Grip | ナノ



「星の声…か」





空を見上げて、小さくつぶやく。

赤い大地。
星命学の地、コスモキャニオン。

久々に訪れたこの地は、以前訪れた時とは違う…なんとなく新しい感情を覚えた。





「…はー…」





すうっと息を吸い込む。
渓谷に吹く風が、体中に染み渡る。

自然のにおい…。
少し冷たくて、心地よく感じる。

この星にとって、あたしは異質の存在。
だけど…あたしはあなたに嫌悪を感じない。





《でけえでけえと思ってたこの星も宇宙から見ると小せえ小せえ。真っ暗な中にぽっかり浮いてやがるんだ。……とっても心細そうによ。おまけに腹の中にはセフィロスっつう病気を抱えてるんだろ?だからよ、この星は子供みてえなもんだ。でっけえ宇宙の中で病気になっちまって震えてる子供みてえなもんだぜ。誰かが守ってやらなくちゃならねえ。ん〜?それはオレ様達じゃねえのか?》





宇宙から見たこの星に、シドはそう言った。

宇宙から見た、小さな星…。
あたしも、脱出ポットから見たこの星を…とても小さいと思った。

だって、宇宙は広くて広くて…本当に、ぽつんと浮かぶ…小さな存在に思えて。

でも、その小さな存在に…愛おしさを覚える。





「ナマエ」





後ろから呼ばれ、振り返った。
そこにいたのは、今…誰より大切な金色の髪の彼。





「クラウド」





歩み寄ってくる彼のもとに、あたしもゆっくり歩み寄った。





「なにか見てたのか?」

「ううん。なんでも。風がきもちーなーって」

「そうか」






見上げれば、彼は微笑みをくれる。
あたしはこの静かな笑みを、たまらなく好きだと思う。

そして…そんな彼と、仲間を…いとおしく思う。
だから、みんなのいるこの星に、自分が出来ることをしたいと願うのだ。





「じゃあブーゲンハーゲンのところに行こうか」

「うん」





あたしたちがコスモキャニオンにやってきたのは、行き詰まった道を探すためだった。

ヒュージマテリアの一件から、少し旅に一息を置いていたあたしたち。

少し落ち着いて事を考え、そうしてそれは、今までの旅路を思い出すことにも繋がった。

そして…何か、ヒントでも構わない。進むべき道…何か、詳しい話を聞けるような人の存在を思い出した。
その存在とは…。皆が思い浮かべたのは、コスモキャニオンのブーゲンハーゲンさんだった。

あの人なら、もしかしたら何か為になる知識を授けてくれるかもしれない。
そんな期待を抱き、あたしたちはこの地を再び訪れた。





「ホーホーウ、よく来たな。クラウドにナマエよ」

「ああ」

「お久しぶりです、ブーゲンハーゲンさん」

「ホーホーホウ。ワシの知識が必要になったらいつでも歓迎じゃ」





最上階にやってくると、ブーゲンハーゲンさんは快くあたしたちを迎えてくれた。

先に来ていたナナキがある程度の話をしていたらしく、ブーゲンハーゲンさんはあたしたちが訪ねた理由を理解してくれていた。
だから部屋を訪れてすぐ、本題へと話を進めることとなった。





「どうしたらよいか…道を見失ったか?そういう時は各々自分を静かに見つめるのじゃ。何か忘れている物が…。何か心の奥に引っかかっている物がある筈じゃ。それを思い出せ…。きっとそれがあんた達の捜している物じゃ…」

「そんな事言われても……思い出せない」





クラウドは難しい顔をして、うんと頭を悩ませていた。

あたしはその横顔を、じっと黙ってみていた。

確かに、ブーゲンハーゲンさんの言うとおり…心の奥に、引っ掛かっているものはあるはずだ。
とてもとても、大切なものが。

その時、すりっと足元に柔らかな毛が当たったのを感じた。





「…ねえ、ナマエ。ナマエは知ってるの?」





見下ろすと、そこにあった赤い毛。
先にここに来ていたナナキが擦り寄って、あたしの顔を見上げていた。

あたしはそんなナナキにしゃがみ、その柔らかい頭を撫でた。





「…うん。そうだね。とってもとっても、大切なもの。言ってしまうのは…凄く簡単だけどね…」

「うん、わかってる、ちょっと聞いてみただけ。オイラ達が自分で探さなきゃ意味がないんだよね」

「うん。そういうこと」

「そっか!」





そう頷きながら、あたしは彼の頭をまた撫でた。
ナナキはその手に懐いて、嬉しそうにしてくれる。

今更だけど、皆は本当にいい人たちだと思った。
それってすごく…月並みな言い方になってしまうけれど。

だって多分…あたしのことについて、何も思うことがなかったと言えば嘘になるはず。

それでもこうして傍にいて…むしろ、あたしの心配すらしてくれる。
ひとりで抱え込んで、重たかっただろうと気遣いをくれた。

今のナナキだって、然り…だ。





「ねえ、クラウド。皆も呼ぼうよ。オイラ、皆で考えたほうが良い気がするんだ」

「…そうだな」





クラウドはPHSを取り出すと、残りの皆にも連絡を入れた。

皆の心の中にある、とてもとても大切なもの。
それを、全員が心に手を当てて考えた。





「どうじゃ、捜し物は見えてきたかの?」

「いやぁ〜、さっぱりですわ」

「あたしも!全然わかんない!」





ブーゲンハーゲンさんの部屋を埋め尽くす大所帯。
しばらく考えた末、根を上げたのはケット・シーとユフィのふたり。

あたしはそんな二人の様子に、ふっと笑みを零した。

わかんない、なんて言うけれど…でもそれは、きっと…何を探せばいいのかわからないだけなのだろう。
だってきっと…それを忘れるなんてこと、ないはずだから。

そして、その向けるべき答えを見つけたのは…ずっとひたむきに考え続けていた彼だった。





「俺は…エアリスの事を思い出してた」





エアリス。
クラウドが呟いたその名前に、皆がはっとしたように顔を上げた。





「いや…そうじゃない。思い出したんじゃない。忘れていたんじゃない。そんなのじゃなくて…。何て言うか…エアリスは、そこにいたんだ。いつも、俺達の側に。あまりに近すぎて、見えなかった。エアリスのした事…エアリスの残した言葉……」





そう、本当は…ずっと傍にあったから。
思い出す…なんて必要ないくらいに。

だから逆に、見逃していた。

でも、気づけばぱっと目の前に広がっていく彼女の存在。





「そう言えば……私も……そうだった」

「…オイラも」

「俺もさ…」





ティファやナナキ、バレットが頷く。

エアリスの存在。
皆、この旅の中…一度だって忘れたことなんかないだろう。

クラウドは、エアリスと最後に交わした言葉を思い出していた。





「セフィロスのメテオを止める事が出来るのは自分だけだと言っていた」

「……でも、エアリスはもういない」





ティファが悲しげに目を伏せる。
そして、皆があの時の…エアリスを最後に見た瞬間を思い出していた。





「エアリスがやろうとした事…オイラ達には無理なのかな?」

「俺たちゃ古代種じゃねえからな」





しゅん、と尾を下げたナナキにバレットが首を振る。

メテオを止められるのは自分だけ。
それは、自分が古代種であるがゆえ…。

あたしも…エアリスから防げるのは自分だけだと直接話を聞いた。





「大体、何だってあのネエちゃんはあんな場所へ行ったんだ?」





そして、シドが核心に触れる。

忘らるる都の水の祭壇。
そこれ祈りを捧げていたエアリスは、いったい何をしていたのか。

それを聞いたとき、クラウドがハッと気が付いた。





「そうだ!俺達はそんな事も知らないんだ。エアリスは何をしていたんだ?何故逃げもせずにセフィロスに…」

「そうか!あの場所にもう一度、だね?」




クラウドの言わんとしていることを理解したナナキが言う。
その声にクラウドも頷いた。

そして、そこまで来ると、ずっと話を黙って追っていたブーゲンハーゲンさんが話に入ってきた。





「ホーホウホウ。ワシも乗せていってもらおうかのう」

「じじ、じっちゃんも!?」

「何もそんなに驚かんでもいいじゃろ…。ワシだってたまには外の世界に出てみたいんじゃ。何故かのう、こんな気持ちになったのは久しぶりじゃ…」





自分も旅に同行するという申し出。
ナナキのあまりの驚きに多少のショックを受けつつ、しみじみと髭を撫でて呟くブーゲンハーゲンさん。

こうして、あたしたちはひとつ…新たに進むしるべを見つけた。

求めるのは、エアリスの想い。
彼女のしようとしていたことを突き止めること。





「そうだ、ブーゲンハーゲン。もう一つ、頼みがある。俺達の手元にヒュージマテリアってのがあるんだ。デリケートな物だから何処か静かな場所に…」





目的を定め、皆が部屋を出始める中。
クラウドはもうひとつ、ブーゲンハーゲンさんに頼みごとをしていた。

それはヒュージマテリアの管理についてだった。

ヒュージマテリアは大きくて、とても持ち運ぶには向いていない。
そもそも、クラウドの言う通りデリケートなものでもある。

ブーゲンハーゲンさんはその願いも快く引き受けてくれた。





「ホーホーホウ。それなら、この上がいいじゃろ。どれ、早速行ってみるか。機械の動かし方を教えるからようく見ておくんじゃぞ」





ブーゲンハーゲンさんに案内され、奥の部屋に入っていくクラウド。
その背中を見て、あたしは少し迷った。

さて、あたしはどうしようかな。

先に戻っても別にいいけど…。
でもどうせならクラウドのことを待って、一緒に戻ろうかと思う。

そう思い、とん…と壁に寄り掛かってひとり彼のことを待ってみる。

するとクラウドは一度足を止め、あたしのほうに振り向いた。





「ナマエ?待っててくれるのか?」

「うん」

「そうか…なら、折角だし、来ないか?」





ちょいちょい、と手招きしてくるクラウド。

そうか。それもありか。
そう思い、あたしは背中を壁から離してクラウドの傍に駆け寄った。





「ここを、こうすると…」





ブーゲンハーゲンさんが機械をいじり、カチ…という音がした。
その瞬間、いつかのように足場がせり上がり、静かなプラネタリウムの空間へと景色が変わる。

クラウドはそこへ、4つのヒュージマテリアを安置した。





「ホーホーホウ。これがそのヒュージマテリアか…これはまた珍しいマテリアじゃの。これほどのマテリアなら何か特別な知識を秘めているかもしれんのう」





ブーゲンハーゲンさんも、珍しいものを見たというようにヒュージマテリアを見つめていた。

確かに、クラウドたちのいつも使うマテリアとは格段に違うと、魔法の使えないあたしでもそこにあるだけで十分にわかった。

大きくて、そして…不思議な輝き。
とてもとても綺麗だと思う。

その輝きをぼんやり見ながら、あたしはクラウドに声を掛けた。





「…ねえ、クラウド」

「ん?」





同じように、ヒュージマテリアの輝きにしばし見とれていたクラウドがあたしに視線を向けてくれる。
あたしも視線とクラウドにと動かし、その線は交わった。





「…あたしね、ライフストリームの中で…エアリスと話した気がするの」

「え…」

「…ううん、気じゃない…。実際に話したよ。エアリスと、ザックスと…」

「エアリスと…ザッ、クス…?」





クラウドにとって、大きな意味を持つであろう…そのふたつの名前。
聞いた瞬間、彼の青い瞳は大きく見開かれた。

なんとなく…クラウドには話しておこうかと思った。





「ふたりがさ…励ましてくれたんだ。だからあたしは、エアリスのしようとしたこと…何としても叶えたいと思う。そして、ザックスが守ったものを…彼の生きた証を、守りたいと思う」

「…ナマエ」





もう、クラウドは思い出している。

自分にとって、ザックスがどういう人物だったか。
彼にとって、自分がどういう存在なのか。

大切なものがたくさんあって、零れ落ちそうなくらい。
守るなんて…自分の手に余ってしまうくらいかもしれないけど。





「ザックスね、言ってたよ?クラウドは懐の大きい男だってさ」

「…ザックスがか?」

「うん。…本当に、その通りだった」

「……。」





星が、流れる。

…この間、神羅屋敷に行ったとき…思った。
クラウドは…きっと、自分を責めるのだ。

頭で、彼らは自分を恨みなどしないだろうとわかっていても、自責の念にとらわれる。
それは彼が優しいからだと…あたしは思う。

だけどそれはやっぱり少し悲しいから…。

それに…あたしは、誰よりこの世界を客観的に見られる。

見てみて…ザックスはクラウドを嫌悪したことなどない、と知っている。
だから、エアリスやザックスの想いが、ちゃんと届くように。

そういうのもきっと…あたしが知っていることで出来るひとつ、のような気がする。





「そうか…じゃあ、やっぱり頑張らなきゃだな」

「うん。手伝うよ。あたしに出来うる限り」

「うん。俺もナマエを手伝う。俺にやれることは何でも」





自分の力がどんなに小さくとも。
身の丈にあっていなくても。

それほどまでに、精一杯に守りたいものがある。
力になりたいと心から思える人がいる。

その事実は、とても幸せで…尊いものに思えた。





「ホーホーホウ。それにしても異世界とは。長生きはするものじゃのう」





そして、あたしはブーゲンハーゲンさんにも自分がこの世界の人間ではない事を告げた。

やっぱり、とても突拍子のない話。
だけどブーゲンハーゲンさんはそれをすぐに受け入れ、興味深そうに聞いてくれた。





「何か、関連のある話とか…聞いたことないか?」

「ホーホーホウ。いくら長く生きているとはいえ、そうお目に掛かれる話ではないのう。じゃが…何事にも理由というものはあるものじゃ。お主がこの星に導かれた理由が…」

「導かれた理由…」





言われた言葉を考える。

導かれた理由…。
そもそも、あたしは導かれたのだろうか?

それなら、誰に?

だけど、そう思ったとき…あたしにはひとつ心当たりがあった。





《誰、か…。誰か…、助け…て…くれ》





とてもか細い声。
凄く凄く辛そうな…、すがるような声。

あたしはのんびり歩いてて…そうしたら突然に視界が歪んで…。
でもその時、そんな…誰かの声を聞いた気がした。





「そういえば…誰かに呼ばれたような、そんな気がする」

「それって…前にミッドガルを出るときに言ってたよな?」

「クラウド、覚えててくれたの?」

「ああ」





前に話したことをクラウドが覚えててくれて、ちょっと嬉しくなった。

そうだ、確か旅に同行させてもらうことになったとき…あたしは皆にそんな話をした。
ワープした瞬間に誰かの声を聞いたこと…それだけは話しておいたんだっけ。

それを聞いていたブーゲンハーゲンさんはまた興味深そうに自分の髭を撫でた。





「ホーホウ!ならば、その声に呼ばれたのかもしれんな。その誰かの願いが、ナマエの中にある何かと上手いこと共鳴をした。人には波長と言うものがあるという。その誰かとお主の波長がとても近いもので、異世界に呼び寄せられた。ふむ、有り得る話じゃと、わしは思うのう」

「この世界の誰かの波長…願いに、呼び寄せられた…」





助けを求める、苦しそうな声。

その人は、何に苦しんでいたんだろう。
今はもう…大丈夫なのかな。

あたしは…その助けに応えるためにこの世界に呼ばれたのだろうか。





「もしも、誰かによって呼び寄せられたなら逆も然りじゃ。今度は、元の世界の波長の合う誰かに呼ばれれば、元の世界に戻れるのかもしれんのう」

「えっ…」

「………。」





ブーゲンハーゲンさんの仮説に、ドキッと心臓が音を立てた。

もしも、誰かの願いでこの世界に来たならば。
今度は、元の世界の誰かに呼ばれれば…その時が、あたしが元の世界に帰れるとき…。

元の世界に、帰れるかもしれない…。

初めて見えたその手掛かりに、元の世界の記憶が頭に過った。

ここに来る前、当たり前にあった日常。
変わり映えのしない毎日…。だけど…平和で、明日の死に怯えることなんか、なくて。
家族や、友達…残してきた人たちがいて…。





「…ナマエ」

「!…クラウド…」





呼ばれて、はっとした。

顔を上げて映ったクラウドの顔。

…ここに来る前からよく知っていた、クラウド。
よく知っていて、大好きだった。

…大好きなゲームの、キャラクター。

だけど…今は、そうじゃなくて…。
こんなに傍にいて、呼べば声が届いて、手を伸ばせば触れられて…。

触れてもらえる手が…呼ばれる名前が…とても、幸せで。





《…ナマエ…》

《誰、か…。誰か…、助け…て…くれ》

《ナマエ!逃げて!!》





その時、頭の中で…何かが重なりかけた。





「え…」





…あの声の人は…誰?

その人は…いったいどこにいるんだろう。
…どんな人なんだろう。

…違う、あたし…知ってる気がする。

その人の事…凄く。
その声、とても…聞きなれてるような…。





「…クラウド…?」

「え…?」





線が、繋がりかける。

でも…確証がない。
それに…それを言って、クラウドは何を思うかな…?





「…もっとも、他にも条件はあるのかもしれんがのう。元の世界なら尚のこと、お主を知る者も多いじゃろうて。つまり、求める者も必然と」

「え、あ…そう、ですよね」





ブーゲンハーゲンさんに言われ、考える。

波長とか…よくわからないけど、血縁者とかだとなんとなくそういうの合致しそう?

別にそんなことないのかな?
こっちの世界に来てかなり時間は経ってるし…。

あたしが会いたいなと思う相手は…向こうもそう思ってくれているだろうか。





「おお!そうじゃ、確か遠い昔になにか古い文献で見た気がするのう…。まるで夢物語、そう思うて娯楽程度に呼んでいただけじゃったが…今思えば、状況が似ているような話が合った気がするな」

「え…!」





その時、ブーゲンハーゲンさんの記憶に何か引っかかるものがあったらしい。

古い文献…。夢物語…。
確かに、今起こっていることはまるで夢物語だ。

あたしは胸の高鳴りを感じながら、ブーゲンハーゲンさんに問いかける。





「それって言うのは…」

「…はて、どうじゃったかのう…。確か、導かれるのと同時に望むんじゃよ。次元を超える本人が」

「え…本人…?あたし自身が…ですか?」





その世界の人とは別に…本人が、願う。

この世界…FF7の世界。
…ここは、大好きな物語の世界だ。

だから…なんとなく憧れみたいなのはあったけど…。

初めてこの世界に来た日…来た瞬間、あたしは…何を考えていたのかな。





「して、同時に超える本人が手にするのじゃ」

「手にする…?」

「…何をだ?」

「それは…」





ふたつの望みと、同時に触れるもの。
一体何を手にしていれば。

あたしとクラウドは思わず食い気味に聞いてしまう。

言葉を待つ時間。
それが何だか長く感じる。

そして、ブーゲンハーゲンさんは口を開いた。





「それは、忘れたわい」





がくっ…。
なんだか古典的。

でも本当そんな感じで。
あたしもクラウドもずっこけるみたく肩を落とした。





「あ、あはは…忘れちゃったんですか…」

「そこまで言っておいてそれは無いだろ…」

「言ったじゃろ。昔に読んだ文献じゃ。それも夢物語程度にしか思っとらんような。そう細部まで覚えとらんわい」

「あはは…まあ、そうですよね。でも、まったくの手掛かりなしに比べればかなり進展した感じです」





なんだか脱力した。
でも、同時にちょっと何かを掴めたような手ごたえがあったのは確かだった。

誰かに望んでもらうこと。
あたし自身も望むこと。

そして…鍵になる物、か。





「…ナマエ、大丈夫か?」

「あ…うん。ごめん、色々考えちゃった。そろそろ行こっか。皆、待ってるよね」

「え…あ、ああ」

「ブーゲンハーゲンさんも、貴重なお話ありがとうございました」

「いや、肝心な部分が抜けてすまなかったのう」

「とんでもない。伺うことが出来て良かったです」

「…この老いぼれ、少しでも役に立てたなら何よりじゃよ」





クラウドに笑みを向けて、ブーゲンハーゲンさんに頭を下げた。

ひとまず、確実ではないけど…何か掴めた。

正直、まだ…気持ちの整理はついてない…。
それは、そのままにして、今は…置いていおいた。

だってこの旅で…やりたいことが、やっとはっきりしたのだから。

今は…この気持ちと、向き合っていたい。
やっと…自分がこの世界で、皆の為に出来ることがしたいと…そう思ったばかりなのだから。

だけど少しずつ、考えていかなきゃな…とは、思った。



To be continued


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