僕の愛した人

「縮んだね、ホープ」

「ええ、そうですね」





ふかふかと、僕の頭を撫でる手があった。

それはナマエさんの綺麗な手。
まるで子供に接するような、優しい優しい触れ方をする。

いや現に、僕は今…幼さの残る姿をしていた。





「なんだか変なの。ううん、出会ったころはこうだったのに、いつの間にか見上げることに慣れてたんだね」

「そうなんですか?」

「うん。きっと。でも見上げてたのも100年以上昔のことだけどね」





そう言って手を話したナマエさんの左手の薬指には、キラッと光が見えた。

それは…心を繋ぐ、ひとつの環。
かつての僕が…彼女に渡したものだった。

何があったのか、僕にもよくわからないけど…。
僕が表から姿を消す前、もう…169年も昔のこと。




「最初のころは数えてたよ。ホープが消えてから…ずっとずっと。でもだんだん苦しくて、考えたくなくなって、数えることを止めた。いくら待っても探しても、見つからなくて疲れちゃったの」

「…はい」

「それで今、やっと再会出来たと思ったら13日で世界は滅ぶ。なんだかなあって感じだよね」





ナマエさんはそう言って、静かにそっと小さく笑った。
それは諦めにも似た笑みだろうか。

僕はその笑みを、目を細めて良く見つめた。

遠い昔、僕は彼女を大切に思った。
パラドクスの渦があろうと、世界が混沌に呑まれようと、この人を守りたいと願った。

だから指輪を渡した。
すべてがきちんと片付いた時に…いつかの予約の意味を込めて。

その時「ありがとう」と嬉しそうに微笑んだ貴女を、僕は今でも思い出せる。

そう…思い出すことは出来るんだ。





「…空っぽ?」





そんな僕を見透かしたように、ナマエさんはまた笑った。

僕はなんて言ったらいいかわからなかった。

今の僕は…出来事を思い出すことはできる。
でもそこに、何かを感じることが出来なかった。

あんなに大切だったはずなのに、僕は今…その感情をうまく思い出すことが出来ない。

神様に奪われた感情。
神の計画に、余計な感情はいらないから。

そう、此処にあることはずべて神の意志。

ナマエさんが此処にいることも、きっと。





「ごめんなさい…僕、」

「…いいんだよ。最後にホープの傍にいられる。あたしはそれで幸せだから」





そう言って、貴女はまた笑う。

…そんな顔にさせたいわけじゃないのに。

上手く思い出すことは出来ないけど、悲しませたくない。

そう思うことは出来る。
なにも何かを考えることまで、奪われたわけではないのだから。





「ナマエさんは…今でも僕の大切な人です。それは絶対です。かつての感情を上手く感じることは出来ないけど…、でも大切には、変わりありませんから」





言い切れる。
それはずっと変わらない。

世界の誰かより…僕にとって特別なのだと、ちゃんと言うことが出来る。





「…ありがとう」





ナマエさんの微笑みは、少し柔らかくなったような気がした。





「でも本当に平気だよ。だって、あたしたちは新しい世界で生まれ変わるんでしょ?それならきっと、次の世界でこそホープのお嫁さんにして貰うんだから」

「あははっ…」





言い切る貴女に僕は笑った。

…大切な人だと口に出来た。
かつての大切な仲間で、いつでも信じられる大切な人。

…だけど、今の答えだけは…本当に答えることが出来なかった。





「ね。また指輪貰えるんだね。楽しみだなあ」

「…あはは、欲張りですね。貴女は」

「うん。そうかもね」





なんだか少し、苦しかった。

ねえ、ナマエさん…。
きっと…ライトさんの繋いでくれた未来に、僕の姿はないんです…。

僕はブーニベルゼの、使い捨ての駒…。

だから僕は…貴女を、幸せにしてはあげられない…。

だけど…だけどね、祈っていますから。





「…きっと貴女は、次の世界で幸せになれますよ」





せめての願い。
誓いの指輪に嘘はなかった。

貴女は僕の、愛した人。



END


なんか上手く纏まらなかった…。
だがしかしLRのお話がどうしても書いてみたくて!

あー。でも難しいなあ。
ライトニングとホープがどの程度ブーニベルゼに感情を奪われたのかわからないというか…。

ホープは、神よりライトニングに味方するとか使い捨ては悔しいとも言ってたし。
でもスノウへのあの怒りは思い出せないらしいし。

なかなか深いな…リターンズ…!

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