「いててて…」





爪に擦られた腕。
滲む赤が我ながら痛々しい。

というより結構痛い。
じんじんと嫌に響く鈍いもの。

早く治してしまいたい。
そう思ったあたしは彼に呼びかけた。





「ホープー!」

「はーい」





呼べば振り向き、明るく返事をして駆け寄ってきてくれた君。

彼は希望を名前に持つ男の子。
回復や補助に長け、旅ではなかなか欠かせない存在になっていた。





「どうしたんですか?」

「あはは、さっきの戦闘でちょっと怪我しちゃって。ケアル頼んでもいい?」

「お安いご用です。じゃあ傷口見せてくださ…って、ちょ…っ」





えへへ、と苦笑いしながら見せた傷を見るなりホープは目を見開いた。

正直この傷、見た目がかなり派手だ。
いや、ちょっと見た目が大げさって言うか。

…意味は同じか。とにかく派手です。

でもそんな顔されるとちょっと気まずい。





「ちょ、なんですかコレ…!」

「いや、奴の爪がちょっとね…」

「なんでもっと早く呼ばないんです!傷でも残ったらどうする気ですか!」

「は、はあ…す、スイマセン…」






年下の男の子に物凄い怒られた。

うわー…いたそー…とか眺めてたのは認めます。
だから反論する気はまったくございません…。

でもなんかちょっと凹んだ。





「まったく…ナマエさんのことだから傷見て凄いなあとか思って眺めてたんでしょう?」

「な、なんでわかるの…」

「ナマエさんはわかりやすいですから」





図星をつかれたあたしを見て、ホープはくすくす笑ってた。

そして笑いながらも「見せてください」と優しく唱え、癒しの光で傷を包んでくれた。

光に照らされ、すっかり消えた爪のあと。

おお…これまた凄いもんだなあ…。
こっちも何度も見るたび感心してしまう。

ヒーラーの力って凄いなあと思った。





「いいなあ、ヒーラー。あたしもヒーラーの力に特化してれば良かったのに」





感心すると、ホープは目を丸くした。

残念ながらあたしはヒーラーの方の才能はあまりないらしい。
自分で自分の傷を回復できるならそれに越したことはないのに。





「…まあ、傷を負ってもすぐに癒せますから便利といえば便利ですけど…でもヒーラーじゃ敵を倒せませんよ。全部の力に見合った状況があるわけですし」

「そうだけどさあ…」

「あははっ、だけどナマエさんは結構ぼんやりしてますから、使えても良かったかもしれませんね」

「な、ちょ!なんだとーうっ」





ぼんやりとか言われた。
…この子はもう、本当にこういうこと言うようになっちゃって…!

ぎゅむ、と頬をつまんでやった。
するとホープは「痛い、痛いです!」と許しを乞う。

反省したかと頬を放せば、彼はまた笑った。





「ふふ、でも放置しておいたら痕が残りますし、本当に使えても良かったかもしれないですね」

「でしょ?やっぱいいなあ、ヒーラー」

「でも…やっぱり僕はナマエさんがヒーラーに特化していなくて良かったとも思ってしまうんですよね」

「え?」

「色々と矛盾してるんですけどね」





そう言ったホープの言葉がまったくわからない。
訝しるあたしに、ホープは頭の後ろを掻いた。





「なんで?あたし、ヒーラー使えない方がいい?」

「いや、ナマエさんが使えなくて僕が使えるっていうのが重要なんです。少し不謹慎かもしれないですけど」

「不謹慎?どゆこと?」





首をかしげるあたしを見ながら、ホープはまた微笑んだ。





「だって、こうやって頼ってもらえるでしょう?」





浮かべられたのものは格好いいというよりは、まだ可愛らしい微笑み。
でもその時あたしは確かに小さく鳴った心音を感じていた。



END



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -