「わあ、綺麗」
水中トンネル。
海の中を眺めることの出来る、神秘的な場所。
そこは、ジュノンと海底魔晄炉を繋ぐ通り道に当たる。
「ナマエ、こういうの好きなのか?」
「うん。好きだよ。綺麗だよね」
声を掛けてくれたクラウドに振り向き、あたしは笑って頷いた。
ここの水中トンネルは、結構ゲームでも印象的。
一度しか用の無い場所だけど、海の中を歩くってなんだか面白いでしょう。
あたしが頷いたのを見ると、クラウドは「そうか」と言って微笑んだ。
クラウドは最近、よく笑ってくれる。
そして、あたしはそれを見られるのが嬉しいと感じている。
素直に、気持ちがはっきりしているのは…こんなにも心が楽なものかと思った。
「ねえ、ナマエ。さっきユフィにユフィは此処に来ないほうがいいかもって言ってたよね?あれ、どうしてなの?」
「ああ、それはね」
今現在、あたしたちは海底魔晄炉にヒュージマテリアの探索に訪れている。
メンバーはクラウド、ティファ、ナナキ、そしてあたしだ。
あたしは、少しでも自分に出来ることをしたいと積極的に行動を起こしたいと考えていた。
クラウドにダガーの使い方を習ったり、前以上にアイテムの知識も得ようと動いた。
そして、その努力は決して苦には思わなかった。むしろ楽しいとさえ感じていた。
「んー、まあユフィのためだよ。あたしの記憶のままなら、多分ユフィはここに来たら地獄を見ちゃうからね」
「地獄?ユフィの身に何か起こるの?」
「うーん、まあ…ユフィにとってはね。でもあんまり詳しく言うとクラウドが渋っちゃうかもしれないから」
「え?クラウド?」
ティファと話していたのは、此処に来る前のハイウインドでの会話のこと。
あたしはユフィに海底魔晄炉には来ないほうがいいと教えてあげた。
理由は言わずもがな…あの潜水艦のことなんだけど。
潜水艦を目の前にすれば、ユフィは確実に顔を青くするだろう。
でも…実際、顔を青くさせるのはユフィだけではない。
「な、なんだ?俺が渋る理由って…」
突然、自分の名前が出てきたクラウドは少し焦りを見せる。
あたしはそんな彼の反応に笑った。
いや…だって、これは言ったら道中のクラウドのテンションが後ろ向きになっちゃうかもしれない。
「ふふ、まあ、そのうちわかるよ。今は知らないほうがきっと幸せでいられるよ?」
「そんな言い方されると余計に気になるんだが…」
「あはは!」
心配そうな表情を浮かべるクラウドに、あたしはまた笑う。
まあ実際は言ったところでクラウドは進むんだろうけど。
でも、やっぱり黙っておこうと思うのはちょっとした悪戯心だろうか?
「あはは、意地悪だねえ、ナマエ」
「ふふふ。大丈夫、今ここにいるメンバーだと地獄なのはクラウドだけだからね」
「そっかー。じゃあオイラは平気だねー」
「…おい」
あははーとナナキと笑えば、クラウドは一層表情に不安を曇らせた。
なんだか少し可哀想になってきたかな。
事実、この後は更にクラウドにとっては可哀想なことが待っているだろうし。
少しはちゃんとした役立つ情報も提供するべきだろう。
「ねえ、クラウド。今のマテリア、どうなってる?」
「え、マテリア?そうだな…今はこんな感じだが」
クラウドは自分の腕にはめたバングルを差し出し見せてくれた。
それを見ながら、記憶を探る。
確か海底魔晄炉の強敵はキャリーアーマー。
相手は機械なのだから、となれば有効となる攻撃は雷。
「じゃあね、雷のマテリアつけたほうがいいよ。ティファとナナキもね」
「雷?弱点の敵でも居るのか?」
「うん。あたしの記憶が確かならね」
少しでも、彼等が先に進める可能性を。
そのためならもう何も惜しまない。
あたしの意見を聞き入れたクラウドは、マテリアの装備を今一度確認し始めた。
あたしもこうしたらどうかな、とゲームをしていた上で考えた自分の工夫を提案した。
マテリアの装備って、工夫次第で色々出来るから結構面白いと思う。
あたしは使えないけど、ゲームをしてたとき、このシステムは大好きだったから。
今もこうやって戦術を考えることに面白みを感じてた。
「なるほどな。いいな、この組み合わせ」
「ね。結構良い感じだよね」
「そうだ、なあ、ナマエ。これからもこうやってマテリアの確認も手伝って貰って良いか?」
「うん!喜んで」
役に立てている。
自分の知識を、存分に使える。
皆に、クラウドに頼りにして貰える。
その実感が、とても嬉しかった。
「!?、ヒュージマテリアが!」
そうして奥に進んでいくと、魔晄炉内部にて、ちょうどアームがヒュージマテリアを取り出している現場に遭遇した。
それを見たクラウドが焦りの声を上げる。
ヒュージマテリア。
確かに、此処でただ呆然と立ち尽くしていれば、それは神羅に奪われ終わってしまうだろう。
だけど、まだまだ全然終わりじゃない。
「大丈夫!急げばまだ間に合うよ!」
「ああ、そうだな!行くぞ」
走り出す。
動いていくアームを追って。
アームの行く先は潜水艦だ。
神羅はその潜水艦でヒュージマテリアを運び出す計画を立てている。
そして、その指揮をしていたのはタークスのあの彼。
「何してる、と。お前も積み込みを……」
スーツと長い赤髪。
背後の気配を感じたであろう彼は、兵士と勘違いしたのかあたしたちに指示を出そうとしてくる。
だけど、振り向いてその先にいたのが兵士じゃないと気がつき、彼…レノは目を見開いた。
「クラウド!?」
「俺達に渡すか、ルーファウスに届けるか……どうする?」
クラウドは剣に手を伸ばし、レノに凄み掛ける。
それを見たレノは罰の悪そうな表情を浮かべて一歩後ろに下がった。
だけどそれは決しておののきから来ているものではない。
今の彼の任務は、あたしたちの足止めではなくヒュージマテリアを運ぶ事なのだ。
「あいにく、貴様らと遊んでいる暇はない、と。今はヒュージマテリアが最優先だ、と!」
レノは背を向け、駆けて行った。
その代わりにあたし達の目の前に立ちはだかるのは、ふたつの大きなアームを携えたロボット。
先ほど記憶を辿った通りの敵…キャリーアーマーだ。
「…なるほど。コイツか」
「うん、こいつだね」
目の前にした敵に、クラウドは納得を見せた。
恐らく先ほどのあたしの言葉を思い出してくれているのだろう。
だからあたしはうん、とひとつ頷いた。
「わ〜、凄いね!ナマエ、本当に未来わかるんだ!」
「ええ、本当!凄いじゃない」
「あはは、お褒めに預かり光栄…かな?」
各々、ナナキやティファも戦闘の構えを取りながらあたしの記憶に感心を見せる。
なんか、こして予言みたいな事をしてみると、やっぱり改めて実感というものが湧くのかもしれない。
「ナマエ、援護を頼む!」
「うん!皆、そいつのアーム、捕まっちゃうから要注意だよ!」
あたしは後ろに下がりながら、皆に注意を呼びかけた。
でも、流石に直前に有利なマテリアを組んだだけあって、相手の弱点を上手く突き、皆は素早く急所をついてロボットを沈めてくれた。
だけど、戦闘が終わって一息ついていられないのが現状。
「しまった…!潜水艦が!」
クラウドがマズイと表情を固くする。
戦闘は早々にけりをつけたものの、その間にヒュージマテリアを乗せた潜水艦は動き出してしまっていた。
「早く追わないと!」
「ああ!あっちの潜水艦に乗るぞ!」
ティファの呼びかけに、クラウドは近くにあった赤い潜水艦を指差し走り出した。
さあ、ここからがクラウドにとっての地獄の始まり…なのだけど。
赤い潜水艦に素早く乗り込み、中にいた神羅兵を軽くのして主導権を手にする。
そこでクラウドも気が付いた。
「…ナマエ、…地獄って、コレか」
「ははは…だけど、どのみちクラウドは行くって言うかな〜って」
「…まあ、それは…そうなんだけどな」
心なしか、クラウドの声には元気が無い。
いや、心なしかじゃなくて確実に元気が無い。
クラウドは「う…っ」と軽く呻きながら口を押さえた。
「だ、大丈夫?クラウド…」
「すまない…限界なんだ…。この狭さ、揺れ、エンジン音…」
顔がみるみる青くなるクラウド。
明らかに具合が悪そうなその顔に、ちょっと心配になってきた。
ユフィとクラウドにとっての地獄。
ふたりの共通点は、乗り物に弱い…酔いやすい体質であるという事だ。
それは知ってたけど…なんか、様子を見てると想像以上に弱そうで…。
一方で、ティファやナナキはどうすれば動かせるのかと沢山のスイッチを見て困惑しているようだった。
「どうしよう…。潜水艦奪っても、動かせない」
「オイラの足じゃ動かせないよう…」
正直、ゲームのときは何とも思わなかったけど、今実際に目の前にあるこのスイッチの多さにはあたしも「うわ…」と思った。
これは…下手に触りたくないな、と言うか。
だからこそ、こんなのを具合の悪そなクラウドに丸投げして良いものなのか…と。
「…クラウド、何かに集中してたほうが酔わないかもしれないけど…」
恐る恐る、聞いてみる。
集中してたほうが酔わない…その方がクラウドにとって楽なのか。
それとも、もしかしたら…ゆっくり休ませてあげたほうがいいのか…。
…ゲームでは一応出来たそれだけど、あたしに操縦、出来るのか…とか。
でも、魚雷とか撃つんだよね…。
クラウドに尋ねながら、同時にそんなことも考える。
すると、クラウドが少し気だるそうにゆっくりと顔を上げた。
「…そうだな。 動かしてる方が気が紛れる」
「…大丈夫…?」
「ああ、心配してくれてありがとう、ナマエ。ここは任せてくれ」
クラウドは壁に手をつきながら、立ち上がる。
そして、あたしの肩を一度ポン…と叩くと、操縦席に腰を下ろした。
「…このスイッチか…?」
ざっと操作説明を耳に入れたクラウドは、発進のためのそれらしいスイッチに触れる。
その瞬間、艦体が動き出した揺れをその身に感じた。
「あっ、クラウド、動いたよ!」
「ああ、よし、行くぞ!」
動き出す潜水艦に、ナナキが嬉しそうな声を上げる。
でも…これが成功しなければ、シュージマテリアをひとつ逃す事になる。
だけどそこは…クラウドを信じていよう。
「クラウド、頑張って」
あたしは操縦するクラウドの横顔を見つめると、一言そう声を掛ける。
「ああ。酔ってる姿なんかより、いいところ見せなきゃな」
するとクラウドはこく、と頷いてそんな風に笑った。
To be continued