こんなにも慕うんだ。
「…私、アーロンさんのことが好きです」
手を握りしめて、絞るように出した声。
届いたその声に、アーロンさんは珍しく驚いた顔をした。
「あ…、あの、でも、ものすごーく年下だし、だから別に期待とかして言ったわけじゃないんです…!」
でも、そんな驚いた顔に反応出来るほど、私は人として出来ていない。
言ったそばから一杯一杯になってきて、慌てて両手と首を振った。
「それに…この前…ザナルカンドでティーダと話してるの…たまたま」
「…聞いていたのか」
「…ごめんなさい」
「別に謝る必要はない」
ザナルカンド遺跡の中で…、聞いてしまったアーロンさんの正体。
聞いてしまった時は…すごくショックだった。
でも…その時、うずいた。
もともと期待もしてない…言うつもりも無かった慕う気持ち。
それが、急にうずいた。
「…究極召喚のこと…何も知らなかったし…。だから知った今となっては、こんなこと言うの…少し心苦しいんですけど…私、10年前…アーロンさん達に、凄く感謝しました」
「……。」
「どんなに短くても、思いっきり外を走れる。安心して眠る事が出来る。そんな時間を作ってくれて…心から、感謝したんです」
ブラスカ様のナギ節。
私が生まれて、初めて体験した穏やかな時間だった。
「…だから初めは…ああ、あのアーロンさんだ…って気持ちからだったと思います。きっかけは…きっとそう…。でも…一緒に旅して…もっと色んなところを知って、そうしたら…気持ちは、どんどん大きくなってて…」
いつのまにか、憧れが好きに変わってた。
でも…言わなくていいと思ってた。
言ったて、仕方ないからって。
…でも、近い未来に…アーロンさんは異界にいってしまう。
そしたら…、完全にこの気持ちは行き場を失う。
きっと…いつか、もし言いたくなったら言えるとか…そういう甘え、少なからず…あったんだと思う。
だから…、なんだか前を向けなくなる…気がしてきて。
私は…大きく息を吐いた。
「はっあ……言ったら、少し…何か、軽くなった気がします。…聞いてくださって、ありがとうございました!」
「いや…」
「ふふ、すみません、自己満足に付き合って貰って」
小さく笑って、頭を下げた。
そうしたらその上に、アーロンさんの大きな手が触れた。
「謝る必要はないと言っている」
「…えっ」
くしゃくしゃと揺れる髪の先にあるアーロンさんの顔は、なんだか…とっても優しい物に見えた。
「…確かに俺はその想いに、何をすることも出来ない」
「も、もちろんですよ!本当に、何かを求めて言ったわけでは…!」
「ああ…。だが、好意に悪い気などするものではないだろう?」
「え…?」
ぽけっ、と。
私、多分すごく間の抜けた顔したと思う。
「ナマエ」
「は、はい」
名前を呼ばれて、胸が音を立てた。
ちょっとだけ声が上擦った。
「…礼を言おう。その気持ちは、素直に…有り難いからな」
「…アーロンさん…」
迷惑だって言われても、おかしくなかったのに。
そんな風に、言ってくれるんだ…。
…なんて人だろう…。
ああ、でも…だから、私は…貴方を。
「ふふ…っ、ちょっと自画自賛するみたいですが…。私…、我ながら人を見る目ありますね」
「………。」
「…ありがとうございます…、アーロンさん」
こんなにも、慕うんだ。
END
年下とアーロンさん。
これ悲恋…?
いやまあ、アーロンは大抵悲恋にしか出来ないんだけども。