Grip | ナノ



はあ…と息を吐く。
すると、白いそれが…ふわっと空気を泳いだ。

アイシクルエリア。
過去…遠い昔、ノルズポルと呼ばれたこの場所には、空からの厄災が星に傷を残した。

星は、その傷を癒すためにエネルギーを多く使い、この土地には雪解けが来ない。

遠い遠い昔から…今なおふさがる事のない、傷。
その名も…北の大空洞。

あたしは、今…その場所に立っている。

ゲームで見た、旅の最終地点。
かつて英雄と呼ばれた彼との…決戦の地。

その場所に…自分の足で、立っている。

大好きな、大切な人がいるから。

その人たちのために…。自分の精一杯を、したいと思ったから。





「ナマエ、足、気を付けろよ」

「うん。じゃあクラウド、手、借り手もいい?」

「もちろん」





人の手など一切加えられていない、未開の地。
当然足場と呼べるものなんて無くて、よじ登ったり、飛び降りたり…。

お願いすれば、クラウドは手を伸ばしてくれた。
あたしはその手を掴み、彼に支えられながら岩を下りていく。

凄く力強い。
旅を始めた頃の…申し訳ない、頼りにしてはいけないという気持ちを思えば、きっとビックリする。

今はちゃんと、素直に助けてって言えるのだから。





「凄いな…自分がクラウドに会って、こうやって此処を歩く日が来るなんて、思っても見なかったよ」





大空洞の中を歩きながら、辺りを見渡しそう零す。
すると、すぐ傍を歩いているクラウドがあたしの横顔に視線を向けたのがわかった。





「元の世界にいたときか?」

「うん」





頷いて、また手を貸してもらいながら段差を飛び降りる。
そしてまた、大きなこの空間を見上げて、思った。





「本当に大好きなお話だったから、何度も繰り返した。それで、この場所に物語が到達すると…いつも、ああもうすぐだって思うの」

「そうか。じゃあ…今の俺たちと同じだな」

「ふふ、そうだね」





互いに、そっと笑いあう。

そう。北の大空洞にくると…いつも思った。

長い長い、本当に長かったこの旅。
それも、もうすぐ終わるのだと。

なんとなく…感慨深い、そんな気持ちになっていた。

今も…その感覚はある。
でも、今まで感じたそのどれよりも…今が、一番大きい。

そして…今までで一番、色んな事を考えている。





「ねえ、いつかティファがね…人間て、自分の中に何てたくさんの物をしまってるんだろう…って言ってた。人ってさ、本当に色んな事抱えてるよね。それぞれに本当…色んな感情を持ってるよ」

「…自分自身の事か?」

「…うん。きっと、それもあるね。あたし、結構のんびり生きてたと思うんだ。ぼんやりぼんやり…何事も、人並みであればいいやって。でも、この世界に来て…結構いろいろ考えたと思う。人の気持ちとか、未来とか、命とか。まあ、それが結果どうだったのかとか…そう言うのはまた別の話なんだけど…。人の気持ちとかって、考えたところで…全部わかるわけないし…。でも、それでも考えた。それで…皆それぞれに色んなこと考えて生きてるんだよなって、凄く思ったの」

「…そうだな」





ゲームをしていた時も、それなりには思っていた。

クラウドが自分の中にしまっていた想い。
皆が戦うために確かめた…自分の大切なもの。

だけど実際に傍に触れて、もっとそれが色濃くなった。





「きっと…セフィロスも…」

「………。」





ぼそ、と…小さく呟く。
この先にいる、あの人の名前を。

セフィロス。

あの時…5年前、ニブルヘイムに訪れたあの時…彼の人生は狂い出した。

セフィロスは…もともと己を特別だと思っていた。
でもきっとそれは自惚れではなく…漠然とだけれど、自他共に認める、大きな何かが彼にはあった。

だけど、その何かが、どんどん形を歪め、いびつになっていった。
自分はモンスター。自分は…古代種、ジェノバの…。

色んな偶然が重なって、止まらなくなって。





「俺は…セフィロスがしたことを許すなんて、出来ない」

「…わかってる」





クラウドが、重く…苦く言う。
あたしは頷いた。

セフィロスに憧れていたクラウド。
だけどその想いは、業火の中に…親友や幼馴染み、故郷と共に…消せない傷跡に変わってしまった。

あたしだって…許せないと思う気持ち、持ってる。
エアリスを…クラウドを…皆を、この星を…全てを奪うなんて、絶対ゆるさない。

思う事は、確かにある。
だから、見つけ出した答えを…ちゃんと持っている。





「セフィロスに関して、思う事が沢山あるのは事実…。でも、あたしだって…セフィロスに許せない気持ちは持ってるし。それに…あたしが支えたいのはクラウドだから。だから、クラウドの力になることをあたしは選んだよ」

「…ナマエ」





クラウドは過去との決別を願っている。
あたしは…その願いを叶えて、彼の生きている未来を掴みたい。

それが…あたしの戦う理由なのだろう。

あたしたちは歩き続けた。
星の奥へ、一歩一歩…深く深く。





「ここが、星の中心……?」





不思議な光。
そんな輝きが目につく場所。

クラウドが呟く。

進み続けたあたしたちは…ついに、星の体内へと辿りついた。





「いよいよね」

「遂に、来るとこまで来たって感じ?」





ティファが乱れた髪を髪に掛け、ユフィが「はーあ…」と重たい溜息をつきながら言った。

しかし、さすがにここまで来たのだ。
来た道を戻る気など、この場にいる誰も抱いてはいない。

クラウドはそれを確かめるように皆の顔を見渡していた。
皆…しっかりと、目指すべき更に奥を見据えていた。

最後に、彼はあたしに視線をくれた。
もともとクラウドを見つめていた為、視線は当然絡み合った。

あたしは頷いた。
クラウドも、頷きを返してくれた。

そして彼は、覚悟を決めたように、もう一度みんなを見渡した。





「よし、行こうよ、みんな」





そして、彼が呼びかけた言葉。

ああ、そうだった。
クラウドの口から出たその言葉を聞いて、あたしはそう思った。

最初の頃とは比べ物にならない優しい口調。

シドは、その優しい声に呆れた息をついた。





「カーーッ!またかよっ!止めてくれよ、その気の抜けた言い方。『行くぜ!!』くらい言えねぇのかよ」





その指摘に、皆が小さく笑った。
そしてクラウドも、どこか照れたように後ろ頭を掻いた。

あたしも、くすっと笑みが零れたのを感じた。

優しいクラウド。
あたしは大好き。

でも、力強い声も聴きたい。

みんなの期待が集まる。
クラウドはひとつ深呼吸し、そしてその期待に応えてみせた。





「行くぜ!」





クラウドの声に、全員が頷いた。
でもその瞬間、大きな魔物の唸りが響いた。





「何だ?」

「凄い数だ…」

「チッ!みなさん総出でお出迎えかよ!」





眉間にしわを寄せたバレットに続き、ナナキが喉を鳴らしてシドが槍を構える。

思い出す。
そうか…描かれてはいないけど、クラウドと数名を除き…数人が此処で戦うんだ。





「クラウド!おめぇは先に行け!」

「俺もここで戦う」

「バ〜カ!こんなところで全員ウダウダしててもしょーがねぇだろ」

「だな、バレットの言う事ももっともだぜ。クラウド、お前さんは先に行ってろ。残ったこっちもすぐ追いつくからよ!」





バレットがクラウドに先に進むように促す。
一度は首を横に振ったクラウドだけど、シドにも促され、その声を了承した。





「ナマエ」

「うん」





共に来るようにクラウドに手を差し出され、あたしはその手を取り頷く。

促したこともあり、バレットやシドが此処に残ることを申し出た。
クラウドは残りの面子から共に先へと進んでもらう人を選ぶ。





「みんな!後でまた!」

「ああ、後でな」

「気を付けて」

「おう!そっちもな!」





クラウドとあたしの声に、バレットとシドが声を返してくれた。

時間は無い。
敵はもうすぐ傍まで迫り来ている。





「行くぞ!」





クラウドの声で、あたしは星の更に奥へと踏み入れる。
皆、自分の向かうそれぞれの相手へと、先をまっすぐに睨んだ。



To be continued


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