死にゆく者の願い

「ナマエ、ユウナのことを…よろしく頼むよ」

「はい!おまかせください、ブラスカさん」





あなた方が旅立つ日、私は笑顔を向けた。

強く持った意思は…痛いほど伝わっていたから。
引き止めるなんて、出来なかった。

ナギ節の訪れを願うのが…一番の見送り方。

でもどこかでは、苦しくて。
それを必死に押し殺して。





「ほら、アーロンも」





ブラスカさんが剣士の肩を叩く。





「よお!この色男っ!」





ジェクトさんがそうはやし立てて、それに対して彼は「うるさい…」と睨みつけていた。
でもそれから、ちゃんと私に向き直ってくれた。





「…ナマエ、待っていてくれるか」





そう尋ねてきた彼に、私は微笑んだ。





「はい!私、結構一途ですからね」





すると、彼もそっと微笑んだ。

ねえ、せめて…貴方の帰りを願うくらいはいいでしょう?
そう…祈って。


……あれから、数ヶ月。





「ユウナ…」

「……。」





私は、ブラスカさんから頼まれた少女の様子を見に来ていた。
まだ10にも届かない、幼い少女…ユウナ。

ここ、ベベルの街は、今…大きな騒ぎだった。
いや…ベベルだけじゃなく、きっとスピラ中が。

誰もが泣いて喜ぶ、お祭り騒ぎ。

それは……召喚士ブラスカが、ナギ節を呼んだと言う知らせ。





「ナマエ…さん」

「ん?」

「私…ちょっと、お外…行ってきます」

「あ、ちょっと…!ユウナ!」





ユウナは家を走って飛び出してしまった。

私は上着を持って、慌ててユウナを追いかけた。

お祭り騒ぎの街を抜けて、辿り着いたのは長い橋。
ナギ平原が見渡せる、…旅立つあなた達を見送った場所。

ユウナはそこで、ひとりナギ平原を眺めていた。





「もう。そんな格好じゃ寒いでしょう?」

「…ナマエさん」





そっと、ユウナの肩に上着を掛けてあげる。

それに気がついたユウナはこちらに振り返った。
私は、ユウナの背に合わせてしゃがみ、その小さな身体をそっと抱きしめた。





「…無理、しなくていいよ」





そう囁くと、ユウナは小さな手で私の服をきゅっと握り締めて、すがってくれた。
私は、そんなユウナの頭を優しく撫でた。

だって、私でも…気を張ってないと溢しそうで。

ナギ節は訪れたのに…貴方は今、どうしてるの?って。
でもユウナの前ではそんなこと言うわけにはいかない。

…この子は、まだこんなにも幼いのに…世界の幸せと引き換えに、父親を失ってしまったのだ。
それは、この小さな身体が受け止めるには…あまりにも重いこと…。

私は、ただ抱きしめてあげることしか出来なかった。





「…尋ねたいことがある」





ちょうど、そんな時だった。

声をかけられた。
顔を上げると、そこには青年…いや、まだ少年と言ってもいいかもしれない。
そのくらいの年頃のロンゾ族が1人、立っていた。





「はい、なんですか?」





知らない顔に、ユウナは少し縮まってしまっている。
そんな頭を変わらず撫でながら、私は彼に聞き返した。

すると彼はこう言ってきた。





「ブラスカの娘を探している」





驚いた。
でも、それと少し、不信感も覚えた。

だからブラスカの娘を探してどうするつもりか、まず聞き出そうとした。

でもその前に、小さな彼女は素直に答えていた。





「私がブラスカの娘です…」

「ユウナ…!」





名乗った少女を、彼はじっと見つめる。

私は、そんな彼を強く見返した。
少し睨むような私の目に臆することなく、彼は言葉を続けた。





「お前をベベルから一番遠いところへお前を連れて行く」





私はユウナを強く抱きしめて、目に帯びただせる不信の色を強くした。





「…一番遠いところ?何を言ってるの?」

「これは、死にゆく者の願いだ」





死にゆく者の願い。
怪訝に尋ねる私の言葉に、彼は確かにそう返した。

それを聞いたユウナは、ぽろぽろ…と涙を溢し始めた。
ずっと我慢していた想いが溢れてしまったのだろう。

だって…死にゆく者なんて…。
それに、その願いなんて…真っ先に浮かぶのは、彼女の父親だ。

私はポンポン…と慰めるように背中を撫でた。





「もうひとつ。ナマエと言う女にも、言葉を預かっている」

「え…?」





彼の言葉は終わっていなかった。

彼の口から出た私の名前に驚いた。

今度は私…?
でも、そう言われた時、心臓が小さく音を立てたのを感じた。

不信感も、少し拭えた。
だって、私の名前を知っているなんて、その話に信憑性が帯びるから。






「ナマエは私です。預かってる言葉って?」





すごく気になって。
だからすぐに名乗って、聞き返していた。

彼は、教えてくれた。





「お前の幸せを願っている、と」





たった一言。

でも、その一言を聞いた瞬間、何かが私の中で弾けた。





「…ナマエ、さん…?」

「………うっ…」





ユウナを抱きしめる手に力がこもって、泣いていたユウナが少し驚いたように不思議そうに私の名前を呼ぶ。

でも、抑えられなくて…泣いてしまった。

…何よ、それ。
幸せを願ってるって…。

嘘…嘘よ、絶対…嘘よ…。
そう心で繰り返しても、どこかではきっと、わかってて。

その言葉で、気がついた。

死にゆく者が……――――――――貴方だってことに。





「…キマリ、わざわざ知らせに来てくれてありがとうね」





夜中になっても、まだお祭り騒ぎは続いている。

泣きつかれて眠ってしまったユウナをベットに寝かせ、私は外で…彼、キマリと話した。





「…大したことじゃない」

「そんなことないよ。それに、ビサイドまでユウナを連れて行ってくれるんでしょ?それって大変ことだもん」

「……。」

「ねえ、その旅、私にもつき合わせてくれる?」





そうお願いすると、キマリは目を見開いていた。
無口みたいだけど驚かせてしまったんだなって言うのはわかった。





「ふふっ、そんなに驚くことかな。これでも結構強いのよ?僧兵だったんだもの」

「……。」

「ユウナをビサイドに連れて行くことが彼の願いなら、私も叶える手伝いしたいの」





そう告げると、キマリは頷いてくれた。

貴方の願い。私、叶えるよ。
貴方のために私に出来ることがあるなら、やりたいの。

ほら、言った通り。





「…一途でしょう?」





ね、…アーロン。

そっと、夜空に呟いた。


END


キマリをこんなに出したの初めてだ!(笑)
それでアーロンが全然出せていないという。←

でもきっとビサイドにそのまま住むことになって、ガードにもなると思うので一応再会する…と思われ。

「これは死にゆく者の願いだ」っていう言葉は2週目でアーロンの事だったって気がつきますよね。
10は2回やるとまた違った目線で楽しめて…ものすごーく切なくなります。
ああ、やだもうアーロンさんてば。(何)




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