待ってるよ

『待ってる!』





真夜中のグレート=ブリッジ。

妙に力んだ私の声が響く。
そんな力一杯の声に返ってきた返事は、呆れかえったような溜め息だった。





『…待たんでいい』

『別にアーロンの許可求めてない!私が待ってたいから待ってるの!私がしたいこと私が決めて何が悪いの!』





無茶苦茶な理論。
言い切って、言い負かして。





『私…ずっと待ってる。ずっと…待ってるから』





そう言ったのが、数ヶ月前の事。

たった、数か月。でも、何かが起こるには、充分な時間。
色々起きて、色々変わって。





「ナマエ…」

「…おかえり!」





そう笑って迎えた、今日。
あの真夜中の橋から待ち焦がれたその日は…すがすがしいくらい、気持ちのいい風が吹いてた。





「…本当に、待っていたな」

「まーね」





すごく久々なのに、とっても素っ気無い会話。
でも、それが何だか嬉しかった。

だって、あたりまえに会える日々の会話なんて、こんなものだから。
なにげなく、それが続いていくだけ。

だから嬉しかった。
あたりまえが、あたりまえじゃなくなって…また、そんな風に話せたから。





「…待たんでいいと、言ったというのに…」

「またそう言うこと言う。それって、今の私全否定してるからね?」

「……どういう意味だ?」





意味がわからない、そう言いたげに彼は眉間にしわを作った。

それを見て、私は穏やかに微笑んだ。
瞬間…ふわっ、と体から淡い光が舞った。

アーロンは、目を丸くした。





「…ナマエ、お前…」

「私、死んじゃった」





シンがいる。
だからスピラでは、何も珍しくない。






「…シン、か?」

「まあ、そーですね」





いつ、誰に身にも起こりうる。
今日か明日か、明後日か…10年後か。





「でも、もう一度だけ…やっぱり会いたかったから。アーロンの事こと待ってるの、私のなかで一番のしたいことだったみたい。気づいたのは、死人になってからだけど」





きっと、もう消える。
そんな自分の手のひらを見つめる。

すると、目の前に赤が映った。
と同時に…あったかいぬくもりを感じた。

そして聞こえた声に、今度は私が目を丸くする番だった。





「…俺もだ」

「え…?」

「俺も…死人だ」

「…!」





私が言えた事じゃないけど、驚いた。
だって、こんなに温かいのに。





「…そっか…、死んじゃったんだ…」

「…だが、まだ異界に行くことは…出来ん」

「…うん、わかってる」






包まれた腕の中で、コクンと頷いた。

死人には後悔がつきものだ。
だからきっと、アーロンはここにいる。

それが晴れるまで、異界に赴くことは…ない。





「…また、戦うの?」

「…恐らくな」

「そっか」





それだけ聞くと、アーロンの胸に手を置いた。
少しだけ距離を開けて、顔を見上げる。

目が合ったところで、笑った。





「じゃあ…また、待ってよっかな。今度は異界で、アーロンが来るの」





私の未練は、果たされた。

だから、またもう一度。
アーロンの後悔が果たされることを祈りながら。





「うん、決めた。そうしよう。そうしたいから、また待ってるね」





許可は求めてない。
私がそうしたいから、勝手に待ってる。

でも、今回は…返ってきた。





「ああ…、待っていてくれ」





また、目が丸くなった。
でも、すぐ…もう一度、笑った。





「うん…、そうする…!」





その時、気がついた。

許可はいらない。
そう言った言葉は、ただの強がりだったのだな、と。

本当は、欲しかったのかも。

だから…聞けて良かった。





「お先に」





微笑んだまま、光があふれて、消えた。


END


思ってた様に書けんかったよ−う!(何)
アーロンさんは明るい話になりませんな…!


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