さらさらと優しい音で流れる小さな川。
その川に掛かるこれまた小さな橋に立つシルエット。

ツンとした特徴的な影が月の光で薄く伸びる。

そのシルエットのおかげで夜の中でもそれが誰なのかすぐにわかった。





「おや。元ソルジャーくんじゃありませんか」

「…ナマエか?」

「あたり」

「……こんな時間に何か用か、タークス」

「休暇だって言ってんじゃんか。君に危害を加えるつもりはさらさら無いよ」





最北西の土地ウータイ。
私達タークスは今、この地でささやかな休暇を出ていた。

昼間、ばったり会ってしまった敵対しているクラウド一行。
まさかこんな時間にもばったりしてしまうとは思っていなかった。





「隣、いい?」

「…構わないが」

「じゃあ失礼します」





からん、と響く足音。
ウータイ特有の鼻緒のある履物。

それを響かせながら、私は橋から川を眺めるクラウドの横に立った。





「クラウド、こんな時間にこんなとこで何してんの?」

「…夜風に当たりたくなっただけだ。あんたこそ何してる。女がひとりで」

「おや、意外と紳士なのね。でもご心配なく、私、タークスだから」

「………。」

「…君と同じ。この土地の風は何だか気持ちがいいから」





和の匂い、とでも言うのだろうか。

独特の文化が生む空気。
草花もこの土地特有のものがあるからかもしれない。

色んな要素が混ざり合って、この土地の風は気持ちがよかった。





「あ、昼間はお世話になりました。おかげでイリーナを助けられたよ」

「別に手を組んだわけじゃないだろ。こっちもユフィが捕まったから互いに手を出さなかっただけだ」

「まあね。レノとルードもそう言ってけど、でも私はクラウド達がいたのはラッキーだったと思ってるから。先にコルネオ見つけたのそちらさんだしね。友達を助けられた私個人のお礼。深く考えず頷いておけばいいの」

「…変わり者だよな、あんた」

「タークスなんて皆変わり者よ」





ほんのり笑った。

昼間、ドン・コルネオに捕らえられてしまったイリーナと忍者の子。
敵同士だから堂々と手を組むわけにはいかない。いわば、利害の一致というだけのこと。

でも、そんなプライドなんかどうでもいい私はお礼が言えてすっきりした。





「…そういえば、スーツじゃないんだな」

「そりゃそうでしょ。寝るときまであんな堅苦しいの着てないよ。ふふ、似合う?」





クラウドに尋ねられて気がついた。
ああ、風が気持ちいいのは今召しているものにも理由はあるかもしれない。

袖を持ち、そっと揺らしてニコリと微笑む。
旅館で用意してもらった浴衣姿。

よく見れば彼も着ている。

クラウドはちらっと少しこちらに視線をよこすと、素っ気無く一言だけ言った。





「さあな」

「む。酷いなあ。さっきは紳士だったのに」

「興味ないね」

「クラウドは結構似合うじゃない」

「…………。」





黙ったクラウド。
多分反応に困ってる。

彼はこういうところが面白い。





「…何笑ってるんだ」

「別に?」





くすくす笑えば彼は少し不満そうな顔をした。

彼は確かに私達の敵。
今は休暇だから穏やかなものだけど、命令があるならきっと私は全力でぶつかるだろう。

だってそれが任務で仕事だから。

だけど、こんなにも凄くゆったりと出来るのは、私個人としてはクラウドのことを嫌ってなどいないからだ。





「じゃあ、そろそろ戻るね。イリーナにばれたら色々面倒だから。ぐっすり寝てたから大丈夫だとは思うけど」





今日は色々あったから、イリーナはきっと疲れてるはず。
だけどもしバレたら「ナマエ先輩どこ行ってたんですか!」なんて怒られてしまいそうだ。





「待て」





そっと手を振って、からん、と足を鳴らせば呼び止められた。
振り向くとクラウドは少しずつ近づいてきた。





「なに?」

「…宿、どこなんだ?」

「え?向こうにある大きな木の立ってる…」

「……送る」

「へ?」

「…行くぞ」

「く、クラウド?」





首を傾げる私を無視して、クラウドが私がさした方に歩き出す。

ああ…ちょっと走りづらいな。
からんからん、と追いかければ、クラウドは立ち止まって私が追いつくのを待った。





「…クラウド?」

「…タークスでも、一応女だからな」

「………。」





そう易々とはやられない。
そんなこと彼もわかってるだろうし、私自身も自負してる。

でも、それでも。





「ふふ、じゃあお願いします」

「……。」





それでも笑って頷いたのは。
それでも送ると言ってくれたのは。

もしかしたら、ひょっとすると…?


そんなこと、口にするつもりは無いけどね。


END




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -