Grip | ナノ



沢山傷ついた。
沢山、足掻いた。

皆は何度も立ち向かった。

自分の戦う理由を心に、諦めるものかと…何度も何度も。

白い…片翼の天使が羽根が、ひらりと落ちる。
まるで花びらのような儚げさも感じられ、静かに…落ちていく。





「…終わりだ」





クラウドが呟いた。

セフィロスの体が、崩れて…少しずつ、砂のように流れて消えていく。

皆の呼吸の音がする。
全員の、生きている音がする…。

それをみんなが実感する。
すると、自然と流れるのは安堵の感情。

みんなの表情がどことなく和らいでいく、そんな空気が辺りを包んだ。





「…セフィロス」




そんな中で、あたしは彼を見つめ、彼の名を呟いた。

世界を全てを自分のものに出来たとしたら、セフィロスは…それで満たされたのだろうか。
だって少なくとも、ニブルヘイムを訪れる前の彼は…そんなこと望んでもいなかったでしょう?





「俺達に出来るのはここまでだな」





疲れ果て、息の切れている仲間たち。
だけど…だれひとりとして欠けていない。

クラウドはそんなみんなの顔を見渡してそう呟いた。





「ちょっと待てよ!ホーリーは!?星はどうなる?おい、ナマエ。星はこれで助かるのか?」





バレットが少し慌てたようにクラウドとあたしに尋ねてきた。
確かに、セフィロスは倒してもホーリーがどうにかならねばメテオは止まらない。

どうなるのか気にするな、と言う方が無理な問題なのだろう。





「…うん。あたしの知ってる通りなら…被害がゼロ、とは言えないかもしれないけど…ホーリーは動き出すよ」

「そ、そうか。それならまあ、いいんだがよ」

「大丈夫。皆は、自分の出来る最大限の事はやったもの」





あたしはそう言って笑った。

もうこれ以上、自分たちに出来る事は無い。
自分たちが目指した目的は無事、果たすことが出来たのだ。





「……そうね。私達、出来る事は全部やったものね」





ティファも戦闘で乱れた髪を耳に掛けつつ、頷き微笑んだ。





「さあ、みんな。もう、考えてもしょうがない。不安なんかはここに置き去りにしてさ。胸を張って帰ろう」





セフィロスを倒した。
ホーリーを押さえつけるものは消し去ったのだ。

クラウドが腕を広げて皆を促せば、皆もまたそれに応えるように頷く。

確かに不安はあるけれど、やるべきことはやったのだ。
きっと、皆の心にはそれなりに達成感のようなものはあっただろう。

疲れ果てた腰を上げ、皆が歩き出す。
自分の大切な場所へ帰ろうと、その足を動かした。





「ナマエ」

「…うん?」





そんな中で、クラウドはあたしに振り向いた。
あたしは彼にゆっくり歩み寄る。

クラウドは手のひらを、あたしにスッと差し出してくれた。





「ナマエの望む未来、叶えられたなら嬉しいな」





クラウドはそう言って柔らかく微笑んだ。

この場所に赴く前、クラウドはあたしの願いを叶えると言ってくれた。
彼らの未来を望む…あたしの一番の願いを。

あたしはその、クラウドの手に手を伸ばし、重ねて握りしめた。

…確かに、やるべきことはやった。
だけど…クラウドは、クラウドだけは…まだ、あとひとつだけ…己との戦いに打ち勝たねばならない。





「…クラウド。貴方だけは、あとひとつだけ」

「…え?」

「もうひとつだけ、勝たなきゃならない」





そう小さな声で言うと、彼は戸惑ったような表情を見せた。

だけどそれもつかの間。

直後、クラウドは何かに気が付いたようにハッと顔色を変えた。
クラウドの目が、少し泳ぐ。そして…少し畏怖するように、震えた声で呟いた。





「…感じる…」

「……。」





繋いだ手が、クラウドに握られる力が少し強まった気がする。
そして同時に、熱がこもったみたいにじわりと体温が伝わってきた。





「…ナマエ、クラウド…?」





皆の最後尾。
先を歩いていたティファが、なかなか歩き出さないあたしたちに不思議そうに呼びかけてくる。

だけどクラウドには、その声が届いただろうか。





「ナマエ…。あいつは……まだいる。まだ…」

「……うん」





繋いだ手と逆の手。
クラウドはその手でぐしゃりと自分の頭を押さえて髪を乱した。

セフィロスとの戦いは終わった。
だけど、クラウドだけは…まだ、己の精神の中でセフィロスに勝たねばならなかった。

自我を取り戻したとはいえ、クラウドは…セフィロス・コピーのひとり。
この戦いに勝たなければ、彼の心から劣等感の消えず…過去と決別することが出来ない。





「…わ、笑ってる…」

「クラウド」





震える声に寄り添うように、あたしは繋いでいるクラウドの手をもうひとつの手で上から包んだ。

…あたしは、クラウドと波長が似ているのでしょう。
クラウドの心の声が、願いが、届くくらいに。

だったら、きっと…精神の中で傍に居る事も、きっと出来る。





「大丈夫」





強く、強く彼の手を握る。
そして祈り、願うように目を閉じた。

その瞬間、ぶわっと意識がどこかに飛ぶような感覚に襲われた。

ただ、しっかりと…クラウドの手のぬくもりだけははっきりしてる。





「…セフィロス」





目を開くと、目の前でセフィロスが笑っていた。

銀色の長い髪が揺れる。
上半身を晒し、正宗のみを握りしめた…ありのままの、セフィロスと言う存在。





「ナマエ…。必ず、勝つ」

「…うん」





ゆっくり手を放す。
そしてクラウドはセフィロスに近づきながら、ゆっくりと背に携えた大剣に手を伸ばした。

セフィロスも、正宗を構える。
クラウドも剣を構えた。

互いの剣先が、チャキッと…鋭い光を放つ。





「セフィロス!俺は、あんたに勝つ!!」





大きな叫び。
クラウドは、大きく踏み込んだ。

あたしはぎゅっと、手を組んで握りしめた。

剣に込められた闘気。
大きく振り下ろされたクラウドの剣。

それは、クラウドの最終奥義…超究武神覇斬。





「これがすべてだっ…!」





最後の一撃。
大きく飛び上がったクラウドが、色んな想いを込めた剣を…一気に振り下ろし叩き付ける。

その瞬間、セフィロスの身体はぐらっと大きく揺れた。





「クラウド!」





あたしはクラウドのもとへ駆け出した。
彼の名を呼びながら、しがみつくように。

クラウドもまた、手を広げてそんなあたしを受け止めてくれた。

鋭いままのセフィロスの視線。
だけど、勝敗は決した。





「…セフィロス…」





赤く染まった彼の顔。
あたしはそんな彼を見つめ、そしてそっと名を呟いた。

きっと、綺麗ごと。
言ったところで…なんの意味も無いかもしれない。

だけど…あたしが知識を持って、此処にいること。
そこに少しでも意味があればと…せめて、願いたい。





「…あなたは、モンスターじゃないよ」





胎児の時に、ジェノバ細胞を埋め込まれたセフィロス。
人並より少し…強い意志を持っていた彼。

でも、それだけのこと…。

もう5年も昔…。
流れた月日に、セフィロスの目的も…いつしか少し変わっていた。

だけど…歯車が一つ外れたのは、そんな…疑心からだった。

たかが、異物の一言。
だけどあの時、もしもセフィロスが誰かの声に耳を貸したら。

一言でも、誰かが彼の疑心に…「違う」と言えたなら。

なんて…。

それでどうなるかなんて、今からじゃわからないけど…きっと、気休めだけど。

でも、この先の未来でも…貴方の心は、満たされていないのでしょう。
2年後の未来…。あたしの知る、その少し先の未来でも…貴方とクラウドは、また…。





「…………。」





じっと、見られていた。
最後に伝えた彼への言葉。

口元が、少し…上がったような。

光に包まれ、消えていくセフィロスの身体。





「セフィロス…」





最後の一言は、彼のもとへ届いたのだろうか。
あたしはクラウドを傍に感じながら、消えていくセフィロスを…彼と共に見つめていた。



To be continued



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