Grip | ナノ



「メテオが落ちてくるまであと6日。その残された6日間…少し、有効的に使ってみませんか?」





全員が、セフィロスとの戦いを決意したハイウインドの中。
戦う目的をはっきりさせた皆を前に、あたしはそんな提案をした。

正直、せっかく覚悟を決めて戻ってきた皆の決意の腰を折ってしまうような気もしたけれど…。

でも、皆がセフィロスに打ち勝つ可能性を1%でも多く上げておきたい。
それが、あたしが導き出した答えだった。

そのために自分の中にある知識を存分に活用しよう。
そこを惜しむ気は、サラサラなかった。





「すまんのう。また、わしの長い話に付き合ってもらって」

「いえいえ」

「お礼にこれをやろう。大事に使ってもらえるとわしも嬉しいんじゃが」





ロケットを見上げるのが趣味だったおじいさん。
しかし、そのロケットも宇宙の彼方に飛び去ってしまい…残ったのは広がる青空と寂しさだけ。

いつかのようにおじいさんのそのお話を聞くことにより、おじいさんはあたしに一本の槍を渡してくれた。

あたしはそれを受け取ると、少し離れた場所に待っていたクラウドとシドのもとへと走った。





「はい、シド。プレゼントだよ」

「…覚悟決めて村を出てきたってのに、まだすぐ戻された時はどうしろってんだって思ったが…。あのじいさん、こんなもん持ってやがったのか。チッ…しかも、割に合う上等な代物じゃねえか」





受け取った槍をシドに手渡せば、シドはその槍を一振りし、その使い心地に満足してくれたみたいだった。

ビーナスゴスペル。
あたしの記憶にある中で、最高峰の強さを誇る槍だ。





「あの沈没していたゲルニカも、モンスターは厄介だったけど、中にあったアイテムは役立ちそうなものばかりだったな」

「うん。あれは神羅がセフィロス討伐の為に準備してた道具だからね」





シドが槍を振る横で、そう言ったクラウドにあたしは頷いた。

あたしの記憶を使い、残された時間を友好的に使う方法。
それは、役に立つ武器やマテリア、アイテムを少しでも多く集めていくことだった。

今手に入れたビーナスゴスペルも然り、沈没したゲルニカなど…お話を進めるうえで、立ち寄らずとも構わない場所を巡る。
それはきっと…勝利の可能性を上げることに繋がると思ったから。

そして、そうしてアイテムを集めることとは別の意味で…もうひとつ、立ち寄った方がいいであろうがある。





「ね、ナナキ。コスモキャニオン、もう一回戻ろう?」

「えっ…?」





戻ってきたハイウインドの中で、あたしはナナキの赤い毛をそっと撫でてそう言った。

ナナキもシドと同じく、覚悟を決めて出てきた故郷に決戦を前に再び戻ることに困惑を覚えていた。

だけど…やっぱりナナキの場合は…。
彼と、彼が慕うあの人の…あの瞬間は、何も知らぬまま過ぎてしまうことを…何としても避けたいと思った。





「おお!ナナキ、大変なんだ!」





少し、無理にでも舵をコスモキャニオンに向けてもらう。
そうしてコスモキャニオンを訪れると、入り口の長い階段のところでナナキは声を掛けられた。

声を掛けてきた男の人の表情はどことなく、思わしくない雰囲気を思わせている。
その雰囲気を感じ取ったナナキは、もしかしてコレなのかと言うかのように一度ちらっとあたしを見ると、すぐに男の人に駆け寄っていった。





「どうしたの?」

「あの旅から帰られてからというものブーゲンハーゲン様、あまり元気がないんだよ。早くブーゲン様のところへ行っておくれ!」





ブーゲンハーゲンさんの体調が思わしくない。
それを聞いたナナキは、いてもたっても居られなくなったのか、集落の中に入り、上へ上へと階段を駆け上がっていった。

残されたあたしとクラウドは、その背中をじっと見つめていた。





「ナマエ…。もしかして、ブーゲンハーゲンは…」

「…うん…」





今の流れから、クラウドは事を察したらしい。

彼は基本的には、そう物事に対しては鈍い方ではないだろう。
恐らく、彼の言いたい事は正解だ。

あたしは控え目に…小さく頷いた。





「…そうか。じゃあ、俺たちは…」

「うん…。待ってようか」





ゲームでも、クラウドはナナキを気遣うように最期の時間は身を引いていた。

今回もそれと同じで、あたしはクラウドと共にキャンプファイヤーの前でナナキの帰りを待つことにした。





「…ナマエ、大丈夫か?」

「…ん?」





ぼんやり座って、ゆらゆらと燃える炎を見つめていると隣に座るクラウドからそんな風に声を掛けられた。
ちらっと視線を向ければ、クラウドはこちらを少し心配そうに見ていた。





「うん?なにが?」





あたしはそっと、笑みを浮かべてクラウドに首を傾げた。

するとクラウドは、言葉に悩むように少し視線を迷わせていた。

少し悩んだ末…やっぱり言おうと思ったようだ。
彼はあたしにしっかり目を合わせると、口をゆっくり開いた。






「未来がわかるって…こういう事なんだよな」





彼の小さな声に、納得した。
ああ…なるほどなあ…。

クラウドは優しいな…と。

大丈夫かの意味。
クラウドが少し、言葉を言い淀んだ理由。

その理由が、この一言でなんとなくわかった。





「…よく知ってる奴…目の前にいる…そういう奴の未来がわかるって、きっと…凄く恐ろしい事、だよな…」

「………。」





恐らく、クラウドは考えたてくれたのだろう。

数日前まで、ブーゲンハーゲンさんはハイウインドに乗っており…ほんの少しの間だったけど、凄く傍にいて、当たり前の存在だった。
あの時は、凄く元気だったのに…こんなにも、あっという間に…。

勿論、エアリスにも同じことは言える。
だけど…あの時は、あたしは自分の事を隠していたから…。

でも今回は、すべて話した上で…そういう出来事に直面した。
クラウドの中でもきっと…実感、みたいなものがあったのかもしれない。





「…ブーゲンハーゲンさん、すっごく元気だったから…あたしも、どこかで信じられないなって…思ったりもしたんだけどね」

「……ああ」





ブーゲンハーゲンさんに話を聞きに行こうとなったときから、あたしの頭には…この、今の瞬間の事が、頭の隅にチラついていた。

でも、だからと言って…それを誰かに伝えるのは、きっと違うだろう。

目の前にいる…当たり前の人の運命を知っていること。
正直…色々、思う事や考えることはあって…それはきっと、尽きる事などないのだろう。





「…クラウド、難しい顔してる」

「………。」

「ふふ、そんな顔、しなくてもいいんだよ」

「…ナマエ」





ちらっと見れば、クラウドは眉間にしわをよせ、まさに難しい顔をしていた。

色々考えてる、そんな顔。

クラウドがこうして、心配をしてくれている。
それだけで、あたしはちょっとほっとする気がする。





「クラウド…ありがとう」





そう微笑みかければ、クラウドはまだ少し悩んでたみたいだけど、炎に視線をやり、それを見つめながら「うん…」と小さく頷いた。

ちょうど、その頃だった。
トントン…と聞こえてきた静かな足音に、あたしとクラウドは目を向ける。

それは、戻ってきたナナキの足音だった。





「レッドXIII…ブーゲンハーゲンは……」





クラウドが少し、控え目に尋ねた。

するとナナキは俯いていた顔をぱっと上げる。
その顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。





「……じっちゃん、また旅に出るって!」

「旅…?」





明るい声。
クラウドが聞き返すと、ナナキは「うん!」と頷いた。





「この前の飛空艇がよっぽど気に入ったらしいんだ。じっとしてられないって飛び出して行っちゃったよ!お土産まで貰ったんだ、ホラ!」





ナナキが見せてくれたのは、ひとつのコームだった。

リミテッドムーン…。
それは…ナナキにとっての、最強の武器…。





「あれ?お土産って帰ってきてから貰うんだよね?ハハハ、変なじっちゃん!ハハハ…ハハ……ハ……」





自分の言葉の矛盾に気づき、笑う彼の声は、少しずつ…だんだんと乾いていく。
その様子を察したクラウドは、ナナキが言葉を失う前に、そっと優しい声を掛けた。





「そうか…。それじゃまた、何処かでヒョッコリ会うかもしれないな」

「ウン……。そう……そうだね……。ありがと、クラウド……」





クラウドの優しさを感じたナナキは、彼に小さくお礼を伝えた。
そして、ナナキはその声を…あたしにも向けてくれた。





「…ナマエも、ありがとうね」

「………ナナキ」





あたしはナナキの傍に歩み寄り、視線を合わせるようにそっと屈んだ。

手を伸ばすと、ふかふかとあたたかい赤色の毛を優しく撫でた。
ナナキはその手に、気持ちよさそうに身を委ねてくれた。

なにが…とは聞かない。
だってそれは…聞くまでも無い事だから。

ただ、彼はお礼を言ってくれたから…。
それが…あたしにとっては凄く大きいこと。

あたしは返す言葉の代わりに、彼のことを撫でていた。





「あ、そうだ。あとね、じっちゃんからナマエにひとつ預かってきたものがあるんだ」

「…えっ?」





預かり物がある。
そう言ってナナキは自分の首に掛けているアイテム袋を開くようにあたしに見せた。

その中にあったのはひとつのメモ帳。
あたしがそれを取り出すと、ナナキはそこに書かれている内容を教えてくれた。





「ナマエが持ってたブレスレットの事…文献を見つけたから、簡単にまとめておいたって」

「え…!」





それを聞いて、あたしは心臓がドキッとしたのを感じた。

ブーゲンハーゲンさん…調べてくれてたんだ…。
手にしたメモが重みを得たような、そんな感覚を覚えた気がする。

この中に…あのブレスレットの事が…。

あたしはぎゅっと、そのメモを抱きしめるように胸に押し当てる。





「…ブーゲンハーゲンさん…」





ありがとうございます。
直接伝えることが叶わなかったその言葉。

だけど、せめての想いをこめ、あたしは目を閉じ、空に祈るように胸の中でその言葉を呟いた。







「クラウド…じゃあ、」

「ああ…」





ハイウインドに戻ってくると、あたしはクラウドと一緒にそのメモの中身を読んで見ることにした。

凄く、ドキドキしてる。
まさかここにきて…また、こんなにもドキドキするなんて思っても見なかった。

ぱらり…一枚めくったメモ。
そこには、丁寧な字でとてもわかりやすく内容がまとめてあった。





時は、遠い昔。
ノルズポルという土地に、空からの厄災が落ちてきた。

それは、人々の中にある親しい者の姿に化け、人々を次々に襲っていった。

そのマテリアが生まれたのは、そんな背景からだろう。

それは…遠い遠い次元へと、人を飛ばす力を持つマテリア。

飛ばしたい者に持たせ、本人と、他者が祈る。
そうすることで、その者は逃げ場のないこの世界から逃れることが出来る。

それは…厄災の魔の手から大切なものを逃がすために生まれたマテリア。





「…これが、マテリア…?」





クラウドが預けていたブレスレットを取り出した。
そこに揺れた、ひとつの小さな飾り玉。

…簡単に、整理をするのであれば…大昔、古代種の人のひとりが…誰かに大切に想われて、あたしの世界へと…逃げたということ…?

それが、どういう経緯か巡りに巡って…あたしの手元にやってきたのか。





「…ナマエがそのマテリアを手にして、なんとなくでも…この世界の事を考えた。そして同時に、俺が助けを求めた。その気持ちにマテリアが応えた…で、話の筋は通る、か」





クラウドが、以前ブーゲンハーゲンさんに聞いた話も交え、あらかた話を纏めた。

揃った条件は…ふたつ。

飛び越える本人がマテリアをこの手にする。
その本人と、他者が祈る。

ブーゲンハーゲンさんが言っていた波長が合う人間に呼ばれると言うのは、マテリアを使うだけならば、特に必要な事ではないらしい。
だけど、望んだ世界に…という意味ならば、重要な役割を果たすようだ。

例えば、大昔のセトラは、とにかく逃げるためにマテリアを使った。
それはつまり、あたしの世界じゃなくて、他の世界に行っていた可能性もあると言う事。

もしも、向かう世界を選ぶのなら…クラウドが望んだことで、あたしがこの世界に来られたように…あたしが元の世界に確実に帰るためには、元の世界の誰かに望んでもらう事が必要だと…そういう事。





「なんだか少し…ややこしい話だけど、でも…きっと、これがすべて…なのかな」

「…かも、しれないな」





異世界へ飛びたいものが手に持ち、他者が祈る…。
元の世界に確実に飛ぶためには、元の世界の誰かに望んでもらう…か。

最期の手掛かりが、紐を解かれた気がした。




To be continued


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