「シドさんのロケット村に神羅が集まってきますわ。はぁ…秘密漏らすんて何や快感なってきましたわ」
ロケット村へと飛ぶ、ハイウインド。
クラウドの活躍で、見事ヒュージマテリアを積む潜水艦を落したあたしたちは、直後にヒュージマテリアを搬出するためジュノンのエアポートに帰航しろという通信を聞いた。
恐らく、一番最初に神羅が回収したというニブルヘイムのヒュージマテリアだろう。
神羅はそのヒュージマテリアをロケットに積んでメテオにぶつけようとしている。
ならば、撃沈され回収に手間取るヒュージマテリアより、ロケット村のヒュージマテリアのほうが一刻を争う。
その呟きは、そんなハイウインドの中でケット・シーの漏らした小さな小さなものだった。
「ふふ、すっかり逆スパイとして機能しちゃってるね。ケット・シー」
「せやなあ…、まあボクも、ガハハとキャハハは好いてへんから…」
あたしはそんなケット・シーの呟きを聞いた。
ケット・シーは小さく苦笑う。
実際、もうこの時点で彼の心はかなりこちら寄りに傾いているのだろうな…と、ゲームをしているときから思うところがあった。
「…時に、ナマエさん。ボク、あんさんにずぅっと聞きたい事があったんですけど」
「うん?」
ケット・シーはちょいちょいとあたしに手招きする。
その仕草にあたしが顔を上げると、彼は口元に手を当て、そっと耳打ちして来た。
「…もしかして、ナマエさん…ボクの正体知ってるんとちゃいますか?」
ああ…なるほどなあ…。
それを聞いて、そう思った。
デブモーグリの上から、じっとこちらを見る王冠を被った黒猫。
あたしは彼を見上げ、ひとつコク…と頷いた。
「…うん、そうだね。知ってる」
「…やっぱり、そうなんやなあ…。なんか、ずっとそんな気持ちがしてたんです。キーストーンの一件でも、あんさんだけはボクへの視線の向け方がなんや違う気ぃしてて。それで、こないだの告白を聞いてもしや…と繋がったんですわ」
そういえば、クラウドとゴールドソーサーを回ったあの日…。
キーストーンを盗んだケット・シーは、あたしを見て「見透かされてるように感じる」と言っていた。
多分、あたしは彼の正体や立場…そういう色々なことを知っていたから、彼を疑ったり、そういう視線を向けることが無かったのだろう。
「あ、でも皆に言ったりとかはしないから心配しないで」
「…そやなあ。今はまだ、そうして貰えると助かります。いつかは、言わなあかんのやろなあ…と思うてますけどね」
「…そっか」
あたしは、きっと…皆の、自分の中にだけしまっておきたい気持ちも…そういうものも知ってしまっている。
そういう事に関しては、絶対に口にしないと決めていた。
…当たり前のこと、なんだろうけどね。
ただ、気をつけなきゃなと…強く心に留めておこうって。
「けど、秘密事は息が詰まるもんやし、これからはナマエさんの前では少し生き抜きさせてもらいましょか」
「え?あ!うん。そうしてくれていいよ。あたしなんかで良ければ喜んで。ふふふ、…統括さん?」
「ちょいちょい!それ無しですわー!」
「ふふっ、何の…かは言ってないからセーフだよ」
「超ギリギリやないですか」
そう言いながら、お互いに笑った。
ああ、でも…そうだ。
もしかして…こうして捌け口になることが出来るのなら、それも悪くないのかも…なんて。
そんなことも…少し思う。
そうしてハイウインドは、ロケット村へと降り立った。
「……お前達か。……神羅の計画を邪魔する者は、排除する」
ロケット村では、既に神羅兵がロケットの警備に当たらされていた。
その中には、タークスのルードの姿もあった。
タークスを配置させる部分を見ると、神羅側も邪魔をさせまいとしているのが見受けられる。
だけど、それはこちらも同じ事。
「悪いがこちらも譲れない!」
「俺様のロケットを好き勝手してくれるたぁ良い度胸じゃねえか!」
クラウドとシドが、武器を構える。
あたしはいつもの通り後ろに下がってふたりに強化アイテムを投げた。
ロケット村に来たのはクラウドと、ロケットの事になれば顔色の変わるシドだ。
シドは、ロケットに関しては絶対に譲らない部分を持っている。
ふたりは一気にルードに攻め込み、彼を気絶させた。
「このクソッタレ野郎ども!俺様のロケットから出て行きやがれー!」
シドは早々にロケットの中に駆け込んでいった。
あたしとクラウドもその後を追う。
そして開いたコックピットにあった光景。
そこには、シドの部下であったエンジニア達が懸命に発射の準備に取り掛かっていた。
「おい!てめえら、何をしてるんだ!?」
「おお! 騒がしいと思ったら艇長、帰ってきたのか!?」
「聞いてくれよ、艇長。ロケットを飛ばせるんだぜ!」
シドの姿を目にしたエンジニア達は、興奮気味にシドに話しかけてくる。
その顔はキラキラとしていて、整備の手にもその意気込みを感じられる気がした。
「あん?一体、何の話だ?」
「このロケットに、マテリア爆弾を積んでメテオにぶつけて破壊しちまうんだ」
「俺達のロケットがこの星を救うんだぜ!」
「うう〜、興奮するぜ〜!!」
このロケットを飛ばすことが出来る。
その興奮を抑えることなく、生き生きとするエンジニア達。
だけど、クラウドにとってはそれは阻止しなくてはならない話。
当然、クラウドは話を割るように止めに入った。
「ちょっと待ってくれ!」
「うるせぇぞ!!お前は、黙ってろい!」
そんなクラウドの声を一喝したのはまさかのシドだった。
クラウドは唖然。
シドはすぐにエンジニア達に振り向き、一緒になって状況の確認を始めてしまう。
話を聞き入れてもらえる空気じゃなくなったクラウドはあたしに振り向き肩をすくめた。
「…どうするんだ、アレ」
「あ、あはは…シド、完全に目の色変わっちゃったね…」
シドの目は、もう完全にひとりのパイロットのものへと変わっていた。
シドにとってこのロケットは、それほどかけがえなく…大切なものだという事。
あたしは隅でそのシドの顔を見ながら、クラウドに話した。
「もう、ロケットの事しか見えてない。そんなふうにも見えるけど…でもきっとシドは、そんなに考え無しでもないと思うんだ」
「…え?」
シドの、宇宙への夢。
それはシエラさんから聞いた話でも存分に窺うことができた。
いつかの日から…遠ざかってしまったシドの夢。
だけど、シドはそんなにいい加減な人でもないと思う。
それを聞いて、クラウドがどう思ったのかはわからない。
あたしの言葉を聞き入れたのか、今のシドには何を言っても変わらないと判断したのか。
どうなのかはわからないけど、あたしとクラウドはシドたちの様子をじっと見ていた。
「ロケットの調子はどうなんだ?」
「大体OKだ。でも…ロケットをオートパイロット装置でメテオにぶつける計画なのに肝心の装置が壊れてるんだよ」
「壊れてる、だぁ?修理はどうなっている」
「シエラがやってるけど……」
「ケッ!おめでたい奴らだな!あの女に任せてた日にゃ100年経っても終わんねぇぜ! こいつは俺様が動かしてやるからオートパイロット装置なんて放っとけ!ホレ、ホレ!みんなに伝えてこい!」
「わかったよ、艇長。後は、よろしく頼んだよ」
いくつかの確認の末、シドにこの場を任せ、エンジニアの人たちはコックピットを出て行った。
途端に静かになるコックピット。
その空気を見計らい、クラウドがシドに尋ねた。
「おい、シド! どういうつもりだ!?マテリアの中には古代からの知識、知恵が封じ込まれているんだ。俺達はその力を借りてセフィロスの手からこの星を救う。ヒュージマテリアを失うわけにはいかないんだ。それは、わかっている筈だろ?」
「おお、わかってるぜ。マテリアが大切な物だってのも、お前さんの考えもよ!」
シドはやっと振り向く。
だけど、そこにはやはり…意見を曲げない、譲れないシドの思いがあった。
「でもな、聞けよ。俺様はよ、科学の力だろうが魔法の力だろうがそんなこたあ、どっちでもいいんだ。いや、俺様はどっちかってえと科学の力に賭けてみてえ。地ベタを這いずりまわってた人間が空を飛べるようになったんだぜ!そして、ついには宇宙まで行こうってんだ。科学は、人間が自らの手で生み出し、育て上げた『力』だ。その科学が、この星を救うかもしれねえ。科学のおかげで飯を食ってきた俺様にとってはよ、これほど素晴らしい事はねぇぜ!いつまでも神羅がどうのこうのこだわってるんじゃねえ!俺様はな、後からああ、やっとけば良かったなんて考えたくはねえんだよ」
シドの語る夢。
人が育て上げた、科学の力…。
後悔したくないという気持ちも、勿論わからなくはない。
だけど、クラウドもそこで引くわけにもいかず。
「しかし、シド…」
「黙れ!!しかしも、かかしもねぇ!!さあ、ここは俺様の仕事場だ!関係ねぇお前達はとっとと出て行きやがれ!」
シドは怒鳴った。
聞く耳を塞ぐように、あたしたちに出て行けと命じる。
だけど、その瞬間…ロケットが大きく揺れた。
「あっ…!」
「ナマエ!」
ぐらっと揺らついた足。
その瞬間、クラウドはあたしの体を引き寄せてくれた。
事態の掴めない状況から守るように、咄嗟に。
あたしもつい、そのままその厚意に甘えてクラウドの体を掴んでいた。
見上げれば、彼の顔がすぐ傍に映る。
「大丈夫か…?」
「うん。ありがと、クラウド」
「ああ」
心配してくれた彼にお礼を言う。
するとクラウドはホッとしたように微笑んでくれた。
そして、揺れの原因がなんなのか確かめるようにシドに目を戻す。
シドも揺れには驚いたようで、機械をいじりその原因をすぐさま調べていた。
『うひょっ!』
その時、スピーカーから聞こえてきた陽気な声。
一度聞いたら、なかなか忘れられない声だ。
もともと誰の仕業だか知っていたあたしでなくとも、その正体に気が付いただろう。
「パルマー!てめぇ、何しやがった!?」
『オートパイロット装置修理完了だってさ。だから打ち上げだよ〜ん』
シドの怒鳴りに飄々と答えるのはパルマー。
あの人、前にロケット村であった時、トラックに轢かれてたけど無事だったんだよなあ…とか。いや、実際はそんなこと考えてる状況じゃないんだろうけどね。
「くっ!シエラの奴、今日に限って早い仕事かよっ!クソッたれ!ビクともしねえ!完全にロックされちまってるぜ」
シドはあらやる操作を試みるものの、ロケットはうんともすんとも反応してくれない。
がん、とシドが壁に拳を叩きつける。
もう出来る事といえば、ロケットの発射をただ待つことのみ。
『うひょひょっ!もうすぐ発射だよ〜ん』
「ケッ!秒読みはどうした!? 気分が出ねえぞ!」
『うひょ〜〜〜!!!うひょうひょ!!!発射だぴょ〜〜ん!』
それを最後に、パルマーの声はぷつんと切れた。
そして、先ほどとは比べ物にならない揺れがロケット内に響き始める。
クラウドはまた、あたしを引き寄せぐっと抱きしめてくれた。
高いエレベーターに乗ったときより強い、ぐんっ…とした力が体に掛る。
ロケットはそのまま、唸りを上げて空の向こうへと飛び込んでいった。
「遂に来たぜ…宇宙によ」
揺れが収まってきた頃。
シドが感慨深そうな声で呟いた。
宇宙…。
まさか自分が宇宙に来る日が来るなんて…あたしも思わなかったけど。
しかも、異世界の宇宙になんてね。
「おい…どうにかならないのか?」
「ケッ、パルマーの奴、ご丁寧にもオートパイロット装置をロックしてやがる。こいつの航路は、変えられそうもねぇな」
シドがパネルを操作すると、画面にロケットの航路が映し出された。
一直線にメテオを目指す、そんなルート。
それを聞いたクラウドは顔を歪め、辛そうにあたしに振り向いた。
「…すまない、ナマエ。まさか…こんな事になるなんて」
「え?」
あたしに向かい、申し訳無さそうな顔をするクラウド。
そ、そっか。
クラウドはもう出来ることが無いと思ってるから…。
その顔を見たあたしは慌ててぶんぶんと首を振った。
「あ、ま、待って!クラウド!諦めるの、まだ早いよ!」
「え?」
「ね、シド!」
あたしはきょとんとするクラウドを前に、シドに話を振った。
声を掛けられたシドは振り向き、あたしの顔を見ると「へっ」と言いながら頭を掻いた。
「お前、そりゃお見通しってわけか?とんでもねーもんだな。しかし、クラウド。てめえは若いってによぉ、簡単に諦めすぎじゃねえのか?俺様はよ、はなっからメテオなんかと心中するつもりはないぜ」
シドはそういいながら、先ほどまで見ていたのとは違うスイッチを一つ動かした。
「見てみな。こんな時のためにこいつには脱出ポッドが積んであるのさ。脱出ポッドのロックを解除したぜ。メテオとぶつかる前にとっとと、おさらばしようぜ」
シドはそういって、コックピットを出ようとした。
でも一度、その足をピタ…と止める。
そして、あたしに向き直り、じっとこちらを見てきた。
その顔は、真剣な面持ちだった。
「…おい、ナマエ。お前、俺様の今の気持ちもお見通しだったりすんのか?」
「………。」
お見通し…なのかは、正直なところよくわからない。
だけどきっと、なんとなくならわかるのだろう。
魔法より、科学の力を選んだシド。
…だけど、その想いは…本当は、もっともっと単純なものであるという事。
「…お見通しかなんて、わからないよ。あたしだって、想像するしか出来ない。ただ、わかるのは…シドにとって、このロケットが大切なんだろうなって事だけ…」
「…そうか」
シドは視線を逸らし、ふう…と息をついた。
きっと…シド自身、自分の気持ちがどういうものなのか…ちゃんとわかっていないいだろう。
ただ、そこには…不思議な満足感のようなものがあったのだと思う。
「マテリアが欲しいんだったら勝手に何とかしろい。マテリアなら、そっちの梯子を登っていった先にある筈だぜ」
シドは、クラウドにヒュージマテリアの安置されているであろう場所を教えた。
クラウドも先ほどのシドの気持ちがまったくわからないわけじゃないから、少しの気遣いを見せた。
「…いいのか?」
「わからねえ。さっきはあんな事言ったけどよ。俺様は、こいつと宇宙まで行きたかった。それだけなのかもしれねえ。だから、お前達もお前達が考えているように行動すればいいんじゃねぇか?」
それを聞いたクラウドは、あたしに目を向けてきた。
多分、どうなんだろうな…っていう、そんな感じ。
あたしは頷いた。
きっと…そこには正解など無いのだろう。
…あたしは、このロケットの結末が、どういう結果に終わるのかを知っている。
ヒュージマテリアが詰まれていようが無かろうが…。
結果だけ見れば、そういう話になってしまうけど…でも、きっとそういうことじゃないから。
何より、人の気持ちっていうのを…大事にしたいと思う。
クラウドはヒュージマテリアを取りにいくべく、奥にある梯子に手を掛けた。
あたしやシドもそれに続く。
「ヒュージマテリア……やっと見つけたぞ」
梯子の先にあった部屋で、やっと見つけたヒュージマテリア。
ヒュージマテリアはカプセルの中で厳重に保管されていた。
「このコンソールパネルからパスコードを入力すればロックが解除される仕組みになってるぜ。おいクラウド、こいつの使い方は知ってるだろうな。正しいパスコードを打ち込めばロックが外れてヒュージマテリアを回収出来るぜ」
「どういう順番で打ち込んでやればいいんだ?」
「知らねえ。適当に打ち込んでみればいいんじゃないか?」
シドの指示を聞き、クラウドは首を捻った。
パスコード。
どれが正解なのかなんて、クラウドにはわかるはずがない。
シドは記憶の奥のほうに引っ掛かりがありそうなものの、思い出すのは難しそうだ。
と…その時、ふたりはパッと同時にあたしに振り向いた。
「…う、ん?」
突然注目されたあたしはきょとんと自分の顔を指差した。
「…おい、ナマエ。お前、もしかしてよお」
「このパスコードも…知ってたりするのか?」
ああ、やっぱりそう言うことか…。
感じた視線にそうじゃないかと思ったけど、案の定…そういうことだったらしい。
そういえば、コレを一発で解けると「実は知ってたんじゃないのか?」ってシドに突っ込まれるんだっけ?
…って、この場合、まさにその通りになっちゃうんだけど。
「あ、あはは…開け、ようか?」
あたしは頬を掻きながら笑った。
なんか、自分が物凄いチートキャラに思えてきた。
ぶっちゃけた話をするのであれば、コードがゲームと同じならあたしは一発で開ける事が出来る。
だってFF7は本当に何度もやったし。
あたしはコンソールパネルに手を伸ばし、記憶の中にあるパスコードを入力してみた。
《パスコード確認。正規ユーザーと認め、ロックを解除する》
ぷしゅー…と聞こえた開く音。
…っていうか、おお…。本当に開いちゃった。
あたしはふたりの顔を見て、えへへと軽く笑った。
「え、えへへ、開きましたー…」
「…お前、マジか。すげえなお前、本物か。俺様、ちょっと感動したぞ」
「…いや、うん。もう嘘つかないって決めたからねえ」
妙に感心してるシド。
そしてそのままわしゃわしゃと頭を撫でられた。
するとそこに、くんっ…とクラウドから肩を引かれた。
「…シド」
「へっ、俺に妬くたぁ余裕ねえなあ。おら、じゃあとっとと回収しちまえ、メテオと衝突する前に脱出しちまうぞ」
シドはひらっと手を振り、先に部屋を出ていった。
クラウドはヒュージマテリアに手を伸ばし、それを回収する。
あたしは、そんなクラウドを待っていた。
「…余裕が無い、というか…ちょっと嫌だったって感じか」
「え?」
すると、ヒュージマテリアを抱えたクラウドが少し罰の悪そうに呟いた。
あたしが首を傾げると、クラウドは苦笑いした。
「いや…やっぱ余裕が無いって事か」
「………。」
ああ、どうしようか。
なんだかじわじわと胸に湧いてくる何ともいえない感情。
でも、これは決して嫌な感情ではない。
…嬉しいって言う感情だ。
「ふふっ」
「…ナマエ…?」
「ううん、嬉しいなって思って」
「嬉しい…か?」
「うん」
当然です、と頷く。
多分あたし、今結構笑顔だ。
「さ。ちゃっちゃと脱出しちゃおう、クラウド」
「あ、ああ」
このまま行ったら死んじゃうって言う、切羽詰った状況。
なのに結構暢気だろうか?
でも、まあ…嬉しいものは嬉しいので。
あたしは頬の緩みを感じながら、クラウドと共にシドを追いかけた。
「おら、こっちだぜ。チンタラしてんなよ?」
脱出ポットへ続く通路を、シドが先頭を切って案内してくれる。
シドが進んでいったのはボンベの並ぶ通路だった。
視点は違うけれど、見覚えのある場所。
でも、その景色を見たその時あたしはハッと思い出した。
そうだ、ここ…ぼんやりとしてていい場面じゃない…!
あたしは慌てて声を張り上げた。
「シド!待っ…!」
だけど、遅かった。
ドガン…!!!
大きく響いた爆音。
あたしが声を掛けようとした瞬間、突然ボンベが爆発を起こした。
「ぐっ…」
突然の爆発に、あたしとクラウドは咄嗟に目を閉じた。
その時、耳に聞こえたうめき声。
爆発が収まり、ゆっくり瞼を開けると、そこには爆発で壊れたボンベの破片に足が下敷きになっているシドの姿があった。
「シド!」
「シド…!」
クラウドとあたしは慌てて駆け寄り、破片をどかそうと力を込めた。
でも、ゲームと同じようになかなか動いてはくれない。
そんなものに足を挟まれてしまったシドの苦痛は相当だろう。
あたしは、自分の不甲斐無さに息苦しさを覚えた。
「ご、ごめんねシド…!あたし、こうなるの知ってたのに…!」
「馬鹿…!んなことで謝んじゃねえよ、お前のせいじゃねえ…。んなことより、俺様に構うな。早く行け! 急がないと、ロケットがメテオにぶつかっちまうぜ」
自分を置いていけとシドは言う。
でも、それを聞いたクラウドは手の力を緩めることなく首を振った。
「……仲間を見捨てて行ける訳がない」
「この、馬鹿野郎…!人の事を心配している場合じゃねぇだろうが!お前、ナマエが死んでもいいのか!?」
「いいわけがない。けど、それを言うならこれが一番ナマエのためだ。ナマエは俺たちの未来を望んでる。俺はそれに出来る限り力になると約束したんだ。だから、諦めたりなんかしない。やるだけは、やってみるさ」
「……クラウド」
クラウドはまっすぐ、揺るぎなくそう言った。
クラウド…こんなにも、考えてくれてるんだ。
あたしの望むものを、懸命に叶えようとしてくれている。
あまりに真っ直ぐクラウドが言い切るから、シドも言葉をなくしたみたいだった。
「…お前ら馬鹿だぜ、本当の馬鹿だ…」
シドはそう言ってガクッと壁に寄り掛かった。
そしてぼんやりと自分の足にあるボンベのナンバーを見つめる。
シドはそれを見て自分をあざ笑うかのように呟いた。
「爆発したのは、8番ボンベ…。8番ボンベねえ…、やっぱりイカレてやがったのか…。シエラ……確かにお前が正しかったぜ。でもよ……俺様もこれで終わりだぁ」
シドが珍しく、弱音を吐いた。
きっと…これが初めてのようにも感じる。
でも、まだ当然終わりじゃない。
このロケットには、まだひとり乗っている人がいるはず。
「何言ってるのよ、シド」
そして、聞こえた声。
奥の扉が開き、静かに歩いてくるひとりの女性。
その姿を見たシドは驚きに目を見開いた。
「あん!?シエラ?!」
「ついて来ちゃった」
そう言って白衣をまとった肩をすくめたのはシエラさん。
シエラさんは今の状況を察し、「今助けるから」とすぐにあたしたちに力を貸してくれた。
「馬鹿野郎のコンコンちき!!」
手伝ってくれるシエラさんに、相変わらずの言葉を投げかけるシド。
でも、ひたむきに自分を救おうとするその姿を見たシドは、ゆっくりと目を伏せて…。
「…すまねえ」
とても小さな声で呟いた。
「脱出ポッドはこちらです。急いで下さい」
シドを助け出すことに成功すると、シエラさんはあたしたちを脱出ポットまで案内してくれた。
「ナマエ、気をつけろ」
「うん、ありがと、クラウド」
脱出ポットへの入り口は、少し段差っぽくなっていた。
クラウドは先に乗り込み、手を差し出してくれた。
あたしはその手を掴み、クラウドの隣に腰を下ろした。
一方で、あたしとクラウドの向かいに乗り込んだシドは脱出ポットをまじまじと眺めてた。
「おい、シエラ!このヘッポコポッドは動くのか?」
「大丈夫。ついさっきまで私がチェックしていたから」
シエラさんは、しっかりと答える。
もともと、シエラさんの腕はいいはずだ。
シドもきっとそこは認めていたはず。
ただ、ちょっとせっかちなだけで。
「…………それなら安心だぜ」
「……ありがとう」
凄く、静かな言葉。
でもきっと、シドにとってもシエラさんにとっても、この瞬間は特別なものだろう。
ともかく…これで、ヒュージマテリアについてのミッションは全部終了だ。
この件については全て成功。
あたしの知ってる物語の最高の結果。
宇宙を漂いながら…あたしは少し、ホッとした感覚を覚えてた。
To be continued