Grip | ナノ



なんだか眩しい。
…なんだろう。

目を閉じていてもわかる、そんな眩しさが傍にある。

だけど、手を伸ばしても何も触れない。
足も…地についている、そんな感覚がない。

浮いている?
宙を漂う…そんな感覚。

…ここはどこだろう。
あたし、なんでこんな状況の中にいるのだろう。

ゆっくり…こうなるまでの経緯を思い出そうと、あたしは記憶を辿っていった。





《クラウドッ!》

《ああ!ジェノバ!終わりだッ!!》





星の体内へと、足を進めたあたしたち。
螺旋のように並ぶ岩を下り、辿りついた最下。

そこには、完全なるジェノバがあたしたちを待ち受けていた。

あたしは道具袋に手を伸ばし、懸命にサポートに当たった。
その支援を受けたクラウドは剣を大きく振るい…ジェノバに向かっていった。

苦戦は必至だった。
でも、彼らはちゃんと打ち勝った。

そして、ジェノバが堕ちた…その瞬間…足場が、光に包まれて崩れていった。





「……。」





思い出した。そうか。
ゲームでの展開を交えて考える。

この眩しい光は、ホーリー…。

エアリスの祈り。
聖なる、最後の希望…。

気が付いた瞬間、はっと意識がはっきりした。
そして、地に感覚が戻った。





「クラウド…」





赤黒い…。
そんな空間…。

視界がはっきりすると、すぐ傍にクラウドが倒れていた。

あたしが肩を揺らすと、彼は小さく呻いた。
瞼をぴくりと動かし…そして、ゆっくりと体を起こす。





「ナマエ……」





うつろな瞳があたしを映す。
あたしは頷いた。

そして…辺りを見渡す。





「イテテテ…」

「バレット!?」





その時、大きな影が動いた。
だけど同時に聞こえた声で、それが誰なのかがわかる。

クラウドがそこでハッとしたらしく、その人…バレットの名前を呼んだ。

そこから、次々にその場にある人影が動き始めた。





「何だオイ……結局みんな揃っちまったのか…」





バレットがその場を見渡し頭を掻いた。

今、この場には仲間全員の姿があった。
残って戦った者、ジェノバと戦った者を問わず…全員。

全員無事だった。
そのことに、少なからず皆、安堵したのではないだろうか。

あたしも…皆が生きていて良かったとホッとした部分はあった。

だけど…今、この状況がどういうことであるのか。
決して安心出来る状況で無い事を…あたしはよく知っていた。




「ナマエ…?」

「くるよ…」





あたしが不穏な顔をしているのに気が付いたのだろうか。
クラウドに顔を覗き込まれた。

その瞬間、あたしはきゅっと体をこわばらせ、そう呟いた。

直後…全員の体に、物凄い衝撃がぶわっと走った。





「ウグッ……!!」





突然の衝撃に、クラウドのうめき声を聞いた。
そして全員…同時に体の自由を奪われた。

ぶわっと宙に浮く身体。
手足が、自由に動くことを抑制される。

物凄く…変な、不安定な感覚。





「……セフィロスッ!!」





クラウドが叫んだ。

現れた…長く揺れる銀色。
そこにいるだけで、圧倒的な存在感を見せる…かつての英雄。

…今まで追ってきた偽物じゃない。
本物の、本当の…セフィロス。

目の前に現れたその人に、その場にいた誰もが嫌な寒気を感じただろう。





「グッ……これが……本当のセフィロスの力だってのか!?」

「か、体が……言う事を効きやがらねえ……ウオッ!?」

「前足が……後ろ足が……尻尾がちぎれそうだ!!」

「アカン……やっぱり桁違いや……」





次々に、皆の口から弱音が零れ始める。

無理もない。
あたしだって怖かった。

目の前にした完全なセフィロスは…こんなにも圧倒的なのかと思った。

前に、クラウドにセフィロスを包むマテリアに沈められそうになったことがあった。
あの時も本物のセフィロスを目の前にした。あの時も怖かった。でも…それより…ずっと凄い。

…いや、だけどあの時は、クラウドの手が離れてしまう。
そのことに感じた恐怖も大きかったのかもしれない。

だとしたら、今…何を怖がることがあるだろう。

だって今は、クラウドはちゃんと隣にいるじゃないか。
呼べばきっと、ちゃんと応えてくれる。

自分の声は届くと、自信を持って言える。

皆が、ちゃんと味方でいてくれるじゃないか。

あたしはそう思い出し、目の色を強めた。
キッと…真っ直ぐに見据えたのはセフィロスの背後。

そこには、先ほど感じた光が抑え込まれるように控え目に漏れていた。





「…クラウド、見える…?」

「ウ…ウ……こに……ある…。そこに……あるんだ…な…?」

「…そう」





あたしは声に力を入れ、クラウドに尋ねた。
ちゃんと光が目に映っているのか、声がちゃんと聞こえるか。

クラウドはちゃんと応えてくれた。
そして、しっかりと気が付いていた。





「…ナマエ…クラウド…?」





ティファの不安げな声が耳に届く。
どうしたの、何が見えるの、と…。

そんなティファを含め、皆に伝えるように、クラウドは言葉を紡ぐ。





「…ホーリーが……ホーリーがそこにある…。ホーリーが輝いてる……。エアリスの祈りが輝いてる……!」





ホーリー。
それを聞き、皆の視線がそこに集まった。

届いているのに、邪魔されて動けない…エアリスの祈り。





「まだ終わりじゃない…終わりじゃないんだ!!」





思い出した決意に、クラウドが鼓舞するように叫ぶ。

皆、ちゃんとクラウドを信頼している。
その声を聞けば、皆の拳にも力が戻っていく。

あたし自身もそれを感じた。
…その時、あたしは鋭い瞳と…視線がぶつかるのを感じた。





「…セフィロス…」





小さく、ほんの小さく呟いた彼の名前。

睨まれている。
そんな気がした。

微細な異物ごときが…って。

セフィロス…。
運命に翻弄されて…自分を見失った。

自分は何者か…そんな悩みが、彼の心を塗り潰した。
少しだけ…クラウドと似ているのかもね…。

だってね、貴方にもまた…穏やかな面があった事を、あたしは知っている。

笑ったり、冗談を言ったり…。
セフィロスだってちゃんと、人間…なのに。

だから、この結末はきっと…凄く後味の悪い。

セフィロスのことを…もし、救えたら…。
でも、あたしは女神様じゃないから…自分の傍にいてくれた人を守りたいと願うだけで精一杯で、自分自身もそれを選んだ。

だけど知っている。
もう届かなくとも、貴方が人であったと…。

だから止めたいと思うのは、単なるエゴなのだろうか…。

でも…知っているからこそ…せめて。
その知識から、何かそこに気持ちを込めたいと思う。

それに…きっと、この人を止める事には…クラウドにとって、もうひとつ意味が…あるはずだ。
あたしの力で…どこまで出来るのか、それは…わからないけど。





「エアリスの想い……俺達の想い……その想い伝えるために……俺達は…来た…。さあ、星よ!答えを見せろ!そしてセフィロス!!すべての決着を!!」





きっとみんな、それぞれに想いがある。
その想いをすべて乗せて、クラウドが声を上げる。

ぎゅんっ…と強い力に引き寄せられる。

最後の戦いが、今…始まった。




To be continued


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