Grip | ナノ



自らをセトラと呼び、数千年の昔に生き、今は歴史の中に埋もれてしまった種族――古代種。

古代種は『約束の地』を教えてくれる。
エアリスは、その古代種の生き残りである。



逃走に失敗し、縛られた状態でプレジデント神羅の前に晒されたあたしたち。

そこで、そんな話を聞かされたのは…つい先ほどの事。
その話は…あたしにとってはよく知った情報ではあったけど…。

でも、この降りかかる流れを追い、あたしも有益な色んな情報を手にすることが叶った。


ここは、やはりFF7の世界。
しかも時間軸的には、本編の神羅ビル侵入時のミッションにあたること。

そして…。





「あの」

「え、あ!は、はい!」

「あ、ご、ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけど…」

「い、いえ…こっちこそ、ごめんなさい…。ちょっと考え事してて…」





部屋の隅っこに座って、ぼんやり考え事してたあたしに声を掛けてくれたのはティファ。
それと、青い空の様な瞳が視線だけをよこし、こちらをじっと見ている。

…今、あたしはクラウドとティファと一緒に独房に閉じ込められていた。





「貴女、ナマエって言うのよね?」

「は、はい。そうです」

「自己紹介がまだだったよね。私はティファ。それと、そこにいるのが…。ほら、ちゃんと自己紹介して!」

「…クラウドだ」

「あ、はい。どうもご丁寧に…ティファ、クラウド」





存じ上げております…とは流石に言えない。

あたしは座ったまま、ふたりにキチンと向き直って頭を下げた。

…正直な話、あたしはFF7は相当繰り返した。
自分でも本当、相当だなって思うくらい…には。

だから記憶に間違いは無いと思う。

確か、神羅ビルで独房に閉じ込められた時の配置は…一番通路に近い端の部屋にエアリス。真ん中にクラウド、ティファ。一番奥にバレットとレッドXIIIだった。

つまりクラウドとティファと一緒に閉じ込められているあたしは、仲間に挟まれた真ん中の部屋にいる…と言う事になる。

あたしとエアリス、レッドXIIIは宝条博士から見れば実験サンプルには違いない。
だけどやっぱりエアリスだけは特別、なのだと思う。

だからこの配置にされたのだろう。





「あの、ふたりはエアリスを助けに…来たんですよね」





何だか、ちょっと白々しいと思った。

でも順番はちゃんと踏まなきゃなきゃならない。
少しだけ可笑しかった。





「ええ、エアリスが攫われちゃったのは…私たちにも責任があったから」

「そうなんですか…?」

「ちょっと色々あってね」





マリンの安全と引き換え、だったよね。
わかってること聞くの、やっぱり変な感じだった。





「それはともかく…、あんたはどうして神羅に捕まってる?」

「ああ、はい…」





クラウドにそう問いかけられた。

彼らにとって、この部屋にいる得体の知れない人物はあたしだけ。
それは当然の疑問のはずだ。だから、あたしのわかる範囲で応えることにした。





「あたし自身にも、よくはわかりません。あたしは別に…エアリスみたいに何か不思議な力があるわけじゃないし。ただ、話によると、極端に魔力が少ないそうです」

「魔力が少ないだと?」

「はい。何の利益になるのか知りませんけど、いや、ならないのかもしれない。ただ…あの宝条博士の興味を惹いてしまったようです」

「そうか…」





クラウドは納得してくれたようだ。

するとその直後、隣の部屋からコンコン…とノックのような音が聞こえてきた。





「クラウド…そこにいるの?」





壁に寄りかかり話していたクラウドの声が隣の部屋に届いたらしい。

壁越しで少しくぐもった声。
でも誰かを判別するには十分だった。





「エアリス!?大丈夫か?」

「うん、大丈夫。きっとクラウドが来てくれるって思ってた」





皆、エアリスの身を案じていた。
場所がわかったところで、クラウドは安堵したようだった。





「ボディーガード、依頼しただろ?」

「報酬はデート1回、だったよね?」





くすり、と笑いながらそう言うエアリスは何だか楽しそうだった。
でもその会話を聞き、ぽつ…と呟いたのは黒髪の彼女。





「…なるほど」

「…!?、ティファ!?ティファもそこにいるの!?」

「…すいませんねえ」





う、わあ…。

凄い…。生で見てしまった。
クラウドと、彼を挟む美女2人…。

画面越しに、見慣れた会話ではあるけど、なんとなく苦笑いが零れた。
でも同時にちょっと感動してしまった自分もいる。

…それと、ちょっと寂しいから自己主張しておこうかな…。





「エアリス、あたしもいるんだ」

「あっ、ナマエ…!!良かった…、心配してたの…!」

「…ありがとう、エアリス」





心からホッとしてくれたようなエアリスの声。
それを聞いて、少し嬉しくなった。

そしてエアリスは前に話した通り、クラウドにあたしのことを話してくれた。





「ねえ…クラウド、さっきも話したけど、ナマエもね、ここに捕まってたの」

「ああ、今本人から聞いた」

「そっか。なら…さっきも少し話したけど、ナマエのことも助けてあげたいの。お願い、出来る?」





それを聞くと、クラウドはこっちに視線を戻してきた。
少しだけ心臓がどきりとした。





「あ、あの…あたし、」

「…一応確認するが、あんたはどうなんだ?」

「え…?」

「逃げ出す気、あるのか。ないのか」





意思確認と問われ、あたしはすぐに頷いた。





「い、いたくないです…!でも…」





いたくない。そんなの当たり前。

…今はまだ採血くらいで、何かを飲まされるとか注射されたとか、そういったことはない。
だけど…この先はどうかわからない。ううん、考えたくもない。

逃げ出すチャンスがあるとしたら、クラウド達の混乱に紛れるしかない。
それはずっと思ってた。でも、あたしがついていったら、彼らにとっては確実に重りだよな…とそんな考えも、ちょっと過った。

…この世界にいるのなら、行動はクラウド達と共にしたい。

そんな欲も、ちょっと…いや、本当はかなり覗いてる。
だって…あたしはこの世界が大好きだったから。
行ってみたいな、会ってみたいな、そんなことを思ったの何度だってある。

でもいざ、本当にそんな状況に直面したら…その希望を望むには、自分の力量があまりに乏しいのも自覚していた。

だって、ここに来て…採血時にさされた針。抵抗した時に叩かれた痕。
それらの痛みが、とっくに夢じゃないと、これが現実だと告げていたから。

了承してもらえるのかと言う不安が募った。




「クラウド、私からもお願い。私も、助けてあげたいわ」

「ティファ?」





その時、ティファも助け舟を出してくれた。
あたしとクラウドは視線をティファに向ける。

ティファは、あたしの腕を取った。
そして触れてなぞったのは、赤くなった痣の部分。





「これ…どうしたの?」

「あ、ちょっと抵抗した時に」

「やっぱり…。それにこのカーゼ、採血でしょう?」

「…はい」





頷くと、ティファは少し顔を歪めた。
…こんなにも思ってくれる彼女は、とても優しいと感じた。

でも、あたしの傷はともかく。
あたしはそっとティファの頬に触れた。





「…ナマエ?」

「あたしよりティファも…。これ、戦闘で、ですよね?」

「あ…」





小さな赤みを帯びたティファの頬。
恐らく、ここに来るまでにあった戦闘で負ったものだろう。

それはリアルに痛々しくて、あたしは申し訳ない気持ちを確かに感じてた。





「ううん、私は大丈夫よ。平気」

「でも…さっきあたしとエアリス連れて逃げてくれたときも戦ってくれたし。美人なのに傷が残ったら大変…」

「えっ?…ふふっ、何言ってるの?」





ティファは小さく噴出すように笑った。

いやでも…ティファは本当に美人だった。
これはニブルヘイム中の男の子が夢中になってしまったのもわかると言うか…。

なんというか…目の保養である。

笑ったティファは、触れたあたしの手の上からそっと自分の手を重ねた。
そして、じっとあたしを見つめると決意したような目をした。





「ふふ、ザンガン流格闘術は強いのよ?ありがとう、心配してくれて。でもナマエこそ可愛いんだから、気をつけなくちゃ」

「お、お世辞をありがとう…」

「もう、お世辞じゃないわよ。うん、全然悪い子には見えない。…ねえ、クラウド?」

「…わかった」





ティファが目配せをすると、クラウドは頷いた。
えっと…この頷きって、つまり?


あたしは恐る恐るクラウドに首をかしげた。





「あ、あの?」

「…別にひとり増えようと変わらない。あんたのことも逃がすさ」





そっけない口調。
だけどそれを聞いたら、自分でも驚くほど胸の中に溢れる様なものがあった。





「あ、ありがとうございます…!」





それは感謝の気持ち。
返せる者の無いあたしはとにかく頭を下げた。

するとティファに少し笑われた。





「ふふふ、大袈裟ね。ナマエ。そうだ、ナマエっていくつなの?」

「え、二十歳ですけど…」

「なんだ!同い年じゃない!だったら尚更ね。敬語なんていらないわ」





ティファは微笑む。
そしてクラウドにも同意を求めた。





「ね、クラウドもそう思うでしょ?」

「…俺は別に何でもいい。けど、そうだな…堅苦しい気がしないでもない」

「クラウド…ティファ…」

「ふふ、いいじゃない。私とは普通に話してるし、ね?」

「エアリス…」





壁からエアリスの笑い声も聞こえた。
あたしはぎゅっと手を握って、こくりと頷いた。





「わかった、よろしくね」





少しだけ、光が見えた様な気がした。



To be continued


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