どこにいても探しだそう

「大丈夫!すぐ見つかるよ!」





はじまりはあの時。

ガプラ樹林でライトさんと逸れて、途方に暮れていた僕の手を引いてくれた貴女。

今思うととてつもなく情けない話だ。
だけど、その時の僕は…握って包みこんでくれているその白い手が頼もしくて、あたたかくて…。

僕は、あの感覚はきっと一生忘れないだろう。

同時に…そのあとに待っていた途方も。





「ナマエさん…ここ、どこですか…」

「あっれー…。どこだろー。ねえ、ホープ?」

「…聞いてるの僕です」

「はっはっはー!」





彼女の恐るべき方向感覚。
気がついた時にはすでに遅し。

あの時はすぐにライトさんが来てくれたから何とかなったけど…。

彼女の方向音痴は旅の最中、幾度となく発生した。
アルカキルティ大平原でひとりだけいなくなっていた時は…もう、完全に血の気が引いた。

そして…あれから10以上歳を重ねた今でさえ…。





「…またいない…」





首都アカデミア。
広いこの街で、またあなたは消えてしまった。

いなくなる直前、あの人は気配でも消しているんじゃないか…。
それくらい忽然と、驚くほど突然にいなくなる。





「まったく…」





ひとつ息をついて、僕は走り出した。

アカデミー本部に先に戻って帰りを待つ、という手もある。
でも、彼女の方向感覚ではそれすらいつになるかわからない…。

だから僕はいつも走る。

ヴァニラさんやファングさん。
ライトさんのことも、スノウもサッズさんも…。

無意識のうちに、僕は誰かが離れていくことが苦手になってるんだと思う。





「ナマエさん!」

「あ、ホープ」





走り回って、走り回って…やっとみつけた後姿。

叫んで駆けよれば、貴方は笑って振り向いて…僕にひらり、と手を振った。





「わ…、すごい息切れ…大丈夫?」

「そう思うなら、ふらふら一人で消えないでください…」

「消えたのホープだよ」

「……自覚無いんですか」

「あははっ、ごめんごめん。いや、ふらふらしてるつもりは無いんだけどね」





肩をすくめておどける貴女。

僕はまた息を吐いた。
呆れの意味と、安堵の意味。

見つかって良かった…。
僕は貴女を見つけるたび、心の底からそう思う。

そんな風に僕が思ってること、貴女は気付いているのやらだ…。





「知らず知らずに迷ちゃうのはさ、もう仕方ないと思うんだよね。気をつけててもどうしようもないんだもん」

「変なこと悟らないでくださいよ…」

「ははっ、だからね?そのあとの対策を考えることにした!迷ったと気付いたらその場を動かない!コレ、懸命な判断だよね?」

「貴女はいくつですか…」





これじゃ、どっちが年上なんだかわかったもんじゃない。

だけど、僕の判断は間違ってなくて本当安心した。

もしもアカデミー本部に戻ってたりなんかしたら、完全にナマエさんは待ちぼうけを食らうことになって…とんでもない時間を費やすことになっただろうし。






「ほら。本部に戻りましょう」

「あーい、と。ね、でもさホープ?動かなくていいやって思えたのは、心に余裕が出来たからなんだよ?」

「心に余裕…?」





ちゃんと傍にいることを確認しながら、ゆっくり歩き出す。

僕の背中を追いかけてくるナマエさんは、突拍子もなくそう言った。
聞き返すと、楽しそうに頷く。





「最初はガプラ樹林…だっけ?あ、ガプラではホープも一緒だったか。あとアークとかアルカキルティとか。まあ、旅の真っ最中でいくらルシでも一人で行動しちゃまずい…って危機感もあの時はあったんだけど…。それ以前に、もっと根本的な部分で会えなかったらどうしようって不安があったわけだよ。だから、無意識に歩き回らずにはいられなかったんだよね」

「はあ…」





不安が仰いで、じっとしていられなくなる。

まあ、言っていることはわかる。
でも理解しきれていない僕は曖昧な返事を返す。

だけどナマエさんは、そんなこと気にする様子もなく楽しそうに笑った。





「けど今はさ、むしろじっとしてた方が確実だなって気付いたわけ。それに迷ってもちっと不安じゃなくなった」

「どうしてですか?」





そう尋ねると、彼女は「愚問だ」と言うように微笑み、僕の腕に、自分の腕を絡めた。





「どこにいたって、ホープが見つけてくれるでしょ?」





…にっこり、と。
迷いなく、言い切られる。

…まったく、この人は…。
そう思いつつ、でも…そんな顔で言われたら、僕はもう逆らえない。





「ええ…、見つけますよ。どこにいたって」





貴女が待っているのなら。



END



子どもと大人で二度おいしい話でしょう…!
とか言っておく…。(笑)


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