そろそろ気づいて
「よっ!オヒメサマ!」
ゆらゆらと揺れる黄色い尻尾。
あたしが振り向くと、愛想の良い明るい笑顔の男の子がいた。
あたしは、そんな笑顔とは真逆の、怪訝な目を彼に向けた。
「おいおい。なんだよ、その顔は」
「何よー、その呼び方はー」
「ん?だって次の芝居、ナマエがお姫様だろ?」
俺、王子様♪と最後に付け加えて彼、ジタンはまたニッコリ笑った。
劇団タンタラス。
劇場艇プリマビスタでお芝居を公演しながら世界を飛び回る、拠点のリンドブルムとかではちょっと有名な劇団。
あたしは、そこに所属していた。
「お姫様、一番出番少ないけどね」
「ははっ、それを言っちゃあ王子様も変わんないって。でも、真の主役は俺達だろ?な!」
劇団はあくまで表の姿。
その真の姿は盗賊団タンタラス。
出番の少ない姫と王子。
それは、劇中に裏で行う作戦の主役を意味していた。
そう。今回の盗みの実行犯はあたしとジタンだ。
「もしかして、せっかくお姫様の役なのに出番少ないから拗ねてるとか?」
「まさか!真の主役なんだから。腕が鳴るってものね」
今回の標的は小悪党。
力の弱い人から巻き上げたお金を湯水の様に使うロクデナシ。
こーゆー仕事は特にやる気が出る。
「ふーん。俺は残念だけどなあ」
「なんで?」
残念だと言うジタンに尋ねる。
するとジタンはニッと笑い、あたしの手をすくい上げるように掴んでこう言った。
「せっかくナマエの王子様やれるってのに、こんな残念なことないだろ?」
「よく言うよねえ」
キザな台詞。
今度はあたしが笑った。ジタンの手を軽く振り解きながら、ニヤリと。
「リンドブルムの酒場に新しく入った子、早速デートに誘ったでしょ?」
「う…」
そう言ってあげるとジタンは言葉を詰まらせて、眉を下げた。
結構カワイイ子だったもん。
ジタンが声かけない筈ないと思ったよ。
「そんな風に遊んでばーっかいると、いつか酷い目みるよー?」
「今見たよ。ちぇ…なーんかナマエ相手だと上手く決まんないよなあ…。やっぱトクベツな相手は難しいよな」
「まだ言うか。あたしのこと口説こうってのが間違いですー。ジタンの事なんてぜーんぶお見通しなんだから」
「ぜーんぶお見通しだったら、そろそろ気づいてくれてもいいと思うけどなー」
「どういう意味よ。それならジタンもそろそろ気づいてもいいんじゃないのー?」
ぱらぱらっと劇の台本を開きながらそう言葉を返した。
なんか変なの。探りあいしてるみたい。
するとジタンは心なしかさっきより食いついたように聞いてきた。
「それって、ナマエが俺のこと好きって意味?」
「しーらない」
しれっと台本を見たままそう返す。
するとジタンは「難しいお姫様だな」と苦笑いした。
「ま、今日は頑張ろうぜ」
「はーい」
ひらひら、と小部屋を出て行くジタンの背中に手を振った。
そして、ぱらぱらっと再び台本に目を通す。
…本当は、もう台詞なんてとっくに頭に入ってるの。
短いし、少ないし。
けど、何度も読み返す。
大事だから。大切だから。嬉しいから。
本当、そろそろ気づいてくれてもいいのに。
ジタンのお姫様。短くて、少なくて、本当は残念ってこと。
口説いてくれるたび、本当は嬉しいって思ってること。
だけど素直になれないのは、ジタンが女の子大好きで、いろーんな子に声かけてるからって、気がついてる?
ジタンのこと、本当はぜーんぶお見通しなんかじゃないんだから。
貴方の言葉ひとつで一喜一憂して、貴方の言葉の真意なんて探れない。
「ジタンのばあか」
だから、そう呟いた。
END
初短編。
ジタンみたいな主人公は大好きですー!
ていうか9が大好きですー!
王道でベタなストーリーとかたまらんです。
しかし一番好きなキャラはビビだったり。(笑)