最後の願い

『いいこと?いつまでだって待っててあげるから絶対帰ってきなさい!死んだって意地で帰ってきなさい!死人になってでも帰ってきなさい!』





10年前。
召喚士のガードとして旅立つ貴方に向かって私はそう言った。

ええ、確かに言ったわ。
でもね、だけどね…。





「誰が本当に死人になって帰って来いって言ったのよー!!!」





叫んだ。思いっきり。
そりゃもう腹の底からグワアッと。





「お前が死んでも意地で帰って来いと言ったんだ」

「言ったわよ!ええ、確かに言ったわよ!でも、本当にそんなんで帰ってくるなんて誰も思わないじゃない!」





しれっと言葉を返してくるアーロンの胸倉を掴んでグイグイ揺らす。

何を平然と真顔で言ってんのよアンタ!!

腹の虫が騒ぎ出す。
ものすごくイライラするのだわ…!


10年前。
私はまるで夜逃げみたいに静かに旅立つ召喚士ブラスカ一行を見送った。
スピラ中を駆け巡る、下手をすれば命を落としかねない長い長い旅。

そんな旅に貴方が出るって言ったから、わざわざ見送りに行ってあげたのよ、この私がね!





『…本当に行くのね』

『冗談でガードになるなど言うわけなかろう』

『ええ、そうね。貴方が言うわけ無いわ。堅物だもの』





馬鹿みたいにクソ真面目。
頭かっちかちで融通の利かない堅物野郎。

いちいちうるさくて、鬱陶しかった。

でもその反面。
その馬鹿みたいに堅物な真面目さに、…私は惹かれてた。





『……、きなさいよ』

『…なんだ?』

『絶対…帰って来なさいよ!待っててあげるから!』

『…ナマエ』




よく覚えてる。
10年も前なのに、鮮明に。

あの時の思った事、気持ち。
アーロンの、目。





『死んだって帰ってくるのよ!?這ってでも帰ってきなさい!』

『旅立つ前に縁起でも無い事を言うんじゃない!』

『うるさいわね!この私を待たせるのよ?そんなの当然じゃない!』





キッと睨むくらいの目で。ぴしりと指差して。
そして、最後に言ったの。





『いいこと?いつまでだって待っててあげるから絶対帰ってきなさい!死んだって意地で帰ってきなさい!死人になってでも帰ってきなさい!』





女に二言は無いのよ。
ずっと、待ってたんだから。

ブラスカ様のナギ節が来て、それでも待ってた。

でも、ただ待ってるだけなのは私の性に合わなくて。
ビサイドに行くユウナについて旅に出た。貴方を探す目的を兼ねて。

そして10年よ。





「本当に死ぬなんて…信じられない」

「…フン」





再会した貴方は、死人だった。

なーにがフンなのよ!
本当に腹立つわね…!!





「なに死んでんのよ!意味わかんない!死人になっても帰って来いとは言ったけど死んでいいなんて言ってないわ!」

「…言っている事が自分でも支離滅裂だとは思わんか?」

「うっさい!馬鹿!」

「本当に相変わらずだな…お前は」





その妙に落ち着いた態度がむかつくわ。

なんだか一人でイライラしてる私が馬鹿みたいじゃないの!





「私、ずっと…待ってたのよ…」





たくさん騒いで、なんだか疲れた。
ふう、と息を置いてしゅんと肩を落とす。

するとその時、アーロンは私の髪に触れた。





「…ああ、お前なら、ずっと待っているだろうと思ったさ」

「…当然でしょ、私だもの」

「相変わらずの自信だな」

「……。」

「だが、だからこそ。本気でずっと待っているだろうと思ったからこそ俺も、意地でもお前の元に…と思えた」





優しく髪を撫でる大きな手。
10年前と変わらない。そのあたたかさに少しだけ、ほうっとした。





「10年も待たせたくせに」

「…厳しいな」

「当たり前よ。私を10年も待たせたんだから」

「……そうだな」





その時、髪から頬に降りてきたアーロンの手。
その手にゆっくり触れて重ねる。





「…全部終わったら、異界に行くつもりなのでしょう?」

「ああ…」

「まあ、それ以上留まるなんて言い出したら怒るけど。ユウナに頼んで強制送還してやるわ」

「お前らしいな」

「当たり前でしょ。死人は異界へ、よ。でも…10年も私を待たせた罪は相当重いわ」

「フッ、本当に厳しいな」





アーロンは小さく笑った。

私は、重ねていた手を握り締めた。
そして見上げてサングラスの向こうと目を合わせる。





「だから、全てを終えるまで…ここに留まってる間は、私のことを目一杯愛しなさいよ。それで許してあげる」





目を細めて、そっと微笑む。

待ってた10年分。
目一杯、ね。





「…ああ、約束しよう」





アーロンはそう囁く。
そのまま、そっと距離を縮めた。


そう…私も、約束してあげるわ。
貴方の最期、ちゃんと見届けてあげる。

最後まで、貴方の事…見てるから。


だから貴方も、その姿がある限り…。
最後まで…一緒にいて欲しいと、希うの…。

ねえ、気付いている?
それは…意地っ張りな私の、最後のお願いだから。


END


うーん、アーロンさんはどう足掻いても最終的には悲恋なんだよなあ…。

裏設定では、ヒロインはちょっと良いとこのお嬢さん…かも。(何)
だから「この私が」って強気…みたいな。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -