写真とコーヒー

夜、ある標にてのキャンプ。
あたしは向い合せる様に椅子に座り、プロンプトと共に今日彼が撮った写真を眺めていた。





「ねーね、ナマエ。ほら、これなんか格好良くない?俺結構好き〜」

「おおおお〜…!!」





そう写真を一枚見せてくれた彼の声量は抑えられたものだった。
そしてそれは写真を受け取った私の声も同じく。

客観的に言えばこしょこしょと言ったところだろうか。
まるで内緒話でもしているかのよう。

いや、実際に内緒話で間違っていないのだろう。





「やだ、プロンプト…ドストライクだよ、これ」

「えへへ、でしょ。俺さ、これ撮った時絶対ナマエに見せなきゃって思ってたわけ」

「うんうん!ナイス判断!」

「ねー。格好いいよね、このイグニス」





そう言ってプロンプトは笑う。
そう。私が彼に見せてもらっている写真…それは我らが軍師殿、イグニスが映っている写真だった。





「はー…本当、よく撮れてるね、これ」

「へへ、気に入って貰えたなら何より」





こうしてプロンプトと向かい合い、イグニスの写真を見せてもらう。
これが最近の私の夜の日課となりつつあった。

まあ…そう、ここまで見れば誰でもわかるのだろうが、私はイグニスが大好きだ。
もうかれこれ何年だか。ずっとずーっと昔から。

でもプロンプト以外には秘密。
「色恋のひとつもねぇのかよ、おめーは」とグラディオに突っ込まれた事あるくらいだからきっと他には誰にも気がつかれててはいない。

言わない理由は単純で、特に大した理由があるわけでは無くただ単に恥ずかしいからなんだけど。

いや、最初はプロンプトにだって言ってなかった。

ただ、もともとプロンプトに写真を見せてもらうのは好きで、前から良く見せて貰っていた。
その時に彼はふと、私に指摘したのだ。



《ねえ、もしかしてさ、ナマエってイグニスのこと好き?》



衝撃だった。
もう体の至る所からぶわっと熱が吹き出したような感じ。

だって、誰にも気が付かれた事無かったんだもん。

確かにイグニスの写真はよくチェックしていたけど、ばれない様に気を付けてはいたはずなのに。全員で撮った写真とかもよく見てたしね。
すると、プロンプトは言った。



《いやさ、俺がこれイグニスよく撮れた〜って思ってる写真をよく見てる気がして》



…つまり、プロンプトと私はなんとなく好みとかいうか感性みたいなものが同じみたいで。目につきやすいものが似てると言うか…。

指摘されてしまったのなら仕方がない。
誰にも言わないで欲しいとだけ約束を取り付け、私はプロンプトにだけ白状をした。

すると彼はちゃんと内緒にしてくれて、そしてこうして私の話に付き合ってくれるようになった。
最近ではイグニスの写真を多めに撮るようにまでしてくれて。

今までひとりで溜め込んでいた分、誰かに話せると言うのは案外私も楽しく感じていたり、振り返ってみれば白状して良かったな〜なんて感じている私は結構単純だろう。





「あ〜…もう私、この時間本当幸せだぁ…」

「あはは!ナマエって結構単純だよね」

「うーん。自分でも思ったんだけど、単純とかプロンプトに言われたくないっていうか何かムカつくね」

「ええ!なんで!?」

「あはは!冗談だよ。これからも期待してます!」

「あ、そ、そう?あははっ、うん。任せてよ〜。ご期待に応えられるよう頑張っちゃうよ」





そんなことを言いながら、お互いに笑い合う。
そして私は次に写真に手を伸ばそうとした、が、その時に急に背中に声を掛けられた。





「ナマエ、プロンプト」

「っどわあ!?!」





誰の声かはすぐにわかった。
しかしだからこそ驚いた。

おかげでとんでもない声が飛び出した。

目の前にいたプロンプトもあたしのその声にだいぶ驚いたのか「うわあ!」と釣られる様に声を上げて肩をビクつかせる。

そして多分…驚いたのは今声を掛けてきた彼もだろう。

あたしがゆっくり振り返ると、そこには目を丸くして立っているイグニスがいた。





「す、すまない。驚かせたか?そんなに驚くとは思わなかった」

「え!?あ、や!私がオーバーリアクションだった!いや全然気配に気づかなくて!」

「あ、ああ。コーヒーを淹れたから持ってきた。温まるから飲んでくれ」

「え、あ、コーヒー?」

「あ!俺、ちょうど飲みたかったんだ!ありがとー!」

「あっ、う、うん、私も飲みたかった!ありがと、イグニス」





どうやらイグニスは私たちにコーヒーを淹れて持ってきてくれたらしい。
私とプロンプトはカップを受けとる。するとプロンプトと目があって、奴は抑え気味に吹き出した。多分さっきの私の反応に、だ。

後で殴るぞ、プロンプト…!

理不尽だと言われればそれまでだけど、私は今また身体からぶわっと熱が吹き出しそうなくらい恥ずかしい感じだった。こう、八つ当たりして誤魔化したい気分だ。

でもまあそこはぐっとこらえ、コーヒーに逃げる。
すると砂糖の数のちょうどいい私好みのコーヒーの味が広がった。

…イグニスにこうして好みを把握して貰えているのは、ちょっと嬉しく思った。





「お前たち、最近そうしてふたりで写真を眺めている事が多いな」





イグニスはそう言うと、私とプロンプトの真ん中に置いたクーラーボックスの上に広げられた写真に目を向けた。

もう他の皆から見ても日課になっているのはきっと明らか。
プロンプトは笑って頷いた。





「うん。だね〜。ナマエが見たいって言うからさ〜。俺も楽しんでもらえるのは嬉しいし」

「そうか。ナマエ、写真好きだったんだな。ここのところ楽しそうに笑っている」

「え、そ、そう?」

「ああ…」





そんなにあからさまなのか、私は…。
あんたの写真見てるから余計にです…とは口が裂けても言えないけども。

まあ、楽しいと言うのは否定しない。





「まあ、私さ、王都にいた時はあんまり写真とか撮る事無かったけど、改めて見ると楽しいもんだなってのは思ったかも」

「ねー。結構いいもんでしょ。あ、ほらほら、ナマエこれどう?俺格好良くない?」

「ええー?自撮りー?」





プロンプトはそう言いながら自分の映る写真を私に見せてきた。
こうして本来の話からそれとなく逸らしてくれるのだろう。
勿論、他の写真も見ていたのは事実だけど。

でもそれとなくこうしてくれる彼はは本当に良い奴だと思う。
さっき殴るとか思ってごめんよ、プロンプト。

私はそんなことを思いながらプロンプトの写真を見て笑った。
本当に、私は純粋にこの時間が好きだなと改めて感じて出た笑みだった気がする。

するとその時、イグニスが小さく言った。





「…難しいものだな。俺も、昔からどうしたらナマエに笑って貰えるか考えていたものだが」

「え?」





思わず声が漏れた。
見上げればそこにあったのはどこかぼんやりしたようなイグニスの顔。
でもそれはすぐにハッとしたものに変わり、そしてそれを隠すみたいに眼鏡のズレを直していた。





「いや…俺が料理を作り始めた頃、お前やノクトがをそれを食べて喜んでくれたのは、結構嬉しかったからな」

「え、ノクト…?」

「……あ、ああ。じゃあ、俺はノクト達にもコーヒーを渡してくる。邪魔をした」





そしてそう言い残してコーヒーを淹れていたテーブルの方に戻っていく彼。

するとプロンプトが私にちらりと振り向いた。
その視線に気が付き、私もプロンプトを見上げた。





「ねー、ナマエ。俺さ、結構…ていうかかなり?脈ありだと思うんだけど」

「え」

「イグニス、結構焦ってたね」

「…え。焦って、見えた?」

「え、見えたでしょ。ナマエ、見えなかったの?俺、みんなとの中で一番付き合い短いけどさ、今のはすっごいわかりやすかったよ」





真顔で言ってくるプロンプト。
ちょっと、言葉に悩んだ。

いや…私も今のはちょっとアレ?って思った。

でもそれって私の都合のいい捉え方かなって。

だってそれって自惚れじゃない?

だけどプロンプトにそう見えたなら…。
ならばちょっとだけ、自惚れてみてもいいのだろうか。





「そっ、か…」

「んんー?照れてるー?」

「…いや、…そうだったら、いいね」

「いや結構マジだって」

「…ふふっ、ありがと。でも、笑って欲しいって思ってくれてたのは…素直に嬉しいや」

「行かないの?イグニスのとこ。多分このコーヒーとかも、気になったから持ってきてくれたんじゃない?」





そう言われてコーヒーを見つめて考える。
もし、もしもそうだったとしたら、色んな意味が変わる様な。

でもそれってやっぱり自惚れっぽい気もするけど。

だけど確かなこともある。





「まずは、これをちゃんと味わって飲むよ。折角淹れてくれたものだから。甘さも、ちゃんと考えてくれてるくらいに」





ふわりと香るコーヒー。
ああ、なんだかとっても気分がいい。

私はその温かさを感じながら、どんな風に話をしようかと、あれこれ考えていた。



END

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