Grip | ナノ



「し、死ぬかと思った…」





膝をつき、座り込んだまま。
手で地面に触れ、ちゃんと地に触れている感覚にホッと胸を撫で下ろす。





「死なれちゃ困るな。ほら」

「あ…ありがと…クラウド」





小さく笑うクラウドが差し伸べてくれる手を握り立ち上がる。
そして、そこにある独特な空気に空を見上げた。





「ミッドガル…」





呟いた、その都市の名前。

あたしたちはたった今、ミッドガルへと戻ってきた。
宝条博士を止めるため…ハイウインドからパラシュートで、再びこの地に降り立った。

正直自分がパラシュートなんて使う日が来るなんて思ってなかったから、腰が抜けそうになった。

だけど、こんなことでビビっている場合じゃない。
無事に辿りつけたのだから、早く気持ちを切り替えなくちゃ。





「ハイデッカーがみなさんを狙ろてますんや。そやから外は危険です。地下を通りましょ!ここが入り口ですわ。ほんま、頼んます!魔晄キャノンまで、はよう来てや!」





ケット・シーの案内で、ミッドガルの地下を通る入口までやって来た。

梯子を伝い、地下に降りる。
でもその際、あまり大人数で動けば目立つからといくつかのチームに分かれることになった。

あたしが一緒に行動することになったのは…。





「ナマエ、何かあったらすぐ言えよ。足場とか、地下は頑丈とは言えないからな」

「うん。わかった」




クラウドと、そして…もうひとり。
今回、その人生において重要な意味を持つ相手と対峙することになるであろう…彼。

あたしは振り向き、彼の顔を伺った。





「…ヴィンセント」

「フッ…宝条か…。長き時が過ぎても、騒動を巻き起こすのは宝条なのだな…ナマエ」

「……うん」





ヴィンセント…。
宝条博士と、過去に因縁を持つ…彼。





「…ヴィンセント。きっと、また…過去に触れることに、なると思うよ…」

「…ああ」

「…あたしは、ヴィンセントに何か非があったとは思わない。だけど、貴方はそれを良しとしてないんだよね」

「…私は見ていることしかしなかったのだ。…止められなかったんだ」

「…うん。優しいね、ヴィンセントは」

「優しい?私が…?」

「うん。とっても」

「……おかしなことを言う」





ヴィンセントはそう言いながら、薄く笑った。

でも、そうでしょう。

だって…ヴィンセントはちゃんと止めたのだ。
それでも、その手を振り払って…宝条の手を掴んだのは彼女。

そこには…すごく複雑な、色々な想いが交差していたとを、あたしはもう少しだけ…知ってる。

でも、結局…残ったのは、辛く苦しい現実だけ。

きっと…ヴィンセントが思うほど、ううん…きっと、罪なんて…無いのに。
だけどそれを罪として背負うヴィンセントは…優しすぎるくらいなのだ。





「…ねえ、セフィロスはさ…自分のこともっとちゃんと知ってたら…何か変わったと思う?」

「………。」

「彼のしてることは勿論、許されることじゃない…。でも…変に知識があると、たまに…やるせない気持ちになることはあるんだ…」

「…ナマエ」

「…色んなことが重なり合って出来た渦があって、セフィロスもきっと…その中にいるだけ、なんだよね…」





ヴィンセントに少しだけ零した…そんな言葉。

…ヴィンセントは、セフィロスの出生を知る…数少ない存在だ。
だからもしかしたら、ヴィンセントは…また少し、セフィロスに対して他とは違う考え方を持っているんじゃないかって…そんな事を思ったりする。

…そう、例えば…もし、今からでもセフィロスが自分の正体を知ったとしたら。

あたしがクラウドを見捨てたあの時…。
もしも、星の中心で…あたしがセフィロスの懐に飛び込んでいたら…。

セフィロスに、自分が生まれた所以を伝えていたら。

あの時ではもう…時は遅いのかもしれない。
少なくとも…5年前の、あのニブルヘイムの事件の前でなければ。

だけど…もしかしたら、メテオの発動くらいは…。

…今それを考えたところで、もうどうしようもないし、正直それをしたとしてもどう転ぶかは予想が出来ない。

だって、あたしはあの時恐れたのだ。自分の知識をセフィロスに伝えて、彼の運命を教えてしまう事を。

もしかしたら…セフィロスはあの場で、クラウドを殺したかもしれない。
自分を葬る、その存在を…。

そんなことになったら…。
きっとあたしは、どこかでそれだけは絶対に阻止しなくてはならないと思ってた。

この世界のため…。
ううん、本当はそんな大きな話じゃなくて…。

クラウドのことが…。
クラウドの命だけはきっと…何をしてでも守りたいと、そう…思ってた。





「…ナマエ、顔色悪いぞ…?大丈夫か?」

「クラウド…うん、大丈夫」





少し先を歩いていたクラウドを追うように、足を動かす。
すると、その足音に気づいてクラウドが振り返ってくれた。

あたしはふっと口元を緩めて頷く。

だけどそれを見たクラウドはちょっと眉をひそめてた。





「また、変なこと考えてないか?」

「え、へ、変なこと?」

「ああ。自分の行動、省みてる」

「…あ、あはは…」

「…その笑い方は、図星か」





ぐしゃ…と頭に手が触れた。
それは、そっと咎める…優しい手。

あたしはその手を感じながら、ふっと目を閉じた。





「お前が何か気にすることも、ましてや自分を危険に晒す必要も無いんだからな」

「うん…大丈夫。ただ…クラウドのこと守りたいなって思っただけだよ」

「え…?」

「ふふっ…、実際…ずっと前からそうだったんだろうなって思って」

「……ナマエ」





ずっと、根底にあった気持ち。

そうだよ。
目隠し、してただけ…。

もうずっと前から…。
貴方のことを、守れたらと…。

今はもっと…その気持ちを前に出せる。

クラウドのことを守りたい。
非力だけど、あたしの持てるすべてを使って…。

そこに、偽りはないのだから。





「…後悔だけはしないことだ」





そして、そんな様子を見ていたヴィンセントからひとつの助言を貰った。

あたしとクラウドはヴィンセントに目を向ける。





「…私のように、お前たちが後悔をしないこと…。私はそれを祈ろう」





赤いマントの中で、彼はそう言う。

祈ってくれる…。
それは凄く、有り難いことだけど…。

でも、あたしは首を横に振った。





「まだ…ヴィンセントにも、出来ることは残ってるよ」

「……。」





辛い、後悔の記憶を引きずり出す。
でも…ヴィンセントは、眠りから覚めたとき言っていた。





《…いや、お前たちについて行けば宝条に会えるのか?》





彼女を止めることが出来なかった。
その自責の念にとらわれ、罪として深い悪夢にうなされ続けたヴィンセント。

…きっと、うなされ続ける未来もあった。

だけど、彼は今ここにいて、目を覚ました。





「だったら、あたしも祈るよ。ヴィンセントの背負うものが、少しでも軽くなりますように」

「…ああ、今度は見ているだけで終わらせたくないな…」

「うん」





また…色々な想いが交差する。
それぞれ…色んな想いを抱いて、あたしたちは先を目指した。

地下を出て、街を抜けて…。

雨が降る。
まるで、誰かが泣いているのか。

キャノンの真下。
続く、一本の階段を駆け上がれば…そこに見つける。

雨なんて気にもしてない。
…もしかしたら、気づいてもいないんじゃないか。

白から…ぴたん、と水が滴り落ちる。





「宝条!」





クラウドが叫ぶ。
そこには、黒い髪を一本に束ねた…白衣の背中があった。




To be continued


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