ワスレモノ
「バーッツ!」
後ろから明るい声。
それと一緒に、ぽんっと肩を叩かれた。
その声で誰かわかって、俺は自然と顔をほころばせて振り向いた。
「おう、ナマエ。どうした?」
振り向いた先に居たナマエ。
皆と同じようにどこかの世界から呼ばれて、今はコスモスの戦士として一緒に戦ってる仲間。
…俺とこの子には、たったひとつだけ…共通点があった。
「ねねっ、ティーダに聞いたんだけどチョコボ以外のこと、何か思い出したの?」
ずいずいと、興味津々。
見事にそんな表現がぴったりだ。
そんな顔で尋ねられた。
「あー、思い出したって言うか、前々から何となくは覚えてはいたんだよな。ぼんやりしてたから話さなかっただけで」
この世界では、元の世界の記憶ははっきりしない。
俺も、ちゃんとしてるのはボコのことくらいだし。
そんなことを、さっきティーダと話した。
ナマエはティーダからそれを聞いたらしい。
「それに、じいさんのことだしな」
「おじいさん?」
「ま、俺のじいさんとかってわけじゃないけど。明るくて、気立ての良いじいさんがいたんだ」
そう。記憶喪失だと騒いでるくせに、どこか前向きで妙な自信にあふれてる。
そんな、妙に明るいじいさんのこと。
だから俺は、そいつの真似をしようって決めてこの世界を歩いてた。
「へー。なんか楽しそうな人だね。あたしも会ってみたいなー」
「はははっ!もし会えとしたらきっと気に入るだろうなあ」
「ふふ。でもそっか、おじいさん…かあ」
「…まーな。じゃあナマエの方こそ、何か思い出したりしたか?」
「あ!そうそう!あたしも思い出したことがあるの!」
「お?」
ぽん、と両手を叩いて。
嬉しそうに「聞いて聞いて!」と笑う。
だから今度は俺が興味津々に、ナマエの話に耳を傾けた。
「あのね、海賊の話なの」
「海賊?」
「そう。あたしもぼんやりなんだけど、思い出したのはその船長さんのことなんだよね」
「海賊の船長…、また偉いもの思い出したんだなあ」
思わず苦笑いしてしまった。
いやだってそりゃそうだろ。
海賊なんて物騒なもんって思うのが普通だし。
けど楽しそうに。ナマエは、その海賊のことを教えてくれた。
「髪が長くてね、とっても強くて子分にも慕われてるの。確かにすっごく格好良くて、あたし、ちょっと憧れてたんだよねー」
「…ふーん」
それを聞いて、一瞬だけ。
なんとなく胸の奥で…つん、とした。
面白くないって思ってるって言うか…そんな感じ。
…いやいやいや!
でもすぐ振り払った。
何を考えてんだろーな、俺。
だってそんなの、錯覚に決まってるからさ。
「じゃあそいつがナマエが言ってた元の世界での気になる人なのか?」
だから俺は…にししっとからかう様に笑って、そう聞いた。
ナマエは…前に俺に教えてくれた。
自分には、元の世界で気になる人がいたこと。
顔とか覚えてない。
でも、気になってる人がいたって。
それが、俺とナマエの共通点。
なんか、人事に聞こえなかったんだよな。
ちょっとビックリしたんだ。
俺にも、身に覚えがあったってうか…。
顔も声も、覚えてない。
でも元の世界に、俺にもいたんだ。
…気になる女の子。
「え!?あっ、違う違う!」
けど、ナマエは俺の質問にブンブンと首を振って否定した。
両手も振って、凄く大袈裟に。
「ていうか、その船長さん…女の人だし」
「…はっ!?」
そして衝撃の事実。
今度はこっちが大袈裟なくらいリアクションする番だった。
俺のその反応を見て、ナマエは笑った。
「珍しいよねー。まあ、本人もサバサバしてて、男の人みたいだった気がするけど。でも頼りがいがあって、何か憧れてたんだー」
「じゃあ、例の気になる人は?」
「そっちは残念ながら、まったく」
お互いに全然だねー、なんて、ナマエは苦笑いした。
それぞれの世界。
元の世界に居た、気になる人。
「まあ…強いて言うなら…バッツみたいに、冒険大好きな人だった、かな」
ナマエは俺の顔を見て、思い出せないその人を思い浮かべるように…微笑んだ。
それを見て、俺も同じように。
「…奇遇だな。俺の方も…ナマエみたいによく笑う子だった…、気がする」
顔も声も、思い出せないけど。
…なんでだろうなあ。
君を見てると、無性に…思い出したくて仕方なくなる。
「思い出したら、必ず教えてよー?」
「そっちこそ!絶対だからな?」
ふたりで、互いに笑って約束をした。
あるのは…ぼんやりした記憶と、胸の中にある焦がれる気持ち。
END
ガラフを思い出したバッツと、ファリスを思い出したヒロイン。
同じ世界から来てるのに、お互いに気付かない鈍なふたり…ってのを書こうと思ったんだ…ぜ!(何)