Knitting

肌寒くなってきた季節。
セブンスヘブンの片隅で、唸っている彼女がひとり。

「はい、どうぞ」なんて言いながら彼女の前にホットミルクを置いたティファはクスクス笑って戻っていく。





「ナマエ…何してるんだ?」

「見ての通りですっ」





配達に行ってきた俺は、彼女に尋ねた。
すると視線は自分の手元から外さぬまま、そう言われた。

…見ての通り、か。
まあ確かに今の聞き方は野暮だったかもしれない。

白い毛糸玉。
そこから伸びた一筋の糸に繋がるのは、編み針。

誰がどう見ても、その行為は編み物だった。
だから誤解されて、ちらりと睨まれた。





「んんー、もしかしてそれ嫌味?へたくそすぎて何してるかわからないって言ってる?」





睨まれて、一瞬たじろいだ。





「っ、そんなこと言ってない」

「いーもん。…これからどんどん上手くなってやるんだから…」

「いや…だから…、……なんで編み物なんかしてるんだ?って意味だよ」





かたん、と椅子をずらしてナマエの向かいに座る。

ナマエは睨んだ視線を再び手元に戻し、せっせと編み針を動かし始めた。





「ちょっと、楽しそうだな…って思ったから」

「…ああ。…あんた結構、細かい作業好きだよな」





そう、ナマエは凝り性だ。
同じ単調な作業を繰り返したり、何かにひとつに打ち込むのが大好きらしい。

そう考えると、編み物は向いているかもしれない。
やろうとした理由も頷けた。





「そう。で、寒くなってきたし。だからちょっとやってみようかな…と」

「うん」

「あ、そーだ、上手くなったらクラウドにも編んであげようか?バイク、寒いでしょ?」





そう言ってにっこり笑ったナマエ。

確かにバイクは寒い。
ついさっきも、氷が張るみたいに頬が冷たかった。

けど、ナマエがそう言ってくれた途端、少し頬があったかくなった気がした俺は…単純かもしれない。





「あ、でも…手編みなんてダサいな、とか思う?」

「いや、別にそんなこと…」

「本当にー?」

「…本当に」

「ふーん?」

「…編んでくれ。待ってるから」

「お」





どこか必死な自分がいる。

ナマエが俺の為に何かを編んでる姿を見るのが。
出来あがったそれを渡されるのが、楽しみになってる自分。

俺の返事に、ナマエは楽しそうに「了解」と笑った。

そして今自分の手の中にある白い編みかけを、テーブルの上に広げた。
まじまじと見て、「うーん、」と目を細める。





「コレ…やっぱ初めてだからちょっと不格好かな…。デンゼルに悪いかも…」

「…デンゼル?」





出て来たデンゼルの名前に、自分でも眉間にしわが寄ったのがわかった。

…それ、デンゼルに編んでたのか?





「毛糸、デンゼルと買いに行ったんだ。そしたらデンゼルが自分に編んでくれって。だから頑張ってたんだけど、やっぱ初めては難しいよね」

「……。」

「外走るのに最近寒いだけだから不格好でも寒くなきゃいい!って…。なんだそれって話だよねー。でもやっぱコレはなあ…」

「…なら、それ」

「え?」





小さいな…、俺。
それはつまらない…嫉妬心。





「…俺にくれればいい。そんなに不格好じゃないし…」

「ええ!?絶対だめ!」





物凄い勢いで拒否された。
…なんだ、その即答。

その時、カウンターの向こうでティファがまたクスッと笑ったのが聞こえた。

すると「あ…うー…」とかナマエが唸りだした。





「…クラウドには、ちゃんとしたの…あげるから、さ」

「え…?」

「だってそっちのが、いいでしょ…?」





ナマエがそう言った瞬間、ことん…と俺の前にコーヒーが置かれた。

見上げれば黒い髪が揺れた。





「ふふ、ナマエが編み物始めた本当に理由、クラウドに編んであげたかったからだもんねー?デンゼルも、クラウドへの練習用でも勿体ないから折角ならちょうだいって言ってたのよね?」

「あああ!ティファー!ばらすなー!!!」





叫ぶナマエに、ティファは笑いながらまたカウンターの向こうに駆けて行った。

少しだけ置いていかれた俺。
ただその様子を見ていると、どこかバツの悪そうなナマエと目があった。





「…は、始めたのは…、本当に面白そうだな…って、思ったからなんだ…よ」

「……。」

「でも…その、誰に編んであげたいか考えたら…その、」

「…うん」

「だから…、ちょっと待ってて」





やっぱり俺、単純かもしれないな。





「ああ、…やっぱり待ってるな」

「…うん」



END


うーん…色々微妙…。
でもこれ以上どうしようもないのでUPしちゃいます。(おい)


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