雲を掴む手

「曇って、どうしたら掴めるのかなあ」

「…………は?」





ナマエは空を見上げていた。

ぽけ、と。
広い青に浮かぶ白に手をかざしてぽそっと呟く。

その呟きに俺が返したのは何とも言えない声。
たぶん今、俺…なんとも言えない顔、してると思う…。





「クラウド…なにその顔」

「…本気か」

「んー…半分くらい」

「…あのな、ナマエ。曇って言うのは気体でだな…、」

「ちょちょちょ…。いくらなんでもそんなのわかってるよ!その憐れむ顔やめて!」





ナマエは、むっと頬を膨らませた。
でもそんなこと、半分だって本気にして言う奴はいないだろう。

いたとしても、それは小さな子供くらいだ。
俺だってマリンがそう質問してきたら、返答は考えたつもりだ。

でもナマエは…、とっくに雲が触れられるものではないと理解できる年齢だ。どう考えても。





「わかってるよ。掴めないことなんて」

「じゃあなんで聞いてきたんだ」

「……掴めたらいいな、って思ったから」





そう言ってナマエは空に手を伸ばした。
勿論、雲が掴めるなんてことはない。

ナマエの手は、ただただ仰いだ。





「あたしの手じゃ、掴めないの。そんなのわかってる」

「…あんたじゃなくても掴めないだろ」

「…ううん。そんなことないよ。…あたしは、近くにあるのに、すっごく遠い」

「……?」

「どんなに背伸びしても、やっぱり届かないんだよね」





なんだか、ナマエの言っている意味がよくわからなくなった。

雲なんて誰も掴めない。
どんなに背伸びしたところで、掴めるはずがない。

そんなの当たり前だ。

だけど、彼女が言っている言葉は…どこか違う気がした。





「ねえ、クラウド…どうしたら掴める?どうしたら少しでも近づけるかな」

「…雨や雪に変わればいいんじゃないか」

「……変わっちゃうのは、やだな」

「なあ…、さっきからどうしたんだ?」

「…うん?」

「さっきから…何か、あんたの言葉、違和感を感じる」

「………。」





俺がそう指摘すると、彼女はふっと微笑んだ。
そして手を伸ばして、ぎゅっと俺の腕を掴んだ。

…少し、心臓が音を立てた。





「……クラウドに、どうしたらもっと近づけるかな…?」

「…え…?」

「どうしたら、掴めますか…?」





…クラウド…。
ナマエの唇が紡いだその名前に、少しくらり…とした。

雲と、クラウド…。

頭がどこかで騒いだ。
そんなのありえない、って。

でも、別のどこかで囁いた。
自惚れても、いいんじゃないか、って。





「……もう、掴んでる」





くらりと揺れた脳で、やっと発することが出来たのは、そんな言葉だった。
そんな俺をナマエは見上げ、そして掴んだままの腕と見比べた。





「……ちょっと意味、違うかもね」





そう言いながらナマエは手を放した。
そして浮かべた苦笑い。





「…ナマエこそ、きっとわかってない」





俺もあんたの言葉の真意に、確信は無い。
でも、自分に都合の良い捉え方をしたならば…。
あんたはとっくに雲を掴んでる。



END


あんまり綺麗に纏まらなかった…かも。


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