこれにファイガ灯してるんだなーって」





アーロンに聞かれ、あたしは素直にそう答えた。

今はひんやりとしてる太刀。
でも戦闘では、あたしが放った炎を纏い、敵に向かって振り下ろされる。





「ああ。お前の魔法が上達すれば、もっと有効な敵も広がるのだがな」

「いちいちうっさいな…。ああ、そうだなで止めとけっての」





まったく、本当に嫌味なおっさんだ。
けど、サンダガ、ブリザガ、ウォタガも使えれば攻撃の幅が広がるってのは事実だから何とも反撃出来ないのが痛い。

でも…そんな意地悪の裏に、優しさがある事を…あたしは知っている。

元々、魔法剣を提案してくれたのはアーロンだった。

前回の旅、ブラスカさんから特訓を受けて使えるようになった魔法。
使えるようになって、少しでも役に立てるようになって…あたしは本当に嬉しかった。

でも、あたしは…魔物もいない、戦う事を必要としない世界で育った。
だから戦闘に慣れてきた頃…嬉しさと同時に、何かを傷つけると言う事に対してジレンマを感じる時期があった。

ちょうどそんな時だ。
アーロンが魔法剣を提案してくれたのは。





『ナマエ。俺の刀に魔法を使ってみてはくれないか』

『は?』

『魔法を纏わせ振り降ろせば、威力は増すと思ってな。弱点がある敵にも有用だろう』

『え』





確かに出来たらバトルが楽になる…っていうのもあった。

でも、でも本当は…それだけじゃなかった。
アーロンは気遣ってくれていた。

アーロン…本当は気付いてくれてたんだよね。

だから少しでも、あたしの気持ちが軽くなるように…。
直接攻撃する機会を減らして…あたしが考える時間を作ってくれた。





「…アーロン」

「なんだ」

「…ありがと」





あまりに突然。
10年越しのお礼に、アーロンは怪訝な顔をした。





「…いきなりなんだ。なんの礼だ」

「…べっつにー」





澄ました顔して誤魔化した。

ああ…もう。
なんかずるいよなぁ、この人。

いつもは本当、意地が悪い。
そりゃもう性格ひん曲がってんじゃないのかってくらい腹が立つ。

でもふっと…手を差し伸べてくれる。
困ってる時は、いつも気付いて助けてくれる。





「でも….やっぱりありがとう」

「意味がわからんな…」

「あはは。うん、自己満足かも。でも…ちゃんと伝えとくべきだと思ったから」





いつもはあまり言えない。

でも、感謝してる。
いつも、そう思ってる。

だからたまには素直になってみるよ。

届くうちに、伝えられるように。
ちゃんと、ちゃんと…。



END
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