TIME
「こーら、こんなとこで何やってんだ」
暗闇の中、響いた声。
だけど、あまり大きくならないように配慮された、そんな小さな声。
私はぴくっと反応し、顔を上げた。
「ジタン」
「読書はいいけどさ、夜はしっかり休んどかないと明日辛いぜ?」
ソファに座り、タオルケットを肩に掛け、ぱらぱらとめくっていた魔術書。
そんな私に声を掛けてくれたのは、ゆらっと尻尾を揺らすジタンだった。
ジタンは腰に手を当て、お説教するかのような立ち方をする。
だけど、その表情はくすっと笑っていた。
「何読んでるんだ?そんなに面白いものがあったのか?」
「んーん、ただの魔術書だけど…。ちょっとね、今日が終わるのが勿体無いなって」
「勿体ない?」
ぱたんと本を閉じた私に、彼は首を傾げた。
月明かりの夜。
私たちは旅をしているのだから、宿ではしっかり休んでおくべきだろう。
それはわかる。
だけど、この旅をしているうちに…私は思った。
私は今まで毎日を、何気なく過ごしていた。
流れるままに…それを気にも留めず。
でも、時は有限なのだ。
そして、その有限な時間を…欠片ほども大事に、噛みしめていきたいと。
「ふーん。考え方が変わったわけだと」
「うん。皆毎日一生懸命でさ、そういう姿見てたら…一日って大切に、少しでも濃い、詰まった時間にしたいなあ…なんて」
素直に話すと、ジタンはそれをちゃんと聞いてくれた。
まあ、私も詰まった一日にするために読書するって言うのも、ちょっと無理やりな感じがあると思うんだけど。
でも、何か他に出来ることがないかな、と思ってしまうというか。
今日という日を思い出し、浸りながら…終わりを惜しむ意味も込めて。
私はぼんやり夜を過ごしてた。
「…ナマエ、カードでもするか?」
「え?」
するとその時、ジタンはクアッドミストのカードを取り出しながらニコッと笑った。
私はその顔にきょとんと瞬きする。
ジタンはそのまま、ぽすっとソファの私の隣に腰を下ろした。
「カードでもしながらさ、俺と少しお話でもしようぜ。それで、今みたいにさ、ナマエが考えてること教えてくれよ。仲間をどう思うかとか、旅しててこう思ったことがあるとか、何でもいいよ。一戦の間、色々話そう」
「一戦の間?」
「おう。一戦だけして、そしたら寝ようぜ。わからなくないしな。旅して、いろんな奴にあって、自由な時間って大切にしたいって気持ち。眠るのが勿体無いほど、時間を大切にしたいって気持ち」
「…ほんと?」
「おう。んで、ジタンと語り合った夜ってんで、それが有意義な時間になると思わないか?」
そう言って、ジタンは悪戯っぽく笑った。
ジタンと語り合った夜。
今までのこととか、これからのこととか…そういう話をする。
私も、彼の笑みに釣られるように笑った。
ああ、ジタンは優しいなと。
私のわがままに付き合ってくれるのだな、と。
「うん。じゃあ、喜んで」
カードに手を伸ばす。
デッキを選びながら、考える。
私は、彼のこういうところが好きだな、と思った。
END