Grip | ナノ



「雇われたからには守る。だが、旅をするというのはそう甘いことじゃないだ。なによりあんた自身、多少でも戦う術を身につけたいんだろ?」

「仰る通りです…」





ミッドガルからの旅立ち。
まず目指すことになったのは、ゲーム通りで最寄りの街であるカーム。

6人でぞろぞろ歩くのは危険ということで、まずはパーティ編成をし、ティファとバレットが先にカームの街に歩きだした。

残ったのはあたし、クラウド、エアリス、レッドXIII。
ボディーガードを引きうけてくれたクラウドは当然として、あたしは戦力外ということでレッドXIIIも一緒にいてくれることになった。

皆の優しさが有難くも、申し訳ない。
でも凄く嬉しい気持ちが踊りだしそうになっているのは、内緒の話で。

まあ、せめて最低限の護身くらいは身につけたい…というのが正直な気持ち。

その為にあたしたちは未だ、ミッドガルのゲート前で旅の心得の確認をしていた。





「なにか触れたことのある武器はあるか?」

「いやまったく…」

「…随分平和な所らしいな、あんたの故郷」

「あ、あはは…」





銃刀法違反ですから…。
クラウドの何とも言えない眼差しには苦笑いするしかなかった。





「でも今、私たち、自分たちの武器しか無いし…。武器について考えるなら、とりあえずカームについてから、ね」

「ああ、そうだな」

「では、今はマテリアを持たせるのが妥当なところだな」





色々考えてくれる2人と1匹。
ああ、本当に有難いことだなあ…と思った。

でも最後にレッドXIIIが妥当だと口にしたマテリアについて。
それに関しては、もうわかりきってることがあった。





「あの…あたし、マテリア使えない…かな」

「使えない?」




クラウドが訝しい顔をした。
そんな顔に慣れてきている気がする自分が何だか少し切ない。





「使ったことがないのか?」

「あ…いや、あるにはあるんだけど…」





あたしの世界にはマテリアなどと言うものは存在しない。

だけど使ったことがあった。
その理由はただひとつ…宝条博士の実験だ。




「…あのさ、神羅ビルであたしの魔力が極端に少ないらしいって話したの、覚えてる?」

「ああ。それが宝条の興味を引いたんだろ?」

「うん、そう。それでその時にね、この魔力じゃマテリアを使えないんじゃないかって持たされたことがあるんだ」

「…その時使えなかった、と」

「そういうことです…」





渡されたバングルにはめられていた魔法マテリア。
だけど、いくら言われたとおりに唱えても、一向に発動するような気配がなかった。

でも、そんなの当然なような気もした。

だってあたしの世界にはマテリアなんてない。
当然、魔力なんてものが潜在しているとも思えない。

出来れば使ってみたかったけど…!
…なんて欲はともかく。

魔法という物に触れたことがない、存在しない世界で育ったのだから…、だからそれは当然なんだと思う。




「確かに魔力は人それぞれ、得意不得意はあるものだが…使えないと言うのは、私は初めて聞いたな」

「ああ…、でも宝条が実験したなら訓練したところで無駄の可能性は高い、か」

「他の方法、考えなきゃ、ね?」

「あ、あの…なんかごめん」





みんなが、あたしの事で物凄く深く考えてくている。
それはかなり申し訳ない気持ちにさせられた。

うう…やっぱり足手まといは確定なんだな…っていうのは否めない。

だけど、もう誰かの手を放すのはやっぱり怖い。
戦えない、行く宛もないなんて、もう本当に死ぬのを待つのみって感じだし…。





「別にナマエが悪いわけじゃないでしょ?気に、しないの」

「うーん…」





エアリスが励ましてくれたけど、気にしないというのは無理そうだ。

うじうじしててもウザったいだけだ。
だから頷いては置いたものの、これは真剣に考えなくては…。





「ともかくカームへ向かおう。バレットやティファをあまり待たせるのも何だしな。ナマエ」

「はい?」




クラウドに呼ばれて顔を上げる。
するとクラウドはあたしの前まで着て、何かを手渡してきた。





「これは?」

「ポーションだ。決まってるだろ」

「ええ!これが!?」

「…何を驚いてるんだ、あんたは」

「え、あ、あー…ごめんなさい」





本物ポーション…初めて見た…。
あたしを支配したのはそんな感情だ。

ても、FFのどのシリーズにおいてもポーションはどこにでも売ってる、いわば日常品みたいな物のような気がする。

そんなものを見て驚くのは相当な変わり者に違いない。

こんなのはきっと序の口。
色んな事、気をつけていかないとならないんだろう。





「アイテムなら使えないわけはないだろ。一応持っておけ」

「うん」

「モンスターがいるんだ。油断は命取りになる。あんたのことは守るが、あんた自身も気を引き締めろよ」

「も、もちろん…!」





ぎゅ、と拳を握りしめて気合いだけは見せる。
それを見ると、クラウドは背を向けてカームの方角を見直した。

その背中について行こうと足を動かしかけたとき、クラウドは背を向けたままに口を開いた。





「…だから、考えるのはカームについてからにしろ」

「え?」

「エアリスの言うとおり、あんたは悪くない。意志でどうにかなる問題じゃないだろ」

「…うん」





至極最も。
エアリスや彼の言うことは正論。





「気するなら集中して歩け。ぼんやりしてる人間を庇うのは骨が折れるからな」

「わ、わかった」





あまり見せないけど、この人は基本的に優しいのだと思う。

クラウドが優しいなんて、あたしには分かり切ってることではあるのだけど…。

ああ…でも、今のクラウドは本当のクラウドではないのか…。

今の彼は幻想。
自分の理想とザックスを合わせた姿。

クールで強くて。
憧れのソルジャーになれた自分…か。





「ナマエ、行くぞ。どうした?」

「ううん、なんでも」





背中を見つめて立ち止まったままのあたしに、クラウドは振り返った。
あたしは首を振り、すぐに追いかけた。





「えっと、クラウド?改めてごめん、負担掛けるけどよろしくね」

「…しつこいくらい律儀だな、あんた」

「そっかな、普通だと思うけど」

「礼だけで腹一杯になりそうだ」

「大袈裟だなあ」





進むはミッドカル最寄りの街、カームへ。



To be continued


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