Grip | ナノ



クラウドの意識の中、セフィロスは…消えた。
消えていった英雄の姿を、クラウドはじっと見つめていた。

そしてあたしは、そんなクラウドの横顔を見ていた。

…勝った。
この旅の、クラウドの最後の戦いは…今、この瞬間に終わった。





「…ナマエ…終わったんだな」





クラウドがあたしに目を向け、少し掠れた声で尋ねてくる。
あたしは彼を見上げ、その声に頷きを返した。

すると、その瞬間…あたしたちの周りを静かな色の光がぱあっと包み込んでいった。





「……ライフストリーム?」





クラウドがその光を見て呟く。
そう、それは星の命…ライフストリーム。

ライフストリームは、消えたセフィロスの欠片とも言える光をも取り込み、その帯を成していく。
そして、そのまま…あたしたちを導くように一本の光の柱となった。





「クラウド、見て」

「え…?」





あたしは天へと続くその柱の先を指差し、クラウドを促した。

見上げたその先には、白い手が差し伸べられていた。
その手を見つけたクラウドは、それに応えるように自らも手を伸ばし始める。

あの手は、誰の手だろう?
だけどきっと、決して悪いものでは無い。

委ねてもよい、そんな手だと…なんとなく、そう感じることが出来た。

そしてそこから、徐々に意識がはっきりとしていく。

視界が一瞬ぼやけ、その手のイメージが…赤いグローブをつけたひとつの手を重なった。





「ナマエ!クラウド!」





自分たちを呼ぶ、はっきりとした現実の声。
それはあたしたちに手を伸ばしてくれているティファの声だ。

それが届いた瞬間、あたしたちは現実の世界に戻ってきたのだと実感を得た。





「クラウド!急いで」

「え?」





ティファが懸命に叫び、手を伸ばしていた理由。
あたしはこのあとの展開を思い出し、クラウドに走ってと声を掛けた。

クラウドは最初、現実に戻ってきた意識に少しぼんやりしてるみたいだった。

だけど、あたしたちの声と、ぐらりと沈んだ足場にその意識を引っ張り出された。

大空洞は、いまや少しずつ崩れ始めているのだ。





「ナマエ!クラウド!」

「ティファ!ティファも危ないから足場のしっかりしたところを探して!」

「え…!」





心配をしてくれるティファ。

だけど確か、手を伸ばしてくれているティファの足場も崩れてしまったはずだ。
間一髪でクラウドが助けるから、特に怪我をすると言うわけでも無いけれど、止められるなら止めるに越したことは無い。

それに…今は自分というイレギュラーなものがあって、情けないことにあたしは誰かの助けなしではこの揺れの中で上の方に上がるのはちょっとキツそうだ。





「この辺!このあたりは平気そうよ!」





ティファがヒビの無いしっかりをした足場を見つけたらしい。

彼女はここなら安全だと手を振って教えてくれる。
あたしたちも、早くそこに辿りつかなければ。

すると、肩に触れた大きな手があり、あたしは彼を見上げた。





「ナマエ、行くぞ。しっかりつかまってろ」

「うん。お願い」

「了解だ」





クラウドは笑って頷き、あたしの身体を抱え上げた。
あたしはそんな彼から離れぬようぎゅっと強くしがみつく。

それを確認したクラウドは急いで走りだし、揺れる足場を蹴ってジャンプした。





「ティファ、ナマエを頼む」

「ええ」




飛び上がったクラウドはティファのいる崖に手を掛け、あたしに先に上るよう指示した。

ティファはあたしの手を掴み、上るのを手伝ってくれる。
あたしが上りきると、クラウドは両手で崖を掴んでグッとひとりで崖の上に上ってしまった。

筋力の差だなあ…なんて、そんなことを思ったのはひとまずの安心を得られたからだろう。




「クラウド、ティファ、ありがと」

「ああ」

「ふふ、どういたしまして。でも、私の足場が危険だってナマエも教えてくれたじゃない。今みたら、本当に崩れちゃってた。だから、お互い様ね」

「うん。じゃあ、どういたしまして」





ひとまず安心したのは、クラウドとティファも同じだろう。

ふたりも先ほどまでの張りつめた顔とは違う。
ホッとしたような、穏やかな表情がふたりからも見て取れた。





「……わかったような気がする」





そして、クラウドは呟いた。





「星からの答え…約束の地…そこで、会えると思うんだ」





星のこと。約束の地のこと。
旅のなかで色んなことに触れて、その答えをなんとなく掴むことが出来た。

クラウドのその言葉に、ティファも優しく微笑む。





「うん、会いに行こう」





そして、ティファもまた…理解したように彼に頷いた。





「おーーーい!」





そんな時、大空洞内に大きな声が響き渡った。

ハッとしたあたしたちはその声の方に視線を向ける。
すると、そこには手を振るバレットをはじめとし、他の皆の無事な姿があった。





「良かった!みんな無事みたい」





ティファは向こう側に手を振り返した。
あたしも同じように手を振った。

さて、戦いは終わった。
では次の問題は…ここからどうやって脱出を試みるか、ということだった。





「もうじきホーリーが動き出すんだろ?そうなったら、ここは…」





ナナキがしゅん…と尾を垂らして崖の下のライフストリームを見つめた。

さっき、セフィロスの押さえつけてるホーリーの光を此処で見た。
ホーリーが発動したら…その衝撃で更にここは崩れて、あたしたちはタダでは済まないだろう。





「あ〜あ…運命の女神さんよぉ…何とかなんねェのかよ〜。おい!ナマエ!俺たちゃこっからどう出りゃいいんだよ!」





シドが大きな声であたしに尋ねてきた。
すると皆の視線もあたしのもとに集まってくる。

あたしはゲームの記憶を辿り、思い出していた。

セフィロスを倒した皆は、いったいここからどう脱出を図るのか。





「あたしの記憶では、上から…」





そう言って、あたしは広く続く空洞の上を見上げた。
皆もその視線を追うように、自然と。

そう、上から…女神は微笑むのだ。

するとその瞬間、グラッとまた大きな揺れが大空洞を襲った。





「くっ…」

「きゃ!」





傍に居るクラウドやティファはぱらぱらと落ちてきた瓦礫にいつでも頭を庇えるような体制をとっている。多分、他のみんなも同じように。

だけど、あたしだけはじーっと上を見上げていた。

だって、多分この揺れで来るはずだ。

そう思ったその時、瓦礫の中をガラガラと大きな何かが滑り落ちてくるような変な音が聞こえてきた。
それを聞いて、そして落ちてくるそれを見つけて、あたしはパンと両手を叩いて笑った。





「うん、大正解!」





皆の目が見開かれる。
まさに奇跡、グットタイミング。

ガラリと落ちてきたそれは、セクシーな女性が描かれた大きな大きな旅のお供。
あたしたちに空を駆けさせてくれた飛空艇、ハイウインドだった。

だけど、そこに安心していてはいけない。
早く乗り込まないと。





「皆!早くハイウインドに乗り込んで!早く!」





あたしは急いでハイウインドの中に乗り込むよう皆に叫んだ。

ナナキが言っていた通り、もうすぐホーリーは動き出すのだ。

だからぐずぐずはしていられない。
あたしの叫びに急かされ、皆は立ち上がるとハイウインドの中に走っていく。

全員、問題なく乗り込んだ。
だけど間一髪だった。

皆が乗り込み、扉と閉じたその瞬間…ぱあっととんでもなく眩い光がハイウインドに襲い掛かってきた。





「うっ…!」

「ナマエ!」





眩しくて、とても目を開けていられない。
それと同時に物凄く強い衝撃がハイウインドを襲う。

ホーリーは解き放たれた。

その力は大空洞から吹き出し、その噴出の勢いでハイウインドもクレーターの外に一気に押し出される。

あたしの脳裏に過っていたのは、ゲームのあの映像だった。

ホーリーに巻き込まれ、そのまま無造作に空に放り出された飛空艇。
あれでは中の状態も当然悲惨なことになるのは必至。乗り込んでみて、改めてその衝撃の強さが身に染みていく。

叩きつけられるように、体をぶつけた。
だけどクラウドが抱きしめるように庇ってくれていて、あたしはそんなに強い痛みを負う事は無かった。





「ちくしょー!!!」





必死に何とかしようとするシドの叫びが耳に響いた。

薄目で見れば、ゲームと同じ。
シドはなんとか踏ん張ってレバーに手を伸ばし、ぐっとそれを一気に引き下ろす。

その瞬間、ぎゅんっとまた強い衝撃が艇内に襲い掛かった。





「ぐっ…」





傍にいるクラウドの低いうめき声を聞いた。

でも、それを最後に飛空艇の動きが徐々に安定していくのも感じた。
また薄目を開けばシドがハンドルを掴んでいる。

恐らく、もう墜落の危機は去ったのだろう。





「ナマエ、大丈夫だったか?」

「うん。あたしは平気だよ。クラウドこそ平気?ごめんね、庇ってくれてありがとう」

「ナマエが平気ならそれが一番さ。俺も別に怪我はしてないしな」





動きの安定した中で、クラウドは立ち上がるとあたしの手を掴んで引き上げてくれた。

皆も「いててて…」とかは言っているけど、特に怪我をした様子は無さそうだ。

それよりも、きっとみんな…メテオとホーリーが気になって仕方ないのだろう。

皆の足は自然と窓の方へと動いていく。
窓の外に広がるのは、赤くなった空の色…。

メテオは、ミッドガル上空にもう目前というところまで接近していた。
ミッドガルはその引力で生じた竜巻によりプレートを多く破壊されてしまっている。

そこに、一気に北のクレーターから噴き出したホーリーの光が走ってきた。
ホーリーはメテオとミッドガルの隙間を駆け抜け、メテオから星を守ろうとその光は盾の様に輝いている。

……物凄い力。
生で見るそれは、やはり息をのむほど衝撃的な光景だった。





「おいおいおい!ミッドガルはどうなるんだ?まずいんじゃねえのか?」





そのとんでもない光景に真っ先に声を上げたのはバレットだった。





「みんなスラムに避難してもろたんやけど、このままやったら、もう…」





酷い竜巻に襲われていくミッドガルを目の前に、ケット・シーは涙をぬぐう仕草を見せ項垂れる。
この竜巻が続けば、被害がスラムにまで及ぶのも時間の問題だろう。





「きっとホーリーが遅すぎたんだ。メテオが星に近づきすぎてる。これじゃせっかくのホーリーも逆効果だ。ミッドガルどころか星そのものが……」





ナナキもまた、そう言ってケット・シーと同じように首を下げた。

ホーリーは確かに発動した。
でもメテオが星に近すぎる事で、そのふたつの魔法の衝突の反動で星そのものが破壊されかねない。

メテオの周囲を旋回し、様子を伺う事しか出来ないハイウインド。
艇内の空気も重苦しい。

あたしは、ぎゅっと手に祈るように握りしめた。
いつか、エアリスがやっていたように…それを真似るように。

大丈夫。
星は、この世界の命は凄く強い。





「あれは…!?」





その瞬間、じっと状況を見続けていたティファが不意に声と上げた。

ティファの視線の先、見ればそこには淡い緑の帯が地中から現れ伸びているところだった。
見渡せばそれは、星の至る所から無数に伸びてきている。

それを見たあたしは、はっと心に最後の希望を確信できた気がした。






「きた…!」

「…ライフストリームか?」

「うん…!」





思わず声を上げれば、クラウドが隣から尋ねてくる。
あたしは笑みを零して彼に大きく頷いた。

いくつもの命の波。
それはうねり、空へと昇って星を大きく包んでいく。

地表を覆い尽くしたライフストリーム。
それはミッドガル上空でメテオを食い止めていたホーリーの光を支えるように混じり合った。

その瞬間、あたりに眩い光が溢れる。
この星にいる誰もが、眩しさに目を細めてしまうほどの光。

そして、その時に感じた。

淡い光の中、静かに微笑んだ彼女の存在を。





「ねえ、クラウド」





その時、あたしは静かに…彼の名を呼んだ。
クラウドは、その声を聞いてこちらにそっと振り向いてくれる。

これは、あたしが知っている…物語の終着地点。
…辿りつくことを望んだ、貴方の生きている…星が続く未来。





「クラウド、願い…叶ったよ」





真白く包まれた眩しい光の中、あたしはそう…クラウドにそっと微笑んだ。



To be continued


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