君に会うための口実

「いらっしゃーい」





鳴り響いたベルの音に、笑みを浮かべて扉を開いた。
その先に居たのは金髪ツンツン頭の配達屋さん。





「…ストライフ・デリバリーサービス。…荷物はどれだ?」





無愛想に一言。

お客さんなんだから、もうちょっと愛想良くして欲しいものだ。
でも慣れっこだから特に何も言わない。笑ったまま小さな包みを差し出した。





「これ、セブンスヘブンに届けてね。コーヒー豆。頼まれてたやつなの」

「……。」





配達屋さんは、差し出したそれを無言で受け取る。
でも受け取ったに関わらず、それを見つめながら小さく息を吐いた。





「…なんで自分で届けに行かない」





そしてあろうことかそんなこと言ってきた。
あたしは「ふふっ」と笑う。





「職務放棄ですか、おにーさん?」

「…いつもいつも。俺に頼むより自分で届けた方がよっぽど早いだろ」





指摘されて、また笑う。

その通り。セブンスヘブンなら歩いていける距離だ。
確かに、頼む方がどうかしてるかも。

なのに、いつもいつも。
しょちゅう、あたしはこの配達屋さんに依頼する。

まあ、だから笑ったんだけれど。





「いいじゃない、別に。楽ちんな仕事で儲かって。いいお得意さんでしょ?」

「……。」





そう、こんな良い金ヅルなかなかいないよ?
ありがたーい、お得意さんじゃないか。

でも、この配達屋さんは何か納得いかないような顔をしていて。





「うーん…不満そうだね?」





だからまた、あたしは笑った。
でも今度は…苦笑い、だ。





「……。」

「…配達屋さんが格好良くて仕方なくて。だから会いたいなーっと思って、って言ったら…信じる?」





そう良いながら目を細めて笑えば、そんなあたしとは対照的に彼は少し目を丸くしていた。

あっは、やっとちょっと表情変わったね。





「…何言って、」

「まあ、信じる信じないは別として。…最近思うの」

「……。」

「2年前のこと、よく思い出すんだ」





彼の言葉をさえぎって、続けた話。

2年前。
それはきっと一生忘れない。
あたしの人生の中でも、最も色濃い日々。

世界中を見て、回って、…命を賭けて戦った旅のこと。





「…大変だったけど、楽しかった。みんながいつも一緒に居てさ」

「……。」

「クラウドにも、いつでも会えた。理由なんかなくても…、口実なんて作らなくても…」

「……ナマエ」

「なーんてね?」





また笑みを浮かべた。
誤魔化すように、悪戯っぽく。

でも正直、心の中は…あーあ、言っちゃった。
って感じだった。

あの旅から、ずっとずっと抱いていた気持ち。

でも今は…会えないから。
あたしは…クラウドの何でもない。昔の仲間…。
会うためには何かしら口実が必要な…そんな距離だから。





「はいはい。じゃあ、配達よろしくねー」





けどまだ戻れる。
冗談だよ、って笑い飛ばせるから。

だからぽん…、とクラウドの方を叩いて。
扉を閉めようとドアノブに手を掛けた。





「待ってくれ」





だけど、クラウドは扉に手を置き、それを止めた。

ビックリして顔を上げてクラウドを見上げる。
クラウドもこっちを見ていた。





「…クラウド…?」

「本当か…?」

「え?」

「それとも…冗談か…?」






見据えられる、青い目に。

…なんだか急に変わった。
な、なんで?

焦る。
でも…本当か冗談って…。

どうする?
笑い飛ばす?それとも…認める?

一度自分に問いかけて、…あたしは頷いた。






「…冗談、じゃないよ」





ぽつ…と呟いた。

ここまできたら。
でも、すごくすごくドキドキしてた。






「…じゃあ、俺も会いに来て良いのか…?」

「え?」

「配達の予定、無くても…」

「え、え、…え?」





困惑した。
すると、クラウドはそんなあたしの反応に眉を下げた。





「…駄目、か?」

「え!や、駄目じゃなくて…!…会いに、来てくれるの…?」





クラウド今言った?
会いに来て良いのか、って。

だってさ…信じられなかったから。

確認すれば、彼は小さく頷いた。





「嘘…。だってずっと迷惑だろうなって思ってた」





そう。いつも怪訝そうな顔でうちに来るから。

それでも会いたくて。
何度も何度も、依頼すればちゃんと来てくれることが嬉しかったから。





「…意地、張ってただけなんだ」

「意地?」

「…俺、あんたに会いたかった…。でも、きっとそう思ってるのは俺だけ。俺だけが、ナマエに会いたいと願ってるんだ。そうに決まってる。そう思ったら…」

「…クラウド」

「無意識に、突っぱねてた…」





なんとなく弱々しい声。
でもそれが、だからこそ、これが現実なのだと教えてくれる気がした。





「じゃあ…会いに来て」





囁いて微笑めば、金色が頬に触れた。


END


初AC。
でも何か不完全燃焼…。

ストライフ・デリバリーサービスって言葉がなんとなく好き。(謎)

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -