Grip | ナノ



久しく訪れた、古代種たちの都。
あたしたちはブーゲンハーゲンさん共に、忘らるる都へと訪れた。

あの時…エアリスが何をしようとしていたのか、それを確かめるために。

あたしがそれを口にすることは簡単だったけど、だけど…そうせず、確かめに来た。
エアリスの想いは、凄く…大切なものだったから。





「ここは……。おお…確かに……」

「何かわかりそうなのか?」

「……ちと時間をくれんか?」





ブーゲンハーゲンさんは、そこにある何かに気が付いたのだろうか。
オルゴールのある白の間にて、ブーゲンハーゲンさんはその興味を露わにした。

クラウドはこの場所の解読を試みるブーゲンハーゲンさんをじっと待っていた。

…そしてあたしは…そんなクラウドの横顔を眺めて…ちょっと考え事をしてた。

ここに来る前…コスモキャニオンで、あたしはクラウドにブレスレットを預けた。

元の世界で…この世界に来る前日に買ったブレスレット。
何気なく見ていた雑貨店で、ひとめぼれして買ったもの…。

それが本当に、元の世界に帰る鍵ならば…今は、その可能性を少しでも遠ざけておきたかった。

だって今は…クラウドの為に出来ることをしたい。
旅の終わりまで…クラウドの傍にいて、彼を大事にすると…約束した。

自分自身も、したいと願ったから。

…あたしは、彼の未来の可能性をひとつ、知っている。
この旅を終えたクラウドは自分と向き合い、そして…エアリスとザックスに…目の前で失った命に、嘆く。

…でもそれは、誰も望まぬ後悔だ。
誰一人として、クラウドに嘆いて、苦しんでほしいなど思っていない。

…あたしも、クラウドに後悔なんて…して欲しくない。

クラウドはあたしを好いてくれた。
好いてくれたなら、せめて自分との思い出は…楽しいものとして刻みたいと思う。

…実際は、あたしの選択次第では…その思い出は苦味に変わってしまうのかもしれない。

でも…どんな結末であれ、相手を精いっぱい思うのは…きっと、悪いことじゃない。

だって…もし、離れてしまうのなら、それがわかってたら…きっと人は、思い出を…残そうとするもの、でしょ…?

クラウドは言った。
もし別れることになっても、あの時もっと話せたんじゃないかって思うのは嫌だ…と。

…あたしも、そう思う。
だから…あたしも、それに応えたいと思ったの…。







「この部屋に渦巻いている古代種の意識はたった一つの事を訴えているのじゃ。星の危機…もう人の力でも終わりのない時間の力でもどうしようもないほどの星の危機。そんな時が訪れたらホーリーを求めよ、とな」

「ホーリー?」





しばらくして…、ブーゲンハーゲンさんがこの場所の意味を理解して教えてくれた。

クラウドは聞き返す。

ホーリー…。
それは、究極の白魔法…。

そして、この物語において…最重要な意味を持つ、大きな大きな切り札。





「究極の白魔法ホーリー……メテオと対をなす魔法じゃ。メテオから星を救い出す最後の望み。ホーリーを求める心が星に届けば、それは現れる。ホーホーホウ。メテオもウェポンもすべて消えてなくなるじゃろう。もしかしたら、わしらもな」

「俺達も!?」

「それは星が決める事じゃ。星のとって何が良いのか。星のとって何が悪いのか。悪しき者は消えてなくなる。それだけの事じゃ。ホーホーホウ。わしら人間は、どっちかのう」





皆、クラウドとブーゲンハーゲンさんの話を真剣になって聞いていた。

あたしも…もちろん、そうだった。
それはあたしにとって、知っている情報だったけど…でも、ホーリーはエアリスの祈りだから。

彼女のことを思い出し、心の奥がなんとも言えない気持ちになった。





「ホーリーを求める…。それはどうやるんだ?」

「星に語りかけるのじゃ。白マテリアを身に付け…これが星と人を繋ぐのじゃな。そして星に語りかけるのじゃ。願いが星に届くと白マテリアが淡〜いグリーンに輝くらしいのじゃ」

「……終わりだ。白マテリアはエアリスが持っていた…。でも…エアリスが死んでしまった時に祭壇から落ちて…。だから……終わりだ」





メテオに対抗する手段が見つかったかもしれない。

だけど、その希望は一瞬にして崩れ去る。
クラウドは落胆したように、肩を落として俯いた。

でも実際は…それは違う。





「クラウド、諦めるのはまだ早いよ」

「え…?」





あたしは彼に声を掛けた。
クラウドはその声に顔を上げる。

そしてそれを肯定するかのように、ブーゲンハーゲンさんが地面を指差した。





「ホーホーホウ!ホーホーホウ!ホーホーホウ!これを見るのじゃ!古代文字じゃ」

「読めるのか?」

「まったく読めん!」





クラウドはガクッと頭を抱えた。

この展開は知ってたけど、確かにちょっとブーゲンハーゲンさんのテンション紛らわしいよなあ…とは思う。
だからちょっとだけ苦笑いだ。





「こんな時に冗談は……」

「わしは古代種じゃない。こんなもんは読めんわい!でもな、こんな老いぼれでも目は悪くなっておらん。よ〜くその文字の下を見て見ろい」

「【カギを】【オルゴールに】…?」





ブーゲンハーゲンさんが指した、古代文字の下にあったチョークの殴り書き。
クラウドはそれと目を凝らして読み上げる。

そしてその瞬間、ぱっと驚いたようにあたしの顔を見上げた。





「ナマエ…これは…!」

「うん。そうだね」





あたしは頷いた。

それは…先日、酔いの回るクラウドの背をさすりながら、潜水艦での探索をしたときのこと。

…その時、見つけておいたあれ。
今、この場所で必要となる…あの、日の光の届かぬ場所にある鍵を。





「おお!すでに持っているのか!なるほど…これがナマエ、おぬしの知識か…。度胆を抜かれるのう」

「あ、あはは…。まあ…これくらいは」





あたしはあの後、ブーゲンハーゲンさんにもう少し自分のことを詳しく話した。

未来がわかることも、みんな…。

そのうえで、あたしが進もうとしている道は…どうなのだろうかって。
何と言われたとして、もう意見をそう簡単に揺らすつもりなどなかったけど…。

…だけど、この人の知識は聞いておいて損はきっとないはずだ、と。

なんとなくそう思って、あたしはブーゲンハーゲンさんの意見を仰いだのだ。





《ホーホーウ。わしにもそう助言してやれることは多くない。しかし、わしも考えるのじゃ。結果はどうなろうと何かやる事が大切なのではないか?わしは運命を受け入れすぎるのではないか、と。したいことがあるなら、やってみるのは悪くないじゃろう。それに、お主には自分を肯定してくれる者が傍にいるのじゃ。なら、突き進んでみなさい》





とても、心強かった。

そう…あたしには、今したいことがあって、それを肯定してくれる人がいるのだと。
その言葉に、気持ちはまた一新…大きく固まった気がする。

そして…その一番は、クラウドだ。

クラウドの願いは…セフィロスを倒すこと。
そして、過去と決別すること。

…あたしは、その願いを叶えたい。
クラウドが幸せに生きている未来が欲しい。

そのためなら何でもするって決めた。
揺るがない…固めた、強い気持ち。

目指す、道の…終着点。





「わしが鍵を差してこよう。お前達はここにいるんじゃ。そして何が起こるのかをしかと見ておくんじゃ。ホーホーホウ!」





あたしがそんなことを考えている中、ブーゲンハーゲンさんは鍵を受け取り、オルゴールへとそれを差しに行ってくれていた。

鍵が差され、オルゴールは…回りだす。
不思議な音色を奏で、辺りに旋律が響きだす。

そして…ざばっ、と。
空から水が流れだし…目の前に、水のスクリーンを作り出した。





「ここはイメージを投影するスクリーンだったのじゃ!見てみい!水のスクリーンに映ったイメージを!」





透き通る水の流れの中、揺らめくそこに見事に映し出された映像。

それは…愛らしいピンク色。
祈りを捧げる、あの時の彼女の姿だった。

あたしはそれを見て、あの時の気持ちを…思い出していた。

あの時、あの瞬間…。
あたしはただ、ただ…彼女を救いたいと思ってた。

それ以上に怖いことなどないと信じ、彼女を助ける事だけに…焦って、必死で。





「…エアリスは、ホーリーを発動させるために…あの時、ここに来たんだよ。あたしは…それを知ってたから…そのあとに待つ結末も、わかってたから…。だから、その流れだけは何としてでも変えなきゃって…思ってた」

「…ナマエ」





映像の中の白マテリアは、淡いグリーンに光を放った。

…覚えてる。
だって、あたしは…その瞬間をずっと待ってた。

その瞬間さえ来たら、彼女の手を引いて…懸命に逃げようって。

古代種の神殿で、黒マテリアを渡さないようにしよう。
エアリスがひとりで行ってしまうのを止めよう。

どれも叶わなかったから…それが、最後の砦だったから。





「でも…もっと早く、クラウドに相談してれば良かったな…。そしたら…もっと、違う何かがあったかもしれないって…そう、思って…」

「…ナマエ…」





あの命の波の中で、彼女は笑った。
《助けようと、してくれたんでしょ?それだけで、私、とっても嬉しいよ》と。

あたしに、優しく微笑んでくれた。

でも…やっぱり助けたかった。
彼女には、楽しみにする未来が…まだまだたくさんあったはずなのに。





「…自分のこと、そんなに責めるなよ。顔…あげてくれ、ナマエ」





頬に手が触れた。
そっと、なぞるような指先が、とても優しい…。

あたたかい声…クラウドの手だ。

ゆっくり顔を上げると、そこに…優しい空色の瞳が映った。





「…俺も同じだ。突然で、だから…何も考えられなくて、気づくのに…こんなにも遅れてしまった」

「……。」

「でも…もう、わかったから。だから、俺が何とかするよ」

「…クラウド…」

「…それにさ、ナマエは力を貸してくれるんだろ?俺が、大切なものを守れるように。だから、一緒になんとかしよう」





あの日の約束を、クラウドは思い出させるように…確認するように微笑んでくれる。
目の前で、目一杯の優しさを与えてくれる。





「もう、二人で話、進めないで!」





その時、ティファの声が聞こえた。
ぱっと振り向けば、そこにあった仲間たちの笑顔。





「エアリスが私たちに残していってくれたもの…無駄にしちゃいけないね」

「ああ、無駄には出来ねえぜ」

「うん、しちゃいけないよね」

「折角残してくれた希望…それに賭けてみなきゃね!」

「そや…無駄にしたらアカン」

「大切な人が残してくれた希望…それを育むのが、私たちに出来る精一杯の事…」

「あの花売りのねえちゃんが置いてったでっけえプレゼント…封を解いてやんねえと悲しむぜい!」





次々に溢れる、掛けがえない言葉たち。

そう。あたしは決めたのだ。
彼らが少しでも…幸せになれる未来を紡ぐと。

そのための努力なら惜しまない。
惜しみたくない。どこまでだって必死になってやる。

そう決めたんだ。
クラウドの為に…クラウドの為ならなんだって…と。

そう思いながら見つめたクラウドの顔は、スクリーンを再び見上げて目を険しくさせていた。





「エアリスの声は星の届いていた。それは白マテリアの輝きを見ても明らかだ…。でも…ホーリーは?どうしてホーリーは動き出さない?何故だ?」

「…邪魔しとるもんがいるんじゃよ」

「…そう。願いの前に、立ちふさがってる」





ブーゲンハーゲンさんとあたしの言葉を聞き、クラウドは頷く。
その心当たりは…ひとつしかない。





「……あいつか……。あいつしか考えられないな」





白マテリアは輝いている。
それはエアリスの想いが、星に届いたなによりの証拠。

だけど、いまだ発動しないその理由。





「…セフィロス、どこにいるんだ」





何物をも凌駕する、強い意志。
一度、クラウドにライフストリームに落とされ、絶命してもなお…星と一つになることを拒んだ彼…。

目的は、さらに正確に…鮮明にへと色濃くなる。

目指し続けた最強のあの人物へ。
あたしたちは、強い気持ちを向けた。




To be continued


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