「ここは…エアリスの家、か」
埃にまみれたひとつの家。
もう人がいなくなってどれくらいなのか…そう思わせられる雰囲気だ。
ドアの外には白い景色が広がっている。
アイシクルロッジ。北の最後の街。
忘らるる都を抜けた俺たちは今、ここで更に北へ向かう為の準備を整えていた。
そんな中、俺はひとり…とある一軒の家を覗いていた。
いつもながら情報を集めるために建物を回っていたに過ぎないが…その家には興味をひくものが置いてあった。
人はいない。話を聞く事が出来ない代わりにそこにあったのは…いくつかのビデオ。
【(昔の)星の危機】
【ウェポンとは?】
【プライベート】
星の危機…。
その単語を見た瞬間、肌がざわめいた。
再生してみて、その予感は的中した。
映っていたのはイファルナという女性と科学者の風貌をした男。
何か、記録を残していたのだろう。
そこに語られていたもの…それは古代種や星、空から来た災厄。
どれもこれも、俺たちが求めていた情報ばかり。
そして…この二人が、エアリスの両親であったこと。
古代種である母イファルナと、赤子のエアリスは宝条に攫われ…そして、父親であるガスト博士がこの場所で殺された事も知った。
「くそ…」
知った真実に、俺は拳を叩いた。
やり場のない…どうしようもない感情が溢れて止まらない。
エアリス…。
俺の目の前で、セフィロスに貫かれた…。
故郷を目前に…彼女は命を落としたのか…。
俺は…目の前に居たというのに…何も出来なかった…。
それに…ナマエの事だって…。
ナマエも…セフィロスに殺されかけた…。
それを助けたのは…エアリスだった。
あんなに近くにいたのに…俺は…何をしていたんだ…。
どうしてセフィロスの傍だと…俺はおかしくなる。
こんなんじゃ…何も、守れない…。
頼ってくれなんて…言えないじゃないか…。
《…ごめん…なさ、い……》
涙を零し、震えるナマエの顔が、頭にこびりついて離れない…。
もともと争い事が得意じゃないナマエ。
目の前で起こった悲劇は…ナマエの目にどう映った…?
自分を庇い、命を落とした彼女の姿は…。
いや、でも…ナマエの様子は…どこかおかしかった。
《……違うの…あたし…、》
俺が「ナマエのせいじゃない」と否定すると、ナマエは「違う」と繰り返した。
本当に、ナマエのせいじゃない。
俺を含め、誰もナマエのせいだなんて思っていない。
けど…ナマエは、何か…もっと別の何かを見ている印象を受けた。
それが何なのか…俺にはわからない…。
違う、と繰り返し…。
そして…今度は「ごめんなさい」を繰り返したナマエ。
《ごめ、ん…》
《…え?》
《…ごめん…ごめんなさい…ごめんなさい…》
《ナマエ…、どうしたんだ…》
あの謝罪は…何に向けられていたのだろう。
エアリスのようにも思える…。
でも…俺に対しての様にも思えた…。
もしかしたら…他の誰かの様にも。
だけどやっぱり、俺には答えがわからない…。
そう…分からない事だらけだ。
《…そうか。お前たちはあれの正体に気付いていないのだったな》
《いや…それは私もか。もしもそうであるなら、最高に面白い可能性を消し去るところだったか》
《クックック…。ならば、庇い立てたそこの古代種の娘には感謝しなくてはな》
ナマエを見下ろしながら、楽しそうに笑ったセフィロス。
最高に面白い可能性…。エアリスに感謝…?
その言葉から見て取れたのは、ナマエがセフィロスにとって興味深い対象であると言う事。
…なぜだ。どうして、セフィロスは…ナマエを…。
ナマエ…。
あんたは一体…何者なんだ…?
「…ナマエ…」
呟いた、大切な名前。
ああ…それだけで、こんなにも愛しく感じる。
…そう、大切だ…。
ゴールドソーサーのゴンドラの中で、ナマエは俺に言った。
俺たちに秘密にしていることがある。
それは言えない。でも、信頼していないわけじゃない。
本当に大切に思っているから、それだけは信じて欲しいと。
酷く…贅沢な言葉だった。
ナマエから、信頼していると言われたのだ。
俺はそれを…信じようと思えた。
信じたいと思った。
…だから、ナマエが何者でも…俺には関係ない。
ナマエはナマエ。
きっと、それだけだから。
傍にいて欲しいと思う。
俺は、そう思う。
なら…ナマエは?
ナマエは、俺が何者でも…気にしないと言ってくれるだろうか。
「………。」
黙って、己の手のひらを見つめる。
…エアリスを殴った手。
ナマエの首を絞めた手…。
エアリスを、ナマエを…守れなかったこの手…。
「なんなんだ…俺は…」
どうして仲間に手を掛ける…。
どうして自分がわからない…。
自分が恐ろしい…。
俺は、クラウドだ。
元ソルジャー、クラス1st。
ニブルヘイムで育った。
ティファは言っていた。
久しぶりね、と。
だから俺は…ニブルヘイムのクラウドだ。
「クラウド・ストライフだ…」
確かめるように、自分の名前を呟く。
それに…ナマエを想う気持ちは…俺のものだ。
見ていたい…。声が聞きたい…。
笑って欲しい…。傍にいたい…。
頼られたい…。守りたい…。
全部…俺の感情だ。
俺は、人形なんかじゃない…。
ナマエと話すと楽しいと思う。
元から、気兼ねなく話せた。
楽だった。傍にいると…落ち着いた。
だから俺は…ナマエに旅を続けて欲しいと頼んだ。
俺が…俺であれるように。
根拠は無いけど、ナマエがいれば…俺らしくいられると思った。
…ナマエは、自分は旅を止めた方がいいんじゃないかと俯いていた。
でも、行くところが無いからと…旅は続けると言ってくれた。
…酷いな、俺。
行くところが無いと言ったナマエに…ほっとした。
歪んでる…。でも、それほど…傍にいて欲しいと願ってる。
…だから、俺がちゃんと守る。
それに…エアリスが守った命だ…。
だからそれは、エアリスの為にもなる。
必ず…守ろう。
重く苦しい思いの中…。
俺は、そうして気持ちを整理しようとしていた。
《…信じてね。皆と、自分の事も…》
揺れるゴンドラの中…ナマエはそう言ってくれた。
なあ…ナマエ。
俺は、俺を信じて良いんだよな…。
To be continuedd