Grip | ナノ



クラウドに、本当の自分をすべて吐き出した。

自分の正体。異世界のこと。
物語の記憶のこと。

…そして、鍵を掛けて閉ざそうとした…本当の想いも。

クラウドはすべて受け止めてくれた。
何もかも…優しい顔で。





「…ティファ」

「ナマエ…」





そして…。
それからはまず、あたしはティファに話をしに行った。

ティファにはライフストリームの中で、少しだけ自分をさらけ出した。

その時…彼女は戸惑っていた。
だけど、優しく手を握ってくれた。





「ティファ…あの、ライフストリームの中で…ちょっと話したこと…なんだけど」

「…聞かせてくれるのね。うん、聞かせて。ずっと気になってた」

「…うん。でも、気分が良い話じゃ、無いかもしれないから…」

「それでもいいわ。私が聞きたいって言ったんだもん」

「…わかった」





なんだか…クラウドと同じ様なことを言ってくれた。

流石は幼馴染み…?
いや、あまり関係ないかな。

クラウドは一緒についてきてくれて、部屋の隅に寄りかかって静かに様子を見ていてくれた。

ティファの反応は…やっぱり困惑してた。
そりゃそうだろう。それが当然の反応だった。

だけど…それでも彼女も、優しい顔をした。





「そっか。物語か。確かに、ちょっとビックリ。でも…もしも私もナマエの立場だったら、きっと…いっぱいいっぱい悩んだと思う。ひとりで色々考えて、何かを内緒にして…なにをどうするのが正解かわからなくて。そういうのって…結構どうしたらいいかわからなくなるよね」

「…ティファ…」





その気持ちはわかる。
彼女はまるで、そう言っていたみたいだった。

ティファは…自分の記憶とクラウドの記憶の違いを、ずっと黙っていた。
もしそれを告げたら…どうなってしまうのか、わからなかったから。

ああ…そう考えると少しだけ、どこか似ていたのかもしれない…なんて思った。





「それで…クラウドもナマエのこと、信じたのね」

「…ああ」





そして、ティファは部屋の隅にいたクラウドに声を掛けた。
クラウドは頷き、それを見たティファは目を細めた。





「…大切なのね」

「ああ」





また、クラウドは頷いた。
あたしは彼に振り向き、その目を見てそれを聞いていた。

彼は、あたしを大切だと言う。
夢ではなく、現実に。

…本当、酷く物好きな話だ。





「…そう」





ティファは静かに呟いた。

…エアリスは、クラウドが好きだと言った。
そして…ティファは、彼女とは…直接そう言う話をした事は無いけど、彼女も恐らく…。

ティファの中では、あの給水塔での約束を境に…クラウドの存在が少しずつ大きくなっていっていたはずだから。





「…うん、そっか」





だけど、それを聞いたティファは目を閉じる。
そしてふわっと…まるでホッとしたかのように柔らかく微笑んだ。





「なんだか…不思議。今、凄く気持ちが穏かなの…」

「…ティファ」





ティファは瞼を開くと、あたしと目を合わせた。
…きっと、自分のこの淡い気持ちも…貴女は知ってるのね…と、そう言われた気がする。

クラウドは…よく、わからなそうな顔をしていたけれど。

でも…それなのに、彼女は微笑んでいた。





「自分でもちょっと、ビックリしてる。私、こんなにあっさりと受け入れられるんだって。…多分、今、私…ナマエのこと知れて、ちょっと理解出来た気がして…それが、何より…一番嬉しいんだと思う」

「えっ…?」





彼女は言う。
何より嬉しいのが…あたしのを知れたこと…?

目を丸くしたあたしに、彼女はへらっと笑ってくれた。





「本当に…今はそれがなにより嬉しいの。ほかの、何よりも…。それがきっと、私の本当の気持ちなのね。…面と向かって言うのは恥ずかしいけどね」

「…ティファ…」

「…今まで、いっぱい…私たちのこと考えてくれてありがとう。だから、クラウド。ナマエのこと…ちゃんと守ってね」

「…ああ、俺がナマエにしてやれることは何でもするつもりだ」

「…ふふっ、べた惚れね」





言い切ったクラウドに、ティファはくすくす笑った。

なんだか気恥ずかしい話をしている。
でも…嬉しかった。

自分の事を…思ってくれる人のあたたかさというものを知れたから。

だけど…クラウドとティファに話して、それで終わりと言うわけではない。
あたしにはまだ…自分のこの秘密を、話さねばならない人たちがいる。

…正直、事が事だし…受け入れて貰えるかは、まだわからない。





「やっぱり…ちょっと、怖いね。みんなはどう思うのかなって思うと…」





ひとまず、皆に話すのは一夜明けて落ち着いてからということにした。
そもそも…あたしが目を覚ました時間がもう結構良い時間だったから…。

それまでの間、あたしは少し…クラウドに不安を零した。

クラウドに相談出来る。
話す事が出来る…聞いてもらえる。

その事実は、なんだかとても嬉しかった。

ただ…それに浸ってはいられないくらい、不安も大きかったけど…。





「まあ…こればかりは話してみないとな…。でも、きっと大丈夫さ」

「…そう、かな」

「不安か?」

「…だね」

「…そうか。でも、言っただろ?誰がなんと言おうと、俺はナマエの味方だよ」

「クラウド…」





彼は優しく微笑む。
だけどすぐ、小さく眉を下げた。





「…やっぱり俺じゃ心許ないか?」





自信なさげに、彼はそう付け加える。

でも…それは全然頼りないなんて事はなくて…。
だからあたしは首を横に振った。





「…ううん、すっごく心強い」





あたしがそう笑みを見せれば、クラウドも少し安心したような顔を見せた。
そして、彼もまた同じように不安を零す。





「…それに、皆にどう思われるのか気が気じゃないのは俺も同じだ。黒マテリアをセフィロスに渡したのは俺だからな。メテオは俺のせいで落ちてくるんだから」





皆の告白を控えているのは、あたしだけでなくクラウドも同じだった。

そうだ。
復帰後のクラウドは…まず皆に自分と言う存在の事実を話していた。

でも…その点については、あたしはあまり不安を抱いていない。
だって…皆はクラウドの事を優しく迎え入れていたから。





「…クラウドは、そんなに心配することも無いと思うけどな」

「…それ、物語の記憶か?」

「あはは…バレた」

「ふっ…そうか。皆は懐が大きいんだな。でも、ナマエの知ってるのがひとつの可能性に過ぎないのなら…絶対じゃないかもしれないだろ?」






彼は、軽くそんなことを言う。
こんなふうに冗談にしてくれるのが…なんとなく有り難い。

だからあたしも、同じような軽い笑みを返す。
そして…また、同じ言葉を彼に渡した。





「…そうしたら、あたしがクラウド味方でいるよ。…頼りないかもしれませんが」

「十分すぎるな」






そんなやり取りをして、お互いに穏かに笑った。

なんだか…クラウドとこんな風に気兼ねなく話すのは久々な気がした。
前はよく、こんなやり取りを沢山していたのに。

クラウドと話している時間は、何も難しいことは考えず…穏かに流れていく。

それは凄く…心地良い時間だった。







「皆…すまなかった。何て言ったらいいのか……」

「もういいよ、クラウド。謝ってばかりだからね」





そして…一夜は明け、次の日に全員がハイウインドのオペレーションルームに集まった。

己の弱さを語り、頭を下げたクラウド。
謝罪ばかりを口にする彼に、ナナキが気遣いの声を掛けた。

クラウドは自分の身に降りかかったことを全て皆に告げた。

自分はソルジャーにはなれなかった。
宝条の実験により、ソルジャーと変わらぬ肉体を持っているけれど…その際埋め込まれたジェノバの細胞により自分を見失い幻想を生きていた事。

そして…その幻想を破り、抱いた強い意志を。





「もう幻想は要らない……。俺は俺の現実を生きる」





強い目をして、彼は前を向く。
そんな彼の声に、皆はその背を押すように頷いた。

ほら…やっぱりでしょう?

だって…その目は自然と応援したくなるような、そんな強さを感じたから。

そして、事の話題はあたしへと移る。





「…んで、ナマエの方だが…随分ぶっ飛んだ話じゃねえか。異世界に、物語ときたか」





そう言って話の切り口を作ったのはシドだった。

皆の視線があたしに集まる。

正直、少し緊張した。
だけど話すと決めたのは自分だ。

そして…クラウドと目が合う。
その顔に安心を感じる。

あたしは意を決し、これから自分のしたいことを皆に話した。





「…うん、そう。あたしは…この世界の人間じゃない。それで…皆の未来を知ってた。ううん…本当は、過去だって…。それでいて、沢山…見てみぬふりをした。ごめんなさい…本当に」





頭を下げた。
もう、何度も…何度も。





「んー、クラウドだけじゃなくてナマエも謝ってばっかだね」





すると、その仕草をナナキに突っ込まれた。

…ナナキは、笑ってた。

でも、正直なところ…いくら謝っても足りないような気がしてた。
だけど、だからこそ…ここから挽回だ。





「うん。だからね、これからは全力で動きたい。過ぎてしまった事実に、少しでも報いたい。…あたしは確かに未来を知ってる。だけどね…ちょっと整理して考えてみたんだけど、きっとそれは多分…色んな可能性の中のいくつかを知っているに過ぎない。だからあたしは、この知識を使って、最善を尽くしたい。あたしの知ってる最高の未来に…ううん、出来たら、それ以上に出来たらって思ってる」





顔を上げる。
不安はある…でも、せめて俯かないように。

そんなんじゃ、気持ちなんて伝わらないと思ったから。





「いくつかの可能性?いくつもあるんですか?まあ、ボクは未来がわかるって言われてもあまりピンとこーへんけど」





首を傾げてくれたのはケット・シーだった。

そして皆も、変わらずにあたしに視線を集めている。

…ちゃんと、聞こうとしてくれている。
だからあたしは、しっかりと頷いた。





「うん。その物語には、色々分岐点があるの。そう…例えば、此処にいる誰かがいない未来…あと、そうだね…わかりやすく言えばヒュージマテリアも入手に失敗する未来もある。途中で…旅が終わってしまう未来だって…。そして…きっと、あたしが知らないようにも…行動次第ではきっと動く」





そう…色々考えて、整理して思った。

あのゲームは…様々な分岐がある。

ユフィやヴィンセントが仲間にならなかったかもしれない。
必ずしも…やらなくても構わない事…任意のイベントは、数え切れないほどあるだろう。

きっと…沢山の可能性がある。

そして…あたしがいる時点で既に…、あたしの知っている物語ではない。
それはたかが知れた変化かもしれないけど…でも、違いは違いだ。

だから…きっと、未来はどうとでも変化する。





「ん?なんだ?て、ことはよ、別に ナマエが未来を知ってようが別になんも関係ねえんじゃねえのか?」




理解に苦しむように眉間にしわを寄せるバレット。





「うん。もしかしたら…そうかもしれないね。でも、知っている通りに進むときもあるかもしれない。今までの流れを見てると…ね。だからそういうとき、出来るだけ皆がより良い道を進めるようにしていきたいの」





今の状況を見る限り、物語はあたしの知るものに近い形で進んでいる。
クラウドが離脱中、皆はヒュージマテリアの入手に奮闘していた。

そして、クラウド復帰後もそれは続く。

話によれば、次は海底魔晄炉だと言うし…。
動きはやはり…あたしの知るものに凄く近い。





「今まで沢山嘘付いて、本当にごめんなさい。それでもあたしは…皆のこと、仲間だって思ってた。だから…あたしを、まだ皆の仲間でいさせてもらえませんか?」





まだ、皆と一緒にいたい。
力になりたい。

…そういう懇願だ。

心臓が、痛いくらいにドキドキしてた。
不安で潰れそうで、苦しくて。

でも…その願いに…皆は、笑ってくれた。





「当たり前だよ!オイラ、前にゴールドソーサーでナマエが励ましてくれて嬉しかったんだよ!オイラ、ナマエがオイラのこと考えてくれてるってわかった気がしたから!」

「…ナナキ」

「べっつにさ、そんな難しーく考えることないじゃん?正直あたし、よくわかんない部分も多いし。気楽にいこーよ!気楽にさ!」

「ユフィ…」

「せやな!考えすぎてもいいことあらへんで!」

「…そうだな。もう、あまり気にするとこは無い」

「おう。そこのクラウドさんも心機一転図るみてーだしよ、お前もそうすればいいぜ」





上から、ナナキ、ユフィ、ケット・シー、ヴィンセント、バレット。

次々と掛けられる音葉。
皆、責めることなく受け入れてくれる。

そして、最後にシドが言ってくれた。





「今より良くしようと努力する姿勢は良いことだと思うぜ。したいようにやってみりゃいいさ。だが、何でもかんでも話すこたーねえぞ。先のわかってる未来なんて面白くねーからな」

「う、うん。そうだね。まだ色々考えてる部分も多いけど、とりあえずは悪いように転がらないよう注意していきたいなって。あたしの知らない未来になっていく可能性だってあるし、まあ、助言くらいなものだから。あくまで未来がどう動くかは皆次第。だからあたしも皆の未来が少しでも明るくなるように頑張りたいんだ」

「へっ、そりゃ心強いこって。ま、お前が口にしたいと思ったことだけ口にしていきゃいいさ」

「…うん!」





シドも笑ってくれた。
皆も、あたしに優しい顔を向けてくれた。

皆、あたしの大それた話を受け止めてくれた。

あたしはクラウドとティファに目を向けた。

ふたりはあたしに頷きをくれた。
それは、「よかったね」と言うかのような。





「…じゃあ、皆…改めて、よろしくお願いします!」





あたしはバッと頭を下げた。

そして…顔を上げたとき。
あたしは心の底から笑みを浮かべる事が出来ていた。



To be continued


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