たとえ

「アーロンさん」





声をかけたら振り返った。

星を見ていたサングラスがこっちを見る。
それが何だか嬉しくて、私は微笑んだ。





「どうした。眠れんのか」

「うーん、そうですね。まあ、前夜ですし」





ふふ、と笑って隣に腰掛けて、私も星を見上げた。

…あの人は、今もこの星の中を泳いでいるのだろうか。
でもそれも、これが最後の夜になる。

明日、すべての夢は覚めるから。





「アーロンさんも、これでゆっくり出来るんですね」

「…そうだな」

「…私たちは、どうなるんでしょう」





ここにいるのは、私とアーロンさんだけ。
でも今言った【私たち】、この言葉に掛るのは…私とアーロンさんじゃない。

私と、ティーダだ。





「私たちも…異界に行くんでしょうかね?」

「…わからん」

「それとも…ただ、消えるのかな…」





腕を伸ばして、自分のその手を見つめた。

…夢…か。

私はそのまま…置かれていたアーロンさんの手に触れて、重ねた。





「…なんだ?」

「…いいえ。こうして触れられるのに…夢だなんて」

「……。」

「…生きて、いないなんて…」





うつろう夢と…未練を残す死人。

どちらも…すべてが終われば消える定め。
でも…消える場所は…違うのかな。





「…ティーダにはちょっと悪いけど…私は異界に行きたいな…」

「…別にいいところでも無いと思うが」





異界。
グアドサラムから繋がる死者の思い出に会える場所。

踏み入れた時、見えた景色は…綺麗だった。
花が舞い、水が溢れ、ゆらゆらと不思議な色の幻光虫が揺れて。

神秘的で…同時に、少し怖かった。

得体が知れなくて…、正直…どんなところか、わからない。

でも…。





「でも…アーロンさんがいます…から」





夢は覚める。
覚めたら消える。

でも…貴方が同じ場所にいるなら。

そう思ったら、アーロンさんはフッ…と笑った。





「…お前も、物好きだな」

「それ、そのままお返ししますよ?」





ふふふ、と笑った。

…貴方は突然ザナルカンドに現れた。

私は…近所にティーダが住んでて、よく面倒を見るついでに一緒に遊んでいた。

父親がいなくなり…衰弱していく彼の母親。
そんなの見続けていたら、彼も壊れてしまう。
だから…少しでも息をつけるように…って。

そんな時、貴方は突然やって来た。

そして…いつの間にか…。
それからスピラで、貴方のことをもっとよく知って…完全に自覚した。





「異界、もしも私も行けたら…一緒に眠ってくださいますか?」





覗き込むように、尋ねる。
少しだけ微笑みながら。

すると、重ねておいた手が…抜かれた。
でも、今度は逆に…、私の手の上に重ねられ、大きなぬくもりに包まれた。





「ああ…いいだろう」

「ふふ、嬉しい」





顔がほころんだ。

これは、確認だから…。私は…貴方にとって…。

消えるしかないのは、もうわかってる…。

どうして私は夢なのだろう…。
そう思わないのか?と言われれば、…やっぱり思うことはある。

でも…私は、きっと…。





「たとえ夢でも…私は…」

「……。」

「貴方に会えて…私は、幸せでした…」

「ナマエ…」





こう言える私は…きっと。

すると、アーロンさんの瞳が、こちらに向く。
黒いレンズの隙間から見える、綺麗な瞳。





「俺も…たとえ生きていなくとも…お前に会えて、良かった」





こう言ってもらえた私は…、きっと…それだけで…。

こうして存在出来て…良かったと思えるから。



END


それなりに大人ヒロインのつもり。

あーうー…。
文才ってどっかに落ちてないですか…?←

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