「あら、やっときたの?」





背中に足音が聞こえた。
振り向くとそこには懐かしい雰囲気。

赤い布に、徳利が揺れる。

ああ、変わったと言えばサングラスだ。
それでも隠しきれない大きな傷は、私が生前見たものより生々しくは無い。





「久しぶりだな」

「あれから10年だもの。なんか老けたね」

「…お前は、変わらんな」

「だって老ける必要なんてないもの。若い姿のままの方がいいでしょう?」





くすくす笑った。
そうしながらゆっくり近づき顔を見上げる。

ああ、確かに彼は老けた。
でも、ちゃんとやっぱり彼だった。





「アーロン、お疲れ様」

「…まったくだ。楽な旅では無かったぞ」





そう言いながら、アーロンは腰を下ろした。
私もそれに合わせて隣に座った。





「ユウナと…ティーダくん?」

「ああ…、何かと世話が焼けた」

「あははっ、まあ…あたしたちの時は、10代なんて居なかったもんね。いいな、ちょっと楽しそうだなって思ってた」

「ならば手を貸して欲しかったものだ」

「だって、まさか残っちゃうなんて思わなかったから」





思い出すのは10年前。
発動した究極召喚で、あたしとアーロンは大切な人を失った。

ブラスカさんとジェクトさん。

究極召喚を発動した召喚士はその命を散らし、その祈り子となった者はシンに変わる。

最低最悪の、苦い運命。
終わらない死の螺旋にのみ込まれた。

その後、あたしはアーロンとユウナレスカに挑んで見事返り討ち。
傷だらけで動けなくなったあたしを背負い、アーロンはガガゼトを這い降りてくれた。

でも…そんな彼も、もう限界で…。

あたしは何もかも、どうでもよくなってしまった。

旅は終わった。
…愛する人も、目の前で力尽きようとしている。

そんな世界に、なんの未練があるというのだろう。

だから死を受け入れて、何に縛られることなく異界に逝くことを拒まなかった。





「まさか死人になっちゃうなんて。異界にいなかったから…魔物になっちゃったのかと心配したよ」

「フッ…一歩間違えば、それもあり得たかもしれんな」

「笑いごとじゃないわ…それ」





少しだけ目を細めて伏せた。

一緒に眠ることができるのなら、もうそれでいい。
それ以上、何も望まない…。

そんなことを思った私は絶望した。

彼は…まだ異界を望まなかった。
私なんかと違って諦めず、ジェクトさんとの約束を果たし…スピラを螺旋から救い出した。

だから…私は、自分の愚かさを知った気がした。





「私…すっごく弱い人間だったんだって実感した…。弱くて…異界に逃げたの…」





さっきまでは、どこかひょうひょうとしてた。

でも…やっぱりアーロンを見たら、色んな気持ちが蘇った。
異界に来てから、ずっと苦しかったのよ…。

そう零した私の頬に、大きな手が触れた。
見上げればそこにはサングラス。





「…死人など、なるものではない。だからお前が異界にいったのは間違いなどではない。それに…言っただろう。楽な旅では無かったんだ。過去を見つめなおし、向き合い…時にはえぐられる様な気にさえなった…。俺は…お前にそんな思いをさせずに済んで良かったとさえ思っている」

「…アーロン…」





触れる手が、とても懐かしい。
私はどれ程この手を望んでいたのだろう…。





「だから…少し眠らせてくれ。生者の振りは…何かと面倒だったでな」

「…うん…」

「…やっと、お前の傍で安らげる…」





抱きしめる様に、もたれ掛かる大きな体。
私はその背中に手を回し…ぎゅっと抱きしめ返した。

見えないけど、きっと彼は目を閉じた。

…ねえ、貴方はね…、私の心の引っかかりもとってくれた。
死を受け入れてはしまったけど…私だって、すごく悲しかったから…。

だから…。





「おやすみなさい…」





どうか貴方に…安らぎを。



END



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