ご機嫌

「はーあっ」





我ながら、でかい溜め息だと思う。

そんな私のでっかい溜め息を聞いて、ちゃんとこちらに振り向いてくれたホープくん。
優しい彼は不思議そうな顔をして尋ねてきてくれた。





「どうしたんですか、ナマエさん?

「いーえ、べっつにー」

「え」





唇を尖らせて、ぷいーっとそっぽを向いてみる。
するとホープは何とも言えない、少し困った様な顔をした。





「別にって溜め息じゃないと思いますけど…、どうしたんです?」

「………。」

「ねえ、ナマエさん」





変わらずつーんとした態度の私に、ホープは優しい声で聞いてきた。

なんだか子供っぽいが、私はこのホープくんより年上のお姉さんである。

…ただ、今の状況からしてそれはかなり疑わしいかもしれないけども…ええ、もちろん自覚はありますとも!





「………ホープはさ」

「はい」





私はそっぽを向いたまま、ゆっくり口を開いた。
ホープはそんな私に優しく笑い掛け、きちんと頷いてくれる。

だから私は言葉を続けた。





「…ホープはさ、パルムポルム出身じゃん?」

「え?はい。そうですよ」

「………。」

「…どうしてそこで黙るんですか?」





再び黙ったあたしに、ホープは少し困った表情を浮かべた。

なんで改めてそんなこと?みたいな顔か。
いやそりゃそうでしょうね。

…しかも自分で聞いておいてアレだけど、なんだか鈍いダメージが…。





「ナマエさん?」

「…いや、今の質問は…あたしが勝手にショック受けてるだけなんだけど」

「ショック?」

「……あー…、うー…」

「…ナマエさん」

「!」





優しい声で呼ばれた。
そう思ったら、その緑色の綺麗な目で顔を覗きこまれた。





「ショックって、どうしたんですか?」

「え、いや…その、」

「僕に出来ることがあれば、言ってください。力になりますから」

「っ、君ね!そういうところ!!」

「え」





限界突破した。そしてキレた。
あ、はい、理不尽ですね。そんなことはあたしが一番わかってます!

突然キレられたホープは目を丸くしてあたしを見てる。

ああ、もう…。
ダメだこれ。流石に面倒くさい奴だわ…。

あたしは落ち着くようにそっと溜息をついた。





「あー…もう…。本当つまんない話だよ。ちょっとした嫉妬」

「え、嫉妬?ってナマエさんが?誰です?」

「…アリサに」

「アリサ?」





白状。

そう、ことの種はホープの優秀な部下アリサだ。

いやコレが本当出来る子なんですよ…。
頭が良くて容量も良くて、ホープの右腕と言っても過言では無いかのような。

隣でテキパキ仕事をこなしていく姿を見てたらさ、思うわけ。





「ホープがさあ…頼りにしてるよなあ…とか、欠かせない存在だよなあ、とか」

「僕?」





ホープに必要とされている。
それってなんだか羨ましいなあって。

で、そこにきてさっきたまたまアリサもパルムポルム出身だって聞いたわけです。

いやただ同郷ってだけの話だよ。
だけどそれすら羨ましいに変換されるのだから、もはや面倒くさいの極みである。

するとホープはふっと笑い出した。





「ふふふ…嫉妬してくれてるんですか?」

「…何笑ってんだこのやろう」

「いやだって嬉しいじゃないですか。そんなのする必要ないですけど」

「ていうかねえ!そもそも君がたらし体質なのが悪いんだからね?!そこんとこわかってる!?」

「た、たらし?」

「自覚なしか!色んなところで慕われまくって!この人たらしめ!」

「ええ…」





罵倒してるのか褒めてるのかよくわからなくなってきた。

いや、でも両方だろうこれは。

人に誠実に接し、信頼を集めるのは流石だ。
でもさ、絶対天然たらしだよこれ…。

あたしはまた息をついた。

すると、ホープはそっ…とあたしの頬に触れた。





「ふふ、機嫌直してくださいよ。どうしたら直りますか?」

「…しらなーい」

「おっと、じゃあ目一杯ご機嫌取らないとですね」





ホープはそう言ってむくれるあたしを前に笑ってる。
あたしのご機嫌は斜めだとして、ホープ自身はご機嫌そうだ。





「こんな風に甘やかすの、あなただけなんですけどね」





そんな風に言う彼の顔は、なんだか楽しそうだった。



END

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