Grip | ナノ



吹きつける。
冷たい白い欠片。

落ちては重なり、積っていく。

あたしはそれを、窓の外からぼーっと眺めていた。

ここは、あたたかい。
指先やつま先はまだ少し冷たいけれど、少しずつあたたまっていく。

アイシクルロッジを経ち、足早に進んだ雪原。
進み続けた先、あたしたちはひとつの小屋を見つけた。

登山家ホルゾフ。
それが、この小屋の主の名前。

そう…ここは、絶壁を目の前に休むことのできる最後の場所。





《オオッ、これは珍しい!人に会ったのは何年振りだろう…。私の名はホルゾフ。この地に住みついて、もう20年だ。よければ向こうの部屋で寂しい山男の独り言を聞いてはくれんか?》





確か、ゲームでは雪原で倒れて保護されるか自力で辿りつけるか…だったかな。

結果は後者だった。
言葉じゃ簡単に言えないくらい大変だったけど…倒れることなく辿りつけて良かったと思う。

ホルゾフは快くあたしたちを受け入れ、食事と暖を与えてくれた。
歩きつかれ、凍えそうな体を休める為…あたしたちは今晩、この小屋でお世話になる事になった。





「ナマエ…、疲れたか?無理してないか?」

「……クラウド」





窓を眺めていたあたしに、優しい声が掛けられる。
振り返ると、そこにはクラウドがいた。

あたしは首を横に振り、視線を外に戻しながら答えた。





「…してないよ。大丈夫」

「…そうか」

「………。」

「……ゆっくり、休めよ。明日は絶壁に登るから…。ホルゾフに絶壁に登る際の注意をいくつか聞いた。結構、厳しいみたいだ」

「…そっか。うん…わかった」

「……じゃあ、まあ、無理はするなよ」





クラウドは部屋を出て行った。

…なんだか、凄く…淡白だと思った。

あたし…今まで、クラウドとどんなこと話してたっけ…。

正直、あまり思い出せない…。
でもその理由は、何気ない、他愛のない事…ばかりだったから。

そう言う話を、いつも気兼ねなく話してた。

…特に何かを考えることなく、すらすらと…いくつも言葉を交わしていた。


…今も、中身は特にない…。
それは一緒だけど…でも、今までとは違う。

空気が、冷えている…。

敢えて言うなら…そんな感じ…。

…感じって…。
あたしが、そう…してるんだよな。





「おうおう、やけにしけた面してんじゃねえかよ」

「……!」




その時、また声がした。
でもクラウドじゃない。別の声。

振り返ると、ゴーグルが光った。





「シド…?」

「おう」





そこにいたのはシドだった。

ちょっと予想外。
思わず目を見開く。

すると、シドは何かにあきれた様に大きくため息をついた。





「今そこですれ違ったクラウドも重っ苦しい面しやがってよ。ったく…。ま、あいつは元から明るいタイプにも見えねえが」

「…はは…」

「もともと多くはねえ口数が更に少なくなった。必要な事以外話そうとしやしねえ。…色々、思う事があるんだろうよ。俺様にだって気持ちがわからねえわけじゃねえ」

「……うん」





確かに、忘らるる都での一件から…クラウドは前よりも口数が減った。
シドの言う通り…本当に、必要な事以外、口を開かなくなった。

皆も…掛ける言葉は少なからず選んで接するようになった気がする。





「でもよ、お前には少なからず気をやってるぜ」

「……そんなこと、無いよ」

「カーッ!おめー、そりゃ天然か?それともわざとか?どっちにしろタチ悪ィな!」





シドが頭を抱えた。抱えて、ガシガシ掻く。
そして、呆れたように息を吐いた。





「…お前も何か思う事があるんだろうよ。お前も、クラウドに負けず劣らず口数が減ったからな」

「………。」

「俺はこの面子ん中じゃ一番日が浅え。お前らの事、まだ理解出来てねえ部分も多い。けどよ、最後に入ったからこそわかった事もある」

「…最後に入ったからこそ…?」

「既によ、出来あがってる空気ってのがあるだろ。そういうもんがよく見えんだよ。んで、見たところ…、お前がひとりでいる姿ってのを、あまり見てねえんだよな」

「……え…?」

「他人ってのはよ、勿論相性だなんだって話もあるだろうが、少なからず自分を気遣ってくれてるって感じた奴には好意的な感情を持つもんじゃねえか?お前はそういう気遣いってのが出来てるように見えた」

「………。」





シドの言葉に、俯く…。

気遣い?…違う。

…あたしのそれは…きっと、違う…。
あたしは…ただ…知ってるだけ…。

何を思ってるか、何を考えてるのか…。

そういうことを…知ってるだけ。





「まあ、なんだ。慕ってもらえるってのはよ、お前の接し方の結果だ。人間ってのは、切羽詰まった時にどうでもいい奴に構うほど出来ちゃいねえよ。お前を気に掛けてくれる人間はいるんだ。有難いことだと思うぜ。ひとりで居たって良いこともねえだろうよ。だから、まあ…そう無下にはしてやるな。こういう時だからこそな」

「………。」

「じゃあな、俺は一眠りしてくるぜ」





そう言ってシドは扉を閉めた。

また、部屋が静かになる。
シドの言葉を、頭の中で繰り返した。

…シドの言っている意味は、わかった…と思う。

クラウドは口数が減った。
…でも、こうして…声を掛けてくれる。

気遣ってくれてる。
なのに…あたしは、誰に近づくこともしない。

淡白に返事して、顔を埋めて…まるで、他人も近づけないようにしてる。

だって…。





「……考え…たよ…」





小さく呟く。
風の音にも負けてしまいそうなくらいな声で。

…考えた…。

あたしは、本当はここに居ない方がいい…。





「い…や、だ…」




頭に光る光景。

水の中、ぼやけた視界に映った刃。
ピンク色が染まっていく…どんどん、どんどん…。

怖くて頭を抱える。

やだ、もう嫌だ…。
怖い、怖い、怖い…。

まだ…この先にある未来は…辛く険しく苦しい…。
でも、もう誰も死なない…。

死んでしまったら…何もかも終わっちゃう…。





「…それ以上に、怖いことなんか無いよ…」





膝を抱えて、蹲った。

だからもう、余計な事したくない…。
皆が死ななきゃ、それでいい…。

だから異物は大人しくしていればいい。

本当はあたしが旅をやめればいい話かもしれない。
でも、この世界でひとりになって、どうすればいいかわからない…。
帰る方法も、わからない…。

弱い自分。

だけど、あるべきまま。
あたしの知ってる、正しい未来を紡ぐ…。

もう、それ以外に望む事なんて…あたしにはもう、なかった。



To be continued


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