将来の予約しておきますか

「ホープー!」

「ナマエさ…うぶっ」





名前を呼ばれて振り向いた。
その瞬間、僕を襲った圧迫感。

例えるなら、むぎゅう…て感じだろうか。

またこの人は…!
僕は手を添えて、ぐいっと押し返した。





「はっ…ナマエさん!いつもいつも何するんですか!」

「ホープを抱きしめた!」

「そういう意味じゃないです!」





絶対わかってて的を外した返答してるんだと思う。この人は。

ナマエさん。
彼女は一日一回、必ず僕を抱きしめてくる。

最初は物凄くビックリした。
だから理由を聞いた。

決まって返ってくる返事は何度聞いて変わらない。





「ホープが可愛いから」





びしっ、と親指を立てて言われた日には…物凄く返事に困った。

可愛い…可愛いって…。

僕だって男なんだ。
だから可愛いなんて言われても…正直、これっぽっちも嬉しくない。

ナマエさんは、そんなのお構いなしみたいだけど…。





「あー、可愛いなー。可愛いなー。なんでそんなに可愛いの!」

「……知りません」

「拗ねた顔も可愛いなー」

「……はあ」





例えるなら、ハートの乱舞。
可愛いを連呼しながら僕の頭を撫でまわすナマエさん。

僕の溜め息なんて何のその。
彼女の勢いは止まるところを知らない。





「超可愛いよ、本当。今こんなに可愛いんだもん。将来も絶対有望だよね。ていうか有望に決まってる!」

「…将来?」

「背とかもぐーんと伸びちゃってさ、もう超イケメンになりそう!」

「別にそんなこと…」

「自覚してないとか!それ更にポイントアップ!」

「………。」





将来…。
背が伸びて、超イケメン…。

正直どういう反応を返したらいいかわからないのが本音だった。

でも、少しだけ…高揚してる自分もいた。
ああああ…これって、あれだよな…やっぱり。

可愛いと言われ嫌なのも、元を辿ればそこに行きつく。

だけど、なんだか少し悔しい。
そんな僕の頭には、その時少しの悪戯が浮かんだ。





「じゃあ予約、しておきますか?」

「へ?」





急な言葉に、ナマエさんはきょとん、という顔。

意味が全然わかってないって感じだ。

あ、でもその顔ちょっと可愛いです…、なんて。
そう。僕なんかよりずっとずっと…あなたの方が、可愛いのに。





「僕の、です」

「え?」

「よくわからないですけど、将来有望…なんですよね?」

「え、うん!絶対!」





相変わらず意味はわかっていなさそうなのに、そこだけは即答なんですね…。





「それなら僕の予約、しておきますか?」

「予約って、」

「ナマエさんなら、僕は大歓迎ですし…ね?」

「うえ!?」





にこっ、と笑って言えば、彼女は驚いた声をあげた。
その頬はかあっ、と赤みを射して。

あ、今日一番の可愛い反応だ。

いつもいつも平気で抱きついてくるのに。





「ほほほほ、ホープくん!?なななな何を!?」

「ふっ…」

「…っ?」

「あはははははははッ!」

「!!」





うろたえる姿がおかしくて、つい噴き出してしまった。
笑いだした僕にナマエさんは気がついたらしい。





「ちょ、何今の!?」

「驚きました?」

「超ビックリした!」





なんだよー、もう!
そんなふうに頬を膨らませながら、いつもの調子を取り戻してきたナマエさん。

でも、まだ…ですよ?





「ナマエさん」

「ん?」

「でも僕、何も言ってませんよ?」

「え?」

「今のが冗談、とか」

「な!」





形勢は変わらない。
相変わらず、動揺してる。

これで少しは…意識してもらえるといいんだけど。

将来有望…か。

…もう少し頑張ろうと思う。
可愛いじゃなくて格好良いって、本当に言って貰えるように。



END


将来有望は本音。
絶対イケメンになるな〜と思ってたら、13-2で本当にえらい事になってました。


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